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推しうさぎと月の姫になるまで〜二十歳の誕生日に助けた迷いうさぎは電撃引退した推しのアイドルでした〜  作者: 四片霞彩
爽月と彩月【下】

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90/117

【90】

「大丈夫だよ。おじいちゃんは賛成してる。元からオレか響葵のどちらかと婚姻を結んで綺世家と縁戚関係になるつもりでいたから。そうすれば久慈川家が後ろ盾となって彩月ちゃんを保護しつつ、生家である綺世家を支援できるでしょ?」

「でも結婚とか全然考えていなくて、ずっと先のことだと思ってたから……月の民として覚醒した後のことだとばかり……」


 この間の天里たちの話しでは月の姫として覚醒するには、純粋な月の民との婚姻が必要とのことだったが、その相手は天里と響葵の月の姫の側仕えが選ぶとのことであった。彼らの養母である月祈乃は天里と響葵の二人を勧めたが、当の二人は彩月の意思を尊重するつもりと話していた。


「安心して。ここで話す婚姻関係なんて、月に昇るまでの地上(ここ)での仮の関係だから。月に昇ったらこの国の法律や決まりなんて何の意味も成さない。あくまでも地上(ここ)での一時的なもの。書類上は何かしら家族関係を持った方がオレたちも動きやすいから。養子縁組でも良いんだけど、お互いの年齢的に兄妹より夫婦の方が地上(ここ)の人たちに怪しまれないと思って」

「そうなんだ。急に結婚なんて言われて、今すぐに相手を決める必要があるのかなって思ったから、ちょっと安心したかも……」

「驚かせてごめん。でもその方がお互いに利害が一致して良いでしょ? 一緒に暮らして行動を共にしても不自然に思われなくて。勿論、書類上の関係だから手は出さないよ。あくまでも姫と従者の関係を不審に思われないための間柄になるだけ。つまるところ、地上でのオレたちとの結婚は白い結婚ってことになるのかな」


 漫画やドラマでしか聞かない「白い結婚」という単語に彩月が戸惑っている間にも、天里は怪訝そうな両親と爽月相手に話を進めていく。


「話が逸れましたが、彩月ちゃんには当家に嫁いでもらいます。当家は月の民について理解もしておりますし、何よりも全ての月の民の頂点に立つ月の姫のお世話役も拝命しています。不自由な暮らしは何一つさせません。これまでとは違って……ね」


 その言葉の含むところに気付いた父親が「こいつ……っ!」と苛立ちも露わに歯を食いしばるが、天里はわざとらしく眉を上げて首を傾げただけであった。

 どちらが優位に立っているのかを見せつけるようにバリトンボイスの鶯舌が言葉を言い添える。


「ご心配なさらずとも、彩月ちゃんの勘当後は当家と綺世さんとの間で関係を持つことは一切ありません。両家の関係を公表するつもりも無ければ、こちらから綺世さんに不利益が被るようなこともしませんので。その点についてはご安心ください」


 怒髪天を衝く形相になった両親にどれほど悪罵されようとも、天里はどこ吹く風といった様子でティーカップに口をつけていた。その交渉慣れした様子から、何故響葵が天里に任せておけば良いと言ったのかようやく分かってきたところだった。

 しかし話し合いが依然として進展しないことは変わらず、このまま停滞するのかと思っていると、これまで黙っていた爽月が不意にテーブルを強く叩いて立ち上がる。


「もうたくさんよっ! 彩月、あんたは私たちと家に帰るのっ!! 月の民だか姫だか知らないけどっ! あんたが私より立場が上になるなんて許さないからっ!」

「私は爽月より上に行こうなんて思っていない。それこそ優劣にこだわっているのは爽月の方でしょう。不出来な妹より優っていなければならない、負けられないと勝敗に執着して」

「知ったような口をっ……! あんたに何が分かるの!? 最初から負け犬で居るあんたに私の気持ちなんて分かるわけないっ!」

「そうだね。爽月の言う通り、私は爽月に敵うわけないって最初から諦めてた。この世界に生まれ落ちた時から爽月の次で、何をやっても爽月には追いつけなくて。爽月のおまけと言われても仕方が無いってどこか割り切ってた」


 生まれた時から隣にいた双子の姉は優秀でみんなから賞賛されていて、対して双子の妹である自分は常に姉の影に隠れて誰にも見つけてもらえなかった。

 悔しさや寂しさが込み上げてきた時もあったが、それでも大好きな姉が褒められている姿を見ているのは嫌じゃなかった。その頃の爽月は光の中から手を差し伸べてくれたから。

 栄光を独り占めするのではなく、姉妹で分かち合おうとしてくれた。自分と僅差で生まれてきた双子の妹である彩月と――。


「私たち昔はこんな歪み合う仲じゃなかったよね。どこにでもいる姉妹のように仲が良くてお互いのことを信頼し合って、喧嘩なんて全くしなかった。勝ち負けや優劣も気にしなかったのに……それがどうしてこんな関係になったんだろうね」

「それはあんたがっ……!」

「そうだね。私が爽月に依存したから、爽月はずっと私のために“一番”であろうとしてくれたんだよね。妹に恥ずかしい姿を見せないように威厳を保