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私の緑のドアはここですか?  作者: ひさし
真夏の夜に蠢く影
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「――――――愚かな!貴様の浅はかな憎しみで、種を滅ぼす気つもりか!

例え、奇跡が起こり、人間に勝てたとして、その先の未来がどうなるか、分からぬわけではなかろう!」


都合よく人間に勝つことができても、その先の未来は暗黒でしかない。

多くの種族が絶妙なバランスで平和を維持できているのも、人間の政治力あってこそだ。

森精霊エルフ小人ドワーフ海人形セイレーン人狼ワーフルフ龍種ドラグーン翼人ハーピー妖精フェアリー・天使、そして吸血鬼。

この世界に多く存在する種族、そこからさらに細かく分類される者達の多くが、少なくとも表面的には有効な関係を保っている。

そのバランスを担う人間が消えれば、待っているのは血を血で洗う戦争。

個体数の少ない吸血鬼など、必然的に、この世界から消え去るだろう。


「浅はかなのは、貴様だノーヴェンリシア。

言っただろう、俺は人間を敵として見ていると。

見るがいい!純血さえ易々と斬り貫く不死殺しの剣を!貴様にさえ知覚されない完全な隠密性を有する兜を!」


得意げに語るグリンハルドの言葉の前に、当然不審に思ってはいた。

偽物如きで、純血が有する不死性を破れるはずもなければ、音も気配も、持っている武器すら完全に隠匿することなどできるはずがない。

しかし、その本物が、誰にも知られることなく都合よく手に入る――――――?

それも、その原典が神器であるのならば尚の事、神の遣いである、天使が介入してこないはずがない。


「―――――――まさか……!」


だが、一つだけ、あまりにも馬鹿らしく考慮にすら値しない可能性がある。

ノエリアの不死性を打ち破り、完全な隠匿を可能としながらも、神器ではない紛い物という条件を満たす、たった一つの僅かな可能性。


「そうだとも。これらは全て贋作。真作に迫り凌駕する程の力を持った、新たな力だ!

その力の源がこの街に存在する!それさえあれば、天使はおろか龍ですら、神ですら恐れるに足らん!」


この世に生を受け千年を超え、世界中を旅するノエリアとはいえ、実際にその眼にしなければ、否、実際目にしている今でさえ、半信半疑であり、とても信じられる言葉ではない。

だが、と、力の入らない脚にを奮い立たせ、強引に立ち上がる。

槍を振るう腕は切り裂かれ、体を支える片足は貫かれた、今、混血はまだしも、同じ純血であるグリンハルドを倒すことは不可能だろう。


「――――――ならば、尚の事、貴様らを生かして返すわけにはいかんな。

死ぬのは貴様も同じだ、グリンハルド!片手片足をもいで勝ったつもりではあるまいな!」


「―――――ハッ!命乞いするのであれば傘下に加えてやろうと思ったが、やはり、貴様はここで死ね!」


グリンハルドの言葉で、臆していた混血達は、傷ついたノエリアに牙をむいて襲い掛かる。

先ほどと同じ、混戦に紛れて、ノエリアを不意討つつもりだろう。

万全の状態ならばともかく、全力の半分も出せない状況で、防ぐ方法はない。


―――――――――だが、刺し違えても、貴様にはここで死んでもらおう


迫りくる死に恐怖などない。

世界の秩序を護る為、決死の覚悟を決めたノエリアだが、たった一つ思い残したことがあった。


―――――――――すまぬな、エミルよ。メリルよ。約束を果たせなかったことを許せ


最後の最後まで、引き留めようとしたエミルに。

吸血鬼でありながらも、奇異の視線を向けることなく友となったメリルに、心の中で深く謝罪をし、力の入らない腕で槍を握りしめた。

しかし、その決死の覚悟は、突如現れた奇跡によって失われることになった。



「――――――氷槍コールドランス



その光景に、誰もが目を見張った。

力強い声と共に、鋭い氷柱がノエリアを囲むように降り注ぐ。

ノエリアに群がるように、襲い掛かっていた混血達は、なすすべなくその氷柱に押しつぶされ、残る者達も突然の出来事にその足を止め、声の方へと視線を向ける。


「―――よぉ、先日は世話んなったな。お礼参りにきてやったぜ」


そこには、アンバランスな二人の少年。

片や、2mを超えんばかりの長身に、筋骨隆々の鍛えられた大男。

片や、少女と見間違えるほどに華奢な、美少年。

混血の一人とノエリアは、その身知った顔に、別々の意味で驚愕した。


「そ、そなたら、どうしてここに……!」


「―――あぁ?さっき、言ったろ。お礼参りだってな……ったく、行儀の悪い連中だな。――聖結界サンクチュアリ


ノエリアにその半数を処刑されたとはいえ、未だに10を超える混血達は、皆一同にその壁に攻撃を阻まれる。

手に持った剣も、自慢の爪も、数多に煌めく魔法も、全てがその壁を超えることは出来ない。


「―――――てめぇだったよな?舐めた真似してたのは。―――――――煉獄イグニッション


反撃に放たれた爆撃は、標的であった吸血鬼だけはなく、周囲にいた者達をも巻き込み、廃墟の外にまで吹き飛ばされる。

これまでの常識では通用しない非常識の嵐に、思わず夢かとすら疑ってしまう。

真作を凌駕する贋作と同じかそれ以上にありえない、魔法の行使。

元来、魔の者が扱う術を、人間やその他の種族が扱えるように簡略したものが魔法と呼ばれるもの。

吸血鬼もその魔の者の一因ではあるのだが、その純血のノエリアでさえ、何の前準備もなしに、たった一言の言霊で、廃墟の外壁を全壊させるような規模の魔法を行使するなど不可能だ。


「おっと、動くなよ。―――――――閃雷レイヴォルト


その姿を忍ばせようとしていたグリンハルドへ、閃光の如き雷刃が飛来していく。

電熱と光の刃に焼き切られ、膝をついたグリンハルドに、混血達の動きも止まった。

如何なる攻撃も通用しない結界に、純血ですら殺しうる大規模の魔法を次々に放つ相手に、果敢に攻めることができるはずもない。


「―――――エミル、連れて行け」


「うん。頑張って、カルロ」


カルロの合図で、ノエリアを肩に抱え、度重なる戦闘によって外壁が破壊され、月の光が差し込む広場になった場所から離脱する。

それを黙って見送るしかない吸血鬼たち。静まり返った空間に、指の音が鳴ると、エミルたちが通っていた道に氷の絶壁が行く手を塞いだ。


「―――――貴様、何者だ」


焼き切られた傷が修復し、憎悪の視線を向けながらグリンハルドが問うた。

弱小な生物なら殺すことすらできる視線を、凶悪な笑みで受け流し、一歩前に出た。


「悪ぃが、混血だの純血だの、たいそうな冠が付いてるわけじゃねぇんだ。

呼び名に困るってんなら―――――――そうだな、奇術師、とでも呼んでくれ」



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