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竹槍無双 ~追放された雑用兵、竹槍一本で最強になり貴族どもにざまぁする~  作者: 海森 リク


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3/10

冒険者ギルド

 鬱蒼と茂り、濃密な魔素マナが漂う危険地帯『暴食の森』。熟練の冒険者パーティーや正規の騎士団であっても深く立ち入ることは避ける絶対禁忌の領域を抜け、隣国の国境の街へと辿り着くまでに、レインは二日の時間を費やしていた。


「ふぅ、ようやく着いたか」


くすんだ亜麻色の髪を揺らし、少し眠たげな目を向けながら、レインは賑わう街の喧騒を珍しそうに眺める。その出で立ちは使い古されたボロボロの革鎧と、先端を斜めに切り落として火で炙っただけの支給品である『ただの竹槍』という、どこにでもいる平凡な村人の青年そのものであった。


理不尽な理由で軍を追放されたというのに、レインの心境としてショックは不思議なほど少なく、むしろ自分の裁量で自由に槍が振れることに密かな喜びすら感じている。ただ一つ、彼の歩みに合わせて背中の袋がズシリと重い音を立てていることだけが、周囲の平穏な空気と不釣り合いだった。


その中には、道中で仕留めたAランク指定の凶悪な魔物、アイアン・グリズリーの分厚い銀色の毛皮と大量の肉が詰め込まれているのだから。


「とりあえず、日銭を稼ぐ場所を探さないとな」


レインは独り言ちて、街の中央に一際大きく構える建物――冒険者ギルドへと足を向けた。




◇◇◇



一方その頃。

舞台は戻り、グランベル王国の辺境に位置する防衛拠点、ゼーレ砦。ここでは、静かだが確実な崩壊の足音が響き始めていた。


「おい! 今日の分の水はどうした!? 樽が空っぽじゃねえか!」


豪奢な白銀の鎧を身に纏った騎士隊長のバルド

が、苛立たしげに怒鳴り声を上げる。金髪で整った顔立ちは、今や不愉快極まりないといった様子で醜く歪んでいた。


「も、申し訳ありません! 水汲みに行かせた兵士たちが、まだ戻っておらず……!」


「水場までは往復で半日かかるんだぞ! なぜ昨日のうちに汲んでおかない!」


「そ、それは……今まで、なぜかいつの間にか全ての樽が満たされていたもので……っ」


報告を上げる兵士の額には脂汗が浮いている。そこへさらに別の兵士が、転がるように駆け込んでくる。


「た、隊長! 厨房から緊急の報告です! 薪の備蓄が完全に底を尽き、さらに昨日の狩りで仕留めた魔獣の解体も終わっていないため、本日の食事が一切作れないと!」


「なんだと!? 魔獣の解体など、剣で切り裂いて適当に鍋に放り込めばいいだろうが!」


「だ、ダメなのです! 並の剣では硬い皮に刃が通らず、力任せに切ろうとして剣を折る者が続出しており……っ」


バルドは忌々しげに舌打ちをした。

そもそもこのグランベル王国は、魔法と剣技を至高とする徹底した実力至上主義にして、貴族至上主義の国である。その辺境にあるゼーレ砦は、水場が遠く、薪の調達も極めて困難な過酷な環境に建設されていた。これまでは、先日追放したばかりの雑用兵・レインが、常人離れした超高速の水汲み、神速の薪割り、刃を通さない魔獣の解体など、生きていく上で必須となるインフラ作業を一人で、それも誰の目にも留まらぬ速さで完璧にこなしていたのだ。


傲慢不遜なバルドは、実力(魔法と剣技)と血筋こそがすべてという価値観の持ち主であり、自分より身分や能力が低い者をゴミのように扱う男だった。彼はレインという砦の生命線とも言える存在を自ら断ち切ったことで、数日後に砦の機能が完全に停止するという悲惨な末路を辿ることが確定している。


「チッ、あの無能な雑用兵がいなくなった途端にこれかよ。どいつもこいつも、使えない奴らめ」


自分たちがすでに地獄の釜の中にいるとは知らず、バルドはただ井の中の蛙の如く、無能な部下たちを怒鳴り散らしていた。




◇◇◇



場面は再び冒険者ギルドへ。

重厚な木製の扉を開けると、酒と汗、そして獣の血の匂いが混ざり合った独特の熱気がレインを包み込んだ。昼間からジョッキを傾ける荒くれ者たちの間を抜け、レインは受付カウンターへと進む。


