ゆめちゃん嘘をつく。
ご都合主義で申し訳ございません。
動物の村の入り口には、手に長い棒を持って二本足で立った犬の門番さんが左右にいました。その傍には動物以外立入禁止という立札もありました。しかしゆめちゃんは気にせず門番さんに話しかけます。
「こんにちは。この村に入りたいんですが。」
「何だ!?何でこんなところに人間の子供がいる!?」
「人間は入れないはずなのにどこから入ってきた!!」
ゆめちゃんは門番さんの言葉にニッコリ笑顔を返すと、嬉しそうに話します。
「良かった。ちゃんと人間に見えてますか?耳が出てませんか?尻尾も大丈夫ですよね。」
「何を意味の分からないことを言っている。」
「わたしは東の国から旅をしてきた狐なんです。」
「お前が狐だと?おかしなことを言うな。」
「ああ、このあたりの狐は化けませんか?」
「化けるとは何だ?」
「変化という術なのです。」
ゆめちゃんは、堂々と言い切りました。門番さんたちは意味がつかめていないようです。門番の一人が村長を呼んでくると村の方へ走っていきました。
「人間の中に魔法を使うものがいるのはわかりますか?」
「ああ、魔法使いが近くにいるからな。」
「わたしたちは妖術を使う動物なのです。妖術とは魔法と似ているものだと思ってください。今はその妖術を使って人の子供に変化しているのです。」
「なら、今すぐ元の姿に戻るんだな。そうすれば村に入れてやる。」
それを聞いた門番さんAは鼻で笑うとゆめちゃんに向かって言いました。ゆめちゃんの言うことを全く信じていません。
「それが、元の姿に戻ることはできないんです。」
「そうだろうな。お前は嘘をついている人間の子供だ。元の姿も何もその姿から変わることはできないんだろう。」
「いいえ、わたしは狐なのです。」
「まだそんなことを言うのか!子供だからと言って容赦はしないぞ!!」
門番さんAは声を荒げました。その後ろから門番さんBが村長さんらしき象さん(こちらも二本足で走っています)を連れて戻ってきました。門番さんAはゆめちゃんが人間の子供なのに狐と偽っていると簡単に説明しました。
「村長さんですか?わたしは東の国から来た狐でゆめといいます。実は、わたしは今、同じく東の国から出た狸と勝負をしております。わたしと狸は故郷で左右に分かれ、この世界を一周し、落ち合ったところで変化の術が解けていないか、変化の術の能力を競っているのです。ですので、その門番さんに変化を解けと言われたのですが、それではわたしは狸に負けてしまったことになります。どうか、この姿のまま村に入れていただけないでしょうか。」
村長さんは長い鼻を伸ばしてゆめちゃんの匂いを嗅ぐと、なるほど、と頷きました。
「この間、狐の少年が来たな。あの少年は耳としっぽだけ狐で他は人間の姿だった。あれが変化というものなのだろう。あの少年とこの女の子の匂いは似ている。おそらく、この子も狐なのだろう。」
(少年?異世界の旅人ならこの村に入れるとキットさんは言っていたけれど、その少年も世直しの旅をしたのかしら?)
ゆめちゃんはその少年が気になりました。少年がこの村を訪れているのなら悪役は改心しているはずです。ですが、あの指名手配犯たちは新たにこの村に入ったもの。ということは少年はあの話は正していないということになります。
ゆめちゃんは狐の毛でできたキーホルダーを持っていたので勝算はあったのですが、村長さんに許可されたので、使わなくても村に入ることに成功しました。嘘を重ねるとつじつまを合わせるのが大変になるので、その少年の存在があって幸運だったなとゆめちゃんは思いました。
「あの、ここに村があると親切な狼さんから教えていただいたんですが、狼さんはこの村にいらっしゃいますか?」
「狼!?あの、犯罪者のことか!?」
「犯罪者、ですか?」
「ああ、そうだ。あいつは村長の情けでこの村に入れてもらったくせに、他の動物を食べないというこの村の掟を破りやがった。」
「食べちゃったんですか?」
「いや、未遂だったがな。すぐにばれて即追放だ。」
あの狼さんは確か、ご飯を分けて欲しかったのに追い出されたと言っていました。何か誤解があるようです。その被害者のところへ行けば何か分かるかもしれません。誤解が解ければ狼さんはこの村で生活できるようになるのではないかとゆめちゃんは考え、門番さんに被害者のおうちを聞いて歩き出しました。
・・・・
ゆめちゃんがそのおうちに着くと、中から子供たちの声が聞こえます。ゆめちゃんはそっと開いている窓の下に座りました。
「あー!ヒマだー!!」
「なんか面白いことないかなあ。」
「外に遊びに行こうぜ。」
「何言ってるのよ、ちゃんとお留守番してないとお母さんに怒られるでしょ。」
「そーだよ、この間のことでお母さん余計にカホゴになってるんだからぁ。」
「またあのバカな狼来ないかなあ。あいつで遊ぶの楽しかったのに。」
「ちょっと、声が大きいよ。私たちがしたことがばれちゃったらどうするの。」
「えー。いまさらばれないって。」
何やらきな臭い話が聞こえてきます。ゆめちゃんはこのまま話を聞き続けるか、子供たちから聞き出すか、悩んでいるとまた子供たちが話し始めます。
「でもさぁ。ほんと頭の悪い狼だったよね。」
「お母さんが出かけちゃって寂しいから、お母さんのかっこうをしてくれたら家の中に入れてあげるって言ったらほんとに女装するんだもん。おかしくて。」
「家の中になんか入れるわけないじゃんねー。狼だよ?」
「よっわそーだったけどな。狼だし。」
「でもお母さんはそんなに声低くないって言ったら、気色悪い声だすし、お母さんはそんな黒くないって言ったら白いペンキかぶってくるし、からかうの面白かったよね。」
「ほんとね。いい暇つぶしだったわ。」
「結局大人に連れてかれちゃったけどね。」
「みんなで怖かったんですって泣いたもんね。」
子供たちは笑いながら狼さんが村を追い出された経緯を話してくれました。どう考えても狼さんが被害者です。ゆめちゃんと同じ異世界から来たと思われる男の子はこのお話の悪役を改心させたのではないのでしょうか。疑問が残りますが、とりあえずこの子供たち、『七匹の子ヤギ』をどうにかしないと狼さんは就職できそうにありません。ゆめちゃんは玄関の方に回り、ドアをノックしました。
狐の耳としっぽをつけていた少年はゲートで必要なアイテムをもらえた異世界の少年です。
お読みいただきありがとうございました。