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幕間1-A


 限りなく闇に近い空間がある。風はなく、ただ、音がある。


 一定の拍を刻む、歯車の音。


 がちり、がちり。がちり、がちり、鳴り響くその音だけが広がる広大な空間にに高らかな――きわめて明朗な声が鳴り響く。


「聖なるかな、聖なるかな、聖なるかな」


 宣言にも似た声。声の主は西洋貴族を思わせる絢爛豪華な装束をまとった男だった。


「――今宵この場へとお集まり頂いた御聴衆の皆様。こたびの一時にて、我らは彼の地を掌握致しました」


 勇壮なまでに雄々しいテノールと共鳴するのは、巨大な歯車が軋む音だった。高らかな勝利の宣言と、がちり、がちり、という音を立てて噛み合う無数の歯車が男の身なりと重なり合い、前衛芸術を思わせる一枚の【絵】となっている。


 国会議事堂地下九一二メートルに掘られた空洞。外部からの接触を絶たれた巨大な空間――その存在を知るものは、この国の政治に携わる者でさえ一部に限られる。この国で宰相を務めた者でさえ、この劇場を知ることなく任期を終えることがあった。歌劇を楽しむ劇場のようにして設けられた数多くの座席には数多くの人々が座している。


 その空間にあるのは劇場と、多くの巨大な歯車。がちり、がちり。正確に音を刻み続ける。


 壇上に立つ男の言葉が止むことはない。


「哀れなことに賢哲の名を戴く傲岸な愚者らは、我らに剣の切っ先を向けようとしております」


 賢哲という言葉に客席はざわめいた。学院でも極めて高い階位に君臨する魔術師。四大の一柱を下僕にする者、世界全ての魔導書を保有する者、怪異をさながら呼吸をするように討ち滅ぼす者。どれもが一つの国家を根底から覆すだけの力を持つ規格外の魔術師だ。


 堂々とした威風を纏い、しかし自らが紡ぐ言葉に耽溺しながら、男は力強く宣言する。


「しかし懸念の必要はございません。数字の獣は我らがもとに集いました、いずれも諸侯に劣らぬ力を振るいましょう。加えて更に強大な力を持った者も、我らがために剣を執ることを誓いました」


 壇上で笑顔をこぼす男とは対照的に観客達にはざわめきが広がっていく。その様に満足したように頷き、男は更に笑みを濃くした。


「まずは序曲をお楽しみください。白銀の獣の羽ばたきが夏の空を真冬へと誘いましょう。浅くはありますが美しい調べであります。」


 大仰と言っていいほどの深い一礼とともに、男は聴衆へ笑いかけた。


「数年の隔たりを経た幕開けであります。この一幕のみで終わることがないよう祈りながら、皆々様、ごゆるりと、――ごゆるりと、お愉しみ下さいませ」




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