「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか?」


受付嬢が愛想の良い営業スマイルで応対する。


「冒険者の登録をお願いしたくて」 


「かしこまりました。では、こちらの用紙に記入をお願いします。代筆が必要であればお申し付けください」


レインは用紙を受け取り、スラスラと項目を埋めていく。名前、年齢18歳、身分は平民出身。そして、職業と得意武器の欄。


「……これでお願いします」


用紙を受け取った受付嬢は、項目に目を通し……ピタリと動きを止め、ひどく困ったような顔をした。


「あの、レイン様。こちらの職業『元・雑用兵』というのは……?」


「そのままです。砦でずっと、水汲みとか薪割りばかりしてました」


「は、はぁ。そして、こちらの武器の欄ですが……『竹槍』、ですか?」 


「はい」


受付嬢の戸惑う声は、思いのほか静かだったギルド内に響き渡った。

一瞬の静寂の後、周囲の冒険者たちが一斉にレインを見る。


この世界において、武器の優劣は剣>魔法>弓>槍の順である。槍は完全な雑魚武器扱いであり、ましてや竹で作られた安物などをメイン武器にする者など皆無に等しかった。


「おいおい、聞いたかよ。竹槍だってよ」


「農民が畑仕事の合間に、小遣い稼ぎにでも来たのか?」


「ギャハハハ! 帰れ帰れ! 冒険者は遊びじゃねえんだぞ、小僧!」


周囲の冒険者たちが一斉に下品な笑い声を上げ、嘲笑の的となる。

しかし、レインの表情は少しも変わらず、ただポツンと立ち尽くしていた。温厚でマイペースな性格の彼は自己評価が著しく低いため、「まあ、自分は絶望的に剣の才能もないし、魔力も完全にゼロだから、バカにされても仕方ないか。自分の実力なんて騎士団の足元にも及ばないしな」と、本気で過小評価をしていたからだ。


来る日も来る日も、3年間1日も欠かさず狂ったように竹槍を振り続け、その結果として人体の限界を突破し、空間の歪みや魔素の流れを感覚で読み取る神域の槍術を身につけていることなど、彼は未だに超絶無自覚であった。そのただの竹槍を彼が握り、極限に圧縮された闘気と無意識の魔素を纏わせることで、神話級の武具をも凌駕する貫通力を生み出すことにも。


「あの……皆様の口は悪いですが、仰る通り、竹槍では魔物と戦うのは非常に危険です。せめて安物でも、きちんとした剣をお買い求めになってからの方が……」


「剣は絶望的に才能がないんです」


「そ、そうですか……普通の槍などは?」


「それも扱えませんでした」


受付嬢は深いため息をつきながらも、これ以上は本人の自己責任だと判断し、登録手続きを進めてくれた。


「……登録は完了しました。レイン様は本日より一番下のランクの冒険者となります。最初の依頼ですが、初心者向けのこちらはいかがでしょうか」


受付嬢が差し出した依頼書には、こう書かれていた。

『ゴブリン討伐』

ゴブリン。子供ほどの背丈しかないが、群れると厄介な魔物だ。レインも森で4体ほど出くわしたが、赤子の手をひねるように殲滅してきたばかりだった。


「わかりました。これを受けます」


「お気をつけて。決して無理はなさらないでくださいね」


心配そうな受付嬢に軽く会釈をし、レインはギルドを後にしようとする。

その時、ふと背負っていた袋の重みを思い出し、足を止めた。


「あ、すみません。ついでにこれ、素材の買い取りってここでいいんですか?」


レインは背負い袋を下ろし、ゴトッ、と重々しい音を立ててカウンターに中身を広げた。


「え……?」


受付嬢の目が点になる。


「道中の森で、なんか柔らかい熊が出たんで、今夜の鍋の具材にしようと思って解体してきたんですけど。少し量が多くて」


「や、柔らかい……くま……?」


カウンターの上に無造作に置かれたのは、額に一本の角を持つ巨大な熊の頭部と、全身が鋼鉄のように硬い銀色の毛皮、そして見事に刃を通されて血抜きされた極上の肉塊だった。


それはどう見ても、森の絶対的な捕食者であり、通常ならば騎士団の一個中隊がかりで犠牲を出しながらようやく討伐できるレベルの、Aランク指定魔物『アイアン・グリズリー』であった。

その分厚い毛皮の喉元には、一撃で毛皮ごと綺麗に撃ち抜かれた丸い穴が空いている。


「それじゃ、ゴブリン討伐に行ってきます。俺、槍だけは結構得意なんで」


ポカンと口を開けて硬直する受付嬢と、先ほどまでゲラゲラと笑っていたが素材を見て顔面蒼白になり震え上がっている周囲の冒険者たちを置き去りにし、レインは竹槍を肩に担いで、悠然とギルドを後にした。


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