釣られた魚はもがき苦しむ
ここは、夢だろうか。現実だろうか。
目の前にプランとぶら下がっている母は、何も言わない。僕を育ててくれた母は、死んでしまった。
僕の15歳の誕生日だ。赤いランドセルを背負った妹が、元気よく飛び出してくる。けれどもスローモーションで。
ピタリと立ち止まった。妹は糞尿を垂れ流し、目玉の飛び出た女を見て、悲鳴をあげる。
「岬、僕の母さんで、君の母さんだよ」僕は笑った。笑いが止まらない。妹が泣いていて、とても愉快で辛くて、笑うしか無かった。
それを見た妹の岬は、更に泣き喚いている。面白い。面白い。僕は妹を無理やり立ち上がらせて、汚い女の死体に押し付ける。
「嫌あああ!! やめて、やめてえええ!!」金切り声がとても耳に心地が良い。
僕の靴下に、暖かい液体が染みこんでいく。何だろうと見てみると、妹が失禁してしまっていた。その暖かさがとても気持ち良くて、動悸がする。股間にじわりと熱い快感が背筋を伝って脳髄を刺激した。
その内に気づくと、どうやら気を失ってしまったらしく妹も動かない。死体の臭いがして急に怖くなる。なんてことをしてしまったんだろう。かわいい妹に汚い死体の臭いがついてしまったら大変だ。
急いで僕は妹を洗濯機に入れて、洗剤を入れてスタートボタンを押す。母の帰りはいつも遅かったから、洗濯なんてお手の物だ。これで妹も綺麗になる。
そうすると僕はいよいよ一人になって、なんだか寂しくなって酷い排泄物の臭いが立ち込めるリビングに向かう。だらりと舌を垂らした、顔が黒く変色して締りの全くない女の死体を見て思う。
人が死ぬってすごく綺麗だ。口の端から流れでた涎の跡が綺麗で見つめていたのだけれど、何故か急に怖くなって、汚物まみれの床にへたり込んだ。
「あれっ、立てないぞ」と、僕は恐怖する。ガチガチと奥歯が鳴って、全身に寒気がする。耐え難い眠気が僕を襲って、睡魔は僕の意識を飲み込んだ。
「あら、この夢はベクトルが違いますね。空の方向は下ですが、これは丸くなっている。怖かったんだろうねぇ」
青い色の、作業着のおじさんが3人居た。顔はぼやけていて見えないのだけれど、僕の頭を優しく撫でてくれる。
「私等を呼べたのは正解だ。君が沢山のダイアモンドを提供してくれたから。ガラスのバリヤーをミサイルで、ペンシルバニアにある大きなアンテナを壊すことが出来ました。囃しの向こうの森には雑巾の群れ達が貴方を待っていますよ。歓迎は美味しい核融合の原理にありますからね。手遅れですから。」
もう一人のおじさんが僕の手を握って、優しくそう諭した。僕もなんだか気が楽になって、安心した。撫でられる頭がすごく気持ち良くて嬉しい。
「そうそう、私達は綿棒の先の、南のモニターにいつも時計と一緒に居ます。スピーカーは口と同じ動きをするんでね。コントローラーはお腹の中においていきましょうよ!」と、三人目のおじさんは言う。
「「それは名案ですね!」」と声を合わせて二人のおじさんが言う。「えっ? いいんですか?」と私はおじさんたちに聞いた。
「いいんですよ、私達には湯呑みとスタンプカードが有りますから、これで大地へと向かうことが出来ますからね! けれども薬は飲まないことです。」
ううっ、眩しいなぁ。
朝みたいだ。嫌な夢を見た覚えはあるけれど、全く覚えてなかった。僕は凄い寝汗をかいていたけれど、とりあえずベッドから起きだして、目覚まし時計を見ると8時を過ぎていて、「これじゃあ遅刻だよ!!」と驚いて居る隙もなく、学校の制服を着る。
スカートがスースーしていて心地が悪いのはいつものことで、ってスカート?!
あれっ? 何かが全ておかしい! 僕は男で、スカートなんて履かない! それにあるはずの物がない! 胸もそういえばなんだか膨らんでいるし、パジャマもフリルの付いた、男の僕でも可愛らしいと思うようなそんなパジャマだった。
それに僕の部屋の中がすごくファンシーになっていて、ピンクや黄色のぬいぐるみがそこかしこに置いてある。学習机の上には写真立てがあって、僕はその写真を知らなかった。
知らない男の人、無精髭が似合っていて、カッコいい男の人が母の肩を抱いていて、母ももともと美人なのに、さらに可愛く化粧をして楽しそうに笑っている。僕と妹の岬も皆笑っていて、すごく楽しそうなのだ。
僕には、こんなに楽しかった記憶なんて無い。父は事故で死んだって母に聞いていたし、母も仕事で忙しくて、家族で遊びに行った記憶なんて殆ど無い。
一番思い出に残っているのは、天橋立に三人で行った時だったけれども、それも浜辺で僕と岬が遊んでいて、母のもとに帰ったらすごく機嫌が悪くなっていて、それがすごく嫌な気持ちにさせて帰りの電車が憂鬱だった。
でもこの写真、天橋立じゃないか……? きっとケーブルカーで登って、そこの展望デッキみたいなところで撮った写真だ。その写真なら知ってる。
近くに居た老夫婦にカメラを預けて、撮ってもらった写真なのだけど、岬と僕の笑顔も引きつっていて、母の作り笑いもぎこちない、とても不気味な写真だったことを覚えてる。
でも目の前の写真は、羨ましい位に楽しそうで、キラキラと輝いているように見えた。
よくよく部屋を見渡すと、間取りもなんだか違うようで、僕の部屋は二階の一室のようだった。窓の外は、隣の家の灰色の屋根と、青々とした生け垣が見える。
もう一つ窓があって、そっちは家の前の道路が見えて、生活道路みたいで通学中の同い年くらいの子等が、制服でその道を闊歩しているのが見える。
僕が住んでいたのは公営団地の三階で、妹と同じ部屋で二段ベッドに寝ていたはずなのに、何がどうなってしまっているのか分からない。
けれども僕は部屋の構造やタンスの中身を知っているようで、とりあえずタンスからGパンとTシャツを出して着てみる。胸が邪魔で足元が見難いなぁと思ったけれど案外すんなりと着替えは済んだ。
どすどすと音がする。僕にはそれが母の足音だと解って、きっと起きだして来ないからお冠なのだ!
