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「――――――納得いかない……」


それは吸血鬼騒動の熱も収まった、夏休み直前の試験の結果が返却されたときの事。

当然のように集まっているローウェン兄妹と、新たな住人として馴染んだノエリアが食卓を囲んでいる中、屈辱を滲ませた声で、試験の結果を見比べてていた。


「如何にも不良面した悪人顔のカルロ君が、どうして、こんなに成績がいいのッ!・」


バン、と机に叩きつけられたカルロとルルーナの成績表は、僅差ながらカルロの方が上回っていた。

専門教科は別々の二人ではあるが、一般教科においては、専門クラスなど関係なく成績順に含まれ、その数は1学年で300を超える。

その中でルルーナは33位、そして、カルロは29位。

アルヴィル家が出資しているアーシェル学園は、その施設設備の豊富さから倍率が高く、当然、求められるレベルも高い。

その中で上位に入っている二人は十分に成績面では優秀と言えるだろう。

ちなみに、学年は違うが、現実逃避気味に料理を掻き込んでいるルギニアは堂々の最下位である。


「馬鹿かお前は。俺は見習いとはいえ、あの姫さんの私兵だぞ。生半可な成績でいられるわけねぇだろうが」


カルロに求められる資質は学業ではないとはいえ、エルスの私兵はその全てが精鋭揃い。

文武両道は当然、そこからさらに秀でた者でなければ勤まらない、アルヴィル家の部隊でも屈指の精鋭。

その部隊に、見習いでありながらも学生で配属されるカルロの能力は、当然のことながら頭一つ抜けている。


「うわぁ……ロングベル君もすごいんだぁ……」


「あはは……近くにもっとすごい人がいるから、あんまり自慢できないんだけどね」


学年8位。名高きアーシェル学園でも、アルヴィル家が支援を申し出る秀才。

もっとも。それほどの秀才でも、学業と言う分野はエミルの領分ではない。


「―――――――全教科……満点……?」


ルルーナが震える手で0が並ぶ成績表を凝視するが、当の本人は特に喜ぶこともなく、淡々としている。

いつもの様に、人によっては見るのも嫌がるような分厚い本のページを捲る、メリルは、生まれてから一度たりとも学業において1位以外を取ったことはない。

満点以外を取ったことがない以上、1位以外の順位になるはずもないのだから。


「ちなみに、エルスも毎回満点だから、メリルたちの学年は2位がいないんだ。凄いよね」


「――――これは、私の領分ですから」


学業と言うよりも、メリルが求めているのは、如何なる状況においても、正確な判断が出せる知識だ。

学業の成績はその副作用に過ぎないが、どうであれ、学生の身でありながら研究所一つを任されているあたり、メリルも学生と言う領分を遥かに超えた逸材であることは言うまでもない。


「ちなみに、ロングベル君の領分って?」


「僕には2人みたいに自慢できることはないから、2人のできないことのサポートかな」


何でもないことのように言うエミルに、いまいち理解が及ばないルルーナ。

しかし、メリルが知恵を出し、カルロがそれを組み立て実践する為の、土台である情報収集から、家事全般、機械装置のメンテ、エミルが担う分野は多岐に渡る。

なによりも、カルロとメリルの天才2人を差し置き、そのグループの中心人物であり、エルスさえ心を開く、カリスマ性は、決して真似できるものでもなければ、努力でどうこうなる才能ではない。


「強いてあげるなら、恐ろしいまでの強運ですね。

兄さんの膝で丸まっているノエリアが、良い証拠です」


どんなに頼み込んでも、頑なに猫の姿になることを拒んでいたノエリアだが、今は、不貞腐れたように猫の姿となって、エミルの膝上で丸くなっている。

その原因は、ノエリアが挑んだカードゲーム。

ことの発端は、カルロがさり気なく口にした、エミルの女装姿に始まる。

当然、エミルは嫌がるが、ノエリアは興味津々といった風に、エミルに迫った。

そこで、カルロがカードを取り出し提案したは、敗者は勝者言うことを聞くという、ありきたりの賭け事。


「―――――そんなに強いの?ロングベル君って、素直だからすぐに表情とかに出そうだけど」


「なんなら、やってみるか?エミルに勝てれば、今までの事を土下座して謝ってやるよ」


これまで、掌で踊らされ、幾つもの屈辱を味わってきたルルーナは、安い挑発に乗り、テーブルに着いた。

種目はブラックジャック。配られるカードの数値の合計を21に近づける単純なゲームだ。


「ルールは単純、取れる行動はヒットかスタンドのみ。

10回やって、勝ち数の多いほうが勝利だ。質問はあるか?」


「ディーラーは私がやってもいい?」


「あぁ、イカサマ疑われんのも癪だしな」


数学的な確率でいば、ブラックジャックと言うゲームはディーラーの方が有利だと言われている。

もっとも、ルルーナにそこまでの計算はなく、単純にカルロのイカサマを警戒してのことだが、ノエリアも見事に嵌められた様に、エミルと運の要素が絡むカードゲームに持ち込んだ時点でカルロの思惑に嵌まっていることに、誰もがこの時点では気付かない。


