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推しうさぎと月の姫になるまで〜二十歳の誕生日に助けた迷いうさぎは電撃引退した推しのアイドルでした〜  作者: 四片霞彩
爽月と彩月【下】

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95/117

【95】

「いっちゃんはさっちゃんとずっと一緒に居てくれるって言ってくれたでしょう! それなのにどうして離れるの!?」


 爽月から守るように響葵が背で庇ってくれるが、彩月は平気だというように繋いだ手に力を込める。


「いっちゃんだけはさっちゃんとずっと一緒に居てくれると思っていたの! 迷子になったら探してくれるって……昔、水族館で約束したよね」

「爽月……」


 彩月の頭の中に蘇る幼少期の爽月との思い出。水族館で迷子になった彩月を見つけてくれた爽月を交わした約束。爽月はもう忘れてしまったと思っていたが、もしかすると彩月と同じように胸の中で大切に秘めていたのかもしれない。


(ああ、そっか。そういうことだったんだ……)


 もしも彩月を大事にするあまり、お互いの気持ちがすれ違っていただけだとしたら。言葉にしなくても想いが伝わると過信して、爽月が一方的に行動を起こしていただけだとしたら、このちぐはぐな言葉と態度にも合点がいく。

 どちらかがもう少し相手の気持ちに歩み寄って、腹の内にあった本音をもっと早く明かしていたのなら別の結末もありえたかもしれない。

 全ては遅きに失したが――。


「ごめん、爽月。もう選んだの。私は爽月と別の道に進むって」


 爽月が双子の妹のために“一番”を保ち続けてきたように、彩月も双子の姉のために“一番”であろう。月の姫として、あの九天の月の都から姉を守り続けよう。

 いつまでも彩月が望む、姉であってほしいから。


「今まで側にいてくれてずっと嬉しかった。一緒に楽しい時間を過ごして、笑い合えて幸せだった。最近はお互いに気持ちがすれ違ってしまったけれど、ようやく本音を聞けて良かったよ」

「じゃあ、また私と……」

「私ね、やりたいことを見つけたの。でもそのためには違う道に行く必要があるんだ。爽月と道は分かれるけど、爽月のことはずっと大切に想っているから」


 顔を上げると頬の力を緩める。ここ数年は家族の前でも見せなかった明るい表情、目元の力も抜いて笑壺に入った彩月は口を開いたのだった。


「ありがとう、そしてさよなら。どんなに遠く離れていてもいっちゃんはさっちゃんのことが大好きだからっ!」


 黒い目が丸になるくらいに爽月は目を開けると、ぽかんと口を開けたまま固まってしまう。彩月に拒絶されてショックを受けているようにも見えるが、彩月が最後に辿り着いた答えがこれだった。

 響葵が口でも文句を言いながらも天里を嫌うことができなかったというように、彩月もどんなに怒って憎悪の感情を抱いても爽月を心から嫌うことができなかった。

 同じ日に同じ母親から生まれて、多少の差もあったもののほとんど同じスピードで育って、傍らに居るのが常に当たり前だった彩月の半身。表と裏、光と影のように対照的な二人。目に見えない信頼と絆で結ばれていた愛する双子の姉。

 これは決別じゃない。お互いに自分が思い描く新しい未来に至るための、最初の一歩を踏み出しただけに過ぎない。きっとまたどこかでこの道は交差する。

 その時は今度こそ仲の良い姉妹になれるだろう。お互いの本心を知った、今の彩月たちなら。


「いつまで話しているの! 早く来なさいっ!」


 とうとうしびれを切らしたのか母親が爽月を引っ張っていく。「いっちゃん、いっちゃん……!」という爽月の悲痛な叫びが遠ざかっていき、ようやく応接間は静寂を取り戻した。

 肩の力を抜いたのも束の間、ここまでずっと握り締めていた手が解かれたかと思えば、隣の響葵の身体が大きく傾いだのだった。


「響葵くんっ!?」

「《超常力》を使いすぎただけだよ。オレたちは人の姿になるだけでも《超常力》を消耗するんだから。人の姿で《超常力》を使ったら、普段の倍は身体に堪えるよ」


 姿が見えないのにどこからともなく天里の声が聞こえてきたので、彩月が辺りを見渡していると「こっちこっち」と声は足元から響いてくるようであった。目線を下に落とすと、そこには先程の黒と茶のうさぎが鼻をひくひくと動かしながら後ろ足で立っていたのだった。


「うるさいぞ、天里……」

「うん。言い返す気力があるっていうことは平気みたいだね」


 ふらつく身体でうさぎに向かって言い返す響葵の姿から、ようやく彩月もうさぎの正体に気付いたのだった。


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