「アキラ! 遅刻するよ!」と、間もなく部屋のドアがバン!と勢い良く開けられ、やっぱり母はお冠だった。
髪の毛はボサボサで、寝間着のままの母だったけれど、身内の目から見ても整った顔立ちだなぁと思う。けれども今は眉間に皺を寄せて青筋を立てていた。
「何! その格好、学校は?!」と母が怒ってまくし立てる。「いや、これは、その……」と僕は言い訳をするけれど、その後直ぐ、知らない男の人が「まあまあ雪美、朝っぱらからそう怒鳴るなって」と母をぐいぐい押しのけて、僕の部屋を覗く。やっぱり無精髭を生やしていて、カッコいい男の人だ。
母を押しのけているようで、でもあまり力を使ってないように見えるのは、それは大人の男の力なんだろう。「もうお父さんったら! 解ったから!!」と、母が階段を降りていったようだ。
「あの…お父さん……?」と、恐る恐る男の人に聞いてみる。「うん? 部屋を覗いても怒らないのか?」と、男の人が言う。
やっぱり、お父さんの、よう? だ?
僕は今まで父の顔も知らなかったというか、知る術がなかったけれど、なんだかとても嬉しくて、胸がワクワクする。中年の男の人なのに、ちょっと格好良い。
「きょ、今日は学校休む!」と僕が言うと、お父さんは「おう、元気そうだけど、あんまり外には出るなよ? センコーに見つかったら怒られるからな、俺も」と悪い笑みを浮かべて、部屋のドアを閉めた。
案外すんなり休むことを許可してもらえたから、僕はなんだか拍子抜けした。見た目も中身もワイルドなお父さんで良かったとも思った。
「とりあえず状況を整理しようか……」と一人学習机にノートを広げて、ペンをくるくる回しながら何から始めるべきかを悩んでいた。
お腹は空いているけど、そんな場合じゃない! だって朝起きたら僕は女の子で、そうだ、自分の顔をまだ確認してない!
そう思って机の引き出しだとか、学校指定の鞄を探したけれど、どうも小さめの物しかない。目があまり良くないのは変わってないみたいで、メガネケースも出てきた。とりあえずメガネをかけてコンパクトと言うのだろうか、その中にある鏡を見る。
顔は…元の僕と全く同じだ……。女の子っぽい顔にコンプレックスを抱えていた僕だけど、こればっかりは少し安心した。見慣れているっていうのもある。
けれど、少し顔がふっくらして更に女の子っぽくなっている気がする……。自分で見ても結構可愛いぞ……。
あのお父さんと美人の母の子だから、整っていて当たり前なのかもしれない。これに僕は化粧をして学校に行っていたみたいで、プリクラ帳も出てきた。
友達がいっぱいいるみたいで、それをめくるといつも笑っている。その中の顔には見覚えがあった。そういえば制服も、と思い立って見てみると、僕の通っていた学校の、女子制服だった。
僕はノートにシャープペンシルを走らせる。好みも全く変わっていないようで、女の子が持つには似つかわしくない、機能性重視のシャーペンで、ノートに文字を書いていく。
変わった点
1 家庭環境? お父さんが居る
2 家 公団が一軒家になってる
3 性別 僕は男だ
4 なんか色々知ってる? なんで?
うーん、今解るのはこのくらいだなぁ。これ以上は思い浮かばない。
お父さんには止められたけど、一度外に出てみようかな。何かわかるかもしれない。学校に行くのが一番かもしれないな。
と思ったけれど、思い出す。僕はスカートを履かないといけない。それは男として、男児として、何か大事なものを失ってしまうような気がして憚られてしまう。
そうだ、体操着のジャージを下に履いて行けばいいんだ! これならスカートでも恥ずかしくないのではないか?!
思い立ったが即行動だった。僕は女子制服を着て、下半身をジャージでしっかりガードした。短パンしか無かったのが残念だったけれど、足も細くて綺麗で見とれてしまいそうになったのは内緒だ。
勢いにまかせて書いたら案外いけそうなので、これを試しにプロット作って何とかやってみます。
もう一つのアレもなんかわからんけど、ちゃんとします