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推しうさぎと月の姫になるまで〜二十歳の誕生日に助けた迷いうさぎは電撃引退した推しのアイドルでした〜  作者: 四片霞彩
爽月と彩月【下】

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98/117

【98】

「彩月を守りたいという想いが、守らなければという使命感が俺を再び人の姿にして、《超常力》を取り戻すきっかけを与えてくれた。もう一度チャンスを授けられたのだろう。今度こそ自らの使命を果たして正しき道を進むように」

「大げさだよ。これも響葵くんがまた人になりたいと思ったからだって」

「いや、君だからこそ閉じこもっていた殻を破って外に出たいと思えたのだ。今までの自分から新しい自分に……天里、頼みがある」


 背筋を伸ばした響葵の真っ直ぐな目が天里を捉える。その顔にはかつて暗い廊下で密談していた時の迷いは微塵も感じられなかった。


「今度こそ彩月と同じ道を歩くために、かつての自分――“五十鈴響夜”に蹴りをつけたい。力を貸してくれないか」

「お前を見つけてくれた事務所と応援してくれたファンに説明する気になった?」

「もう逃げない。現実を受け入れたい。今こそ引退を決意するに至った全てを詳らかにしたい。そのために協力してくれないか。玉兎族のことや月の民であることを隠しつつ、今回のネットニュースに関する説明と謝罪もしたい。俺だけでは限界があるから、その……天里の知恵も借りられたらと……」


 いつも反発している響葵が珍しく素直に頼ったからか天里は虚をつかれたように瞬きを繰り返したが、やがて大きく頷いたのだった。


「お前一人に全ての責任を押し付けるつもりなんて最初から無いよ。分かった、協力する。うちの配信チャンネルを使うと良い。今夜にでも生配信をして、全てを明らかにしよう。前から噂になっていた俺たちの関係も明かせられるからこっちとしても悪い話じゃない。生配信の視聴者がSNSで話題にしてくれれば“五十鈴響夜”のファンも生配信を観に来る。再生回数も増えて収益も得られて良いことづくめだ」

「だが、それではお前のファンが……」

「こんなことで離れたとしても、またいつか戻ってくるよ。本当のファンって言うのはね、最後まで推しを信じ続けるか、忘れられなくて戻って来てしまうものだから。それからいっちゃんも協力してくれる?」


 関係ないと思って気を抜いていたところで、急に指名されたので彩月は瞬きを繰り返す。


「生配信のお手伝いってこと? 機材を触ったことないけど上手くできるかな……」

「そっちじゃなくて、ネットニュースの説明の方。名前は出さないけど、響葵との関係を『将来を誓い合った恋人』って説明しても良いかな。その方が急な引退に至った経緯にも納得がいって、詮索されることも憶測で語られることも無い。ネットニュースの記者も後を付け回さなくなる。ゴシップネタにしたところで面白みが無いから噂にもならない」


 元々あのネットニュースのきっかけというのが、女性アイドルと問題を起こしたことで芸能界を引退したと思われているアイドルの響葵が人気配信者の天里と共に別の女性――彩月を自宅に連れ込もうとしていた瞬間を週刊誌の記者がリークしたというものであった。

 つまるところ響葵と彩月の関係性が説明できれば、あのネットニュースは憶測で書かれたものだと世間が認識してくれる。響葵たちが自宅に連れ帰ってもおかしくない仲であることを。

 そしてそれは響葵の引退理由に関わる理由であればあるほど良い。週刊誌が面白おかしい記事にもならないと判断してしまうような間柄。

 例えば家族、または家族に値するような親密な仲であることを――。


「だが、またしても彩月を巻き込むのは……」

「私は平気だよ。響葵くんの力になれるのなら」


 ここで響葵との関係を下手に濁して今後また世間で問題になるくらいなら、いっそのことこの機会に関係性を明らかにした方が良い。

 彩月としてもゴシップネタを求めて後をつけ回されたり、生活を壊されたりするのは懲り懲りである。

 一日でも早く平穏な生活を取り戻すには、それが一番良いような気がしたのだった。


「良かった。今後二人が本当に夫婦関係になったら、それもまた話題にされるからね。だったらここで二人が特別親しい関係であることをヒビ本人の口からアピールしておきたいんだ。そうすれば、またいっちゃんが話題になった際の説明の材料になるでしょう?」

「兄妹や従姉妹ではダメなのか?」

「オレたちはこれまで家族に関する匂わせはしてこなかっただろう。お前との血縁関係は随分と噂されてきたけどさ」


 どうやら天里も響葵との血縁関係について噂されていたことは知っているらしい。

 クラスメイトの話だと二人の顔立ちが似ていることはファンの間で噂になっていたようなので本人の耳に入ってもおかしくないが、天里はそういった噂を間に受けない性格だと思っていた。

 やはり世間に顔出しする動画配信者として、大なり小なり自分の評判を気にしていたのだろうか。


「オレたちの関係性はファンも予想の通りとして抵抗も少なく受け入れてくれるだろうけど、急に他の家族の話まで振られて受け入れてくれるとは限らない。本当は家族の話題という込み入った話は時間を掛けてファンの理解を得るものだからね」

「そういうものなのか……?」

「むしろ後ろめたい理由があって、今まで隠そうとしていたって余計な詮索をされるかもしれないよ。そうなったらいっちゃんはますます世間の注目の的になる。二人が隠そうとするあの子の正体は何だってね。また週刊誌の記者に付け狙われることになりかねないし、それはオレたちの望むところでは無いから」


 因果を含めて響葵たちの疑問に答えると、「生配信の告知と用意をするから」と言って天里は二人に背を向ける。

 その途中でふと思い出したのか、ドアを開けたところで振り返ったのだった。


「その前にいっちゃんにはきちんと説明しなよ。“五十鈴響夜”(お前)を信じて待ってくれていたんだから。彼女こそ真のファンだ」


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