「――――――負けました……」


がっくりと肩を落とすルルーナと、苦笑いのエミル。

結果は、10回勝負の3セット、その全てがエミルの圧勝。

初手で21を揃えるナチュラルブラックジャックが4割を超え、ヒットで21を揃えること4割、残る2割で勝つこともありはしたが、全体で見ると惨敗もいいところ。

そもそも、8割もの確率で最強手を揃えてくる相手に、作戦もなにもない。

神に愛された豪運に挑むこと自体が悪手。

それを知らなかったノエリアとルルーナに最初から勝ち目はなかったのだ。


「それじゃ、明日、9時に学校に集合な」


「―――――はぁ!?」


「ちょうど、明日、人手が必要でな。賭けに負けたんだ、協力してもらうぞ」


「後から条件を付けくわえるなんてずるいじゃない!」


「あー、うるせぇ。ただ飯食らいに拒否権なんざねぇよ。それとも、今まで、俺に負けた回数教えてやろうか」


「―――うぐっ……分かった。けど、休日の学校なんかに行って、何するの?」


「あぁ、そいつは――――――――――」
















「――――――暑い……」


「ごめんね、ルルーナさん。手伝ってもらって」


「ううん、気にしないで。悪いのは、全部あの男だから」


「おら、ペラペラ口を働かせてないで、手を動かせ」


じりじりと照り付ける太陽の下、学校に集まったエミルたちは、広いグラウンドの草むしりに勤しんでいた。

照り付ける日光をグラウンドが反射し、立っているだけで汗が噴き出る猛暑日。

汗と暑さで募る苛立ちを視線に乗せ、カルロに向けるが、微塵も気にすることなく、黙々と雑草を抓んでいく。

その中で一人、人外じみた動きで、十人分以上の働きを見せていた。


「流石は人間兵器。態々、釣った買いがあったな」


「――――釣ったって……もしかして、あの勝負は……」


「今頃気付いたのか?もしかしてなくても、こんな体力仕事、体力自慢の兄、目当てに決まってんだろ」


「そんな手間をかけなくても、ルギニアさんなら頼めば来てくれたと思うけど……」


「念には念を入れてだ。メリルの奴は、こんな猛暑の中で作業なんてさせられねぇからな。

ついでに、女手とはいえ、人手はあったに越したことはねぇ」


「――――私にも、少しはその優しさを分けてもいいと思う……」


メリルが自然に話題に持ち出したエミルの豪運から、罠の始まり。

そこから流れるように、カルロが勝負の話を持ち出し、ルルーナを嵌め、体力の少ないメリルの代用員を確保。

結局、再び嵌められてしまった、ルルーナは恨みがましい視線を向ける以外、報復の手段はないが、そんな視線で揺らぐカルロではなく、溜息をつき、再び作業へと戻ろうしたとき、学園の方から歩いてくる影があった。


「みなさん、ご苦労様です」


最近、美人や美少女ばかり目にしているため、目が肥えているルルーナの目にも美人に映る少女。

同年代の女子としては身長が高いルルーナよりも頭一つ高く、男子と混ざっても高身長。

たれ目と。赤の混じった茶色の髪の毛を緩く巻き、柔和な雰囲気を醸し出している、その少女は、冷たいジュースの入ったクーラーボックスをエミルに手渡した。


「ティアさん、いつもありがとうございます」


「こちらこそ、いつも学園の為にありがとう。エミル君」


和やかに談笑しているエミルと少女から離れ、まったく気にしていない、カルロに少女の正体を尋ねた。


「うちの生徒会長だよ。そんなことも知らねぇのか?」


「今年から編入してきたんだから、仕方ないでしょ……

で、その生徒会長さんが、どうして、差し入れを?」


「教えてやってもいいが、俺に勝ちたきゃ、少しは想像力を膨らませるこったな。

いい加減張り合いがなくてな。弱い者いじめは趣味じゃねぇんだ」


「あぁ、そうですか!」


いつもの様に適当にあしらわれ、憤慨しながらも、思考を巡らせるが、情報が少なすぎて結論など出るはずもなく、かといって、負けを認めるのも癪なルルーナは、答えの出ない堂々巡りへと陥る。

そんな時、エミルが生徒会長を伴い、カルロの元へと歩み寄っていた。


「ティアさんが、頼みたいことがあるんだって」


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