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「おかしいと思わない? 

意図して避けられてるのは分かるけど、この一週間、私はエミル君の姿すら見ていない。

クラスの子は、確かに出席してるって言ってるのに、ここまで躱されるなんて異常よ

まるで、発信機でもつけられてて、遠くから私の居場所が特定されているみたい。

ねぇ、おかしいと思わない?」


エミルと交流を持とうと、避けられていることを承知で機会をうかがい始めて一週間。

ルルーナの思惑は、ものの見事に外れていた。

まず最初に、全4クラスある内、エミルは一組に対しルルーナは一番離れた4組。

同じ専行である『医療科』では、編入したての為、個別授業。

授業が終わるたびに、エミルのクラスを訪れても、その姿はどこにもなく、探し回っても同じ。

直接家に出向いても、出てくるのはメリルのみ。

ついには、授業中に、仮病を使い、保健室に向かうふりをして、エミルのクラスに乗り込むという反則技を使ったにも拘らず、付き添いのクラスメイトに、強制連行されてしまう始末。


「あぁ、思うな。 いったいどんな図太い神経をしてたら、こんなことができるだ?」


怒りを通り越して呆れた声で、『兵隊科』の訓練場に足を運んできたルルーナに、カルロは問いかけた。

男女比9:1の『兵隊科』には、基本的にむさ苦しい男どもと、その男どもと訓練を共にする少数の女傑しかいない。

野太い雄叫びに、苦痛に悶える声、物々しい戦闘音が基本の、訓練場に、『兵隊科』でもない女生徒が、平然と訪れ、関わるなと言ったカルロを呼び出し、疑問を問いかけているのだ。

図太いを通り越して図々しい態度に、流石のカルロも呆れてものも言えなくなっていた。


「でも、納得してないなら関わっていいと言ったのは、カルロ君でしょ?」


「随分、都合のいい解釈をする耳がついてるみたいだな。

それとも、あんな分かりやすい、言葉の裏を読めないほど、低い知能しか持ってないなんて言わねぇよな」


「好奇心は、あんなに可愛い猫ちゃんの命より優先されるんだよ」


「だったら、尚の事、エミルには合わせられねぇな。

一つだけ、教えておいてやる、エミルは、無類の猫好きなんだ」


強制的に話を打ち切り、ルルーナに背を向ける。

しかし、この展開は、ルルーナも予測していた通り。

ここまで、図々しい態度をとる女に、親友を売る馬鹿がどこにいるというのか。

価値観こそ歪んでいるが、肌に合わないとはいえ常識くらい弁えている、ルルーナは、交渉の材料を切った。


「いいの? 私は、エミル君と会うまで絶対に納得しない。

ずっと、付き纏われるよりも、ここまで完璧に私を躱し続けている絡繰りを教えて、納得させたほうが、カルロ君にとっても、悪い話じゃないでしょ」


兄である、ルギニアを巻き込まないと宣言した通り、ルギニアの力を借りるつもりはない。

だが、規格外のルギニアがもたらす影響まで、手放すつもりは毛頭ないのだ。

付き纏う、ルルーナを力づくで大人しくさせようとすれば、ルギニアが黙ってはいない。

無論、義理堅いルギニアが、対立の原因となっているルルーナを必要以上に庇うことはないが、それでも、対立することは避けたいと言わせるのが、ルギニアという男なのだ。

故に、この論理性の欠片もなく、交渉とすらいえない杜撰な取引だとしても、カルロは応じざるを得ない。


「―――――――似てんのは外見だけだな」


想いでの中にいる、エミルの姉であるアーシャは、なにを先置いてもエミルが先に来ていた。

あまりに干渉しすぎて、ほんの少しの反発されただけで、涙ぐみながら引きこもってしまうほどに、エミルを愛し大切にしていた。

ついでに言えば、目の前の少女程、ずれた感性も、図太い神経も持っていない、どが過ぎたブラコン以外はいたって普通の人間だ。

だからこそ、カルロは、安どの溜息をついた。


「いいぜ、教えてやるよ、あんたがエミルに撒かれ続けている絡繰りをな。

まぁ、教えるまでもなく、答えの半分は、さっき口にしてたけどな」


「―――――――発信機なんて、着けられてないけど?」


「あぁ、だが、居場所を知るなら、そんな仰々しい物なんていらねぇだろ?

今時、どこにでも当たり前のようにあるもの――――――――――――――――例えば、監視カメラとかな」


防犯のために、学園だけではなく、通学路にも張り巡らされている、監視カメラ。

確かに、その映像を見ることができれば、ルルーナを撒くことなんて、容易いだろう。

だが、当然、その解答には、次の疑問がわいてくる。


「ついでに言っておくと、ここら一体の動物は、基本的にエミルの味方だ。

鳥の一羽にでも見られたら、監視カメラなんてなくとも、居場所なんてまるわかりだ」


「――――――動物と意思疎通ができる?

顔に似合わず、随分メルヘン思考なんだね」


「あぁ、あいつと付き合ってれば嫌でもな。

だが、本当かどうか気になるなら、野良猫でもいいし、飼い犬でもいい、近づいてみろ。

この街で、エミルの機嫌を損ねた奴は、ペットを飼えねえってのは、割と有名な話だぜ」


「ふーん。それじゃあ、賢いワンちゃん達が、カメラの映像を見張っているなんて言うつもりなんだ」


まずい、と、軽薄な受け答えをしつつも、ルルーナは内心、焦りを覚える。

交渉とすら呼べない、見方によれば脅迫にもとられかねない取引故に、優位性はルルーナにあった。

しかし、今、主導権を握っているのは、カルロだ。

見た目に騙され、心のどこかで侮っていた慢心が、焦りに変わり、軌道修正の機会を伺うが、カルロの前に立った・・・・・・・・・時点で・・・、それはすべてが遅かった。


「飼い犬って意味じゃ、間違いじゃねぇな。

飼い主は、この学園の設立者、アルヴィル家の令嬢でな。

エミルには、ちょっとしたツテがあって、協力してもらってるんだよ」


「――――――アルヴィル家……だとしたら、私が別のクラスになったことも、個別授業を受けさせられていることも、手のひら上ってことなんだね……

なるほどね・・・・・、上手く躱されるわけだよ」


無論、いくらアルヴィル家の令嬢とはいえ、ただの学生が、学園の経営方針にまで口を出せるはずがない。

しかし、一生徒のクラスや処遇程度ならば、極端なモノでなければ、捻じ曲げることもできる。

ついでに言えば、ルルーナの強行を止めたのも、学園に潜り込んでいる、エルスの手駒の一人。

そして、ルルーナの行動を逐一把握しているエルスが、この状況を想定しないはずがない。


「――――――――っち、やっぱり・・・・、知ってやがるのか」


「―――――――なにを言って……」


「喜べ、普通なら絶対に叶わない面会だぞ」


確信した台詞に、ドクンと、心臓が跳ねあがる。

とっさに出た疑問はカルロの言葉により遮られ、次の予定が強制的に埋められた




「あの姫さんが、直々に会うなんざ、エミルを除けば、あんたが初だ。

上手く交渉が運べば、アルヴィル家がエミルとの対面をセッティングしてくれるかもしれないぞ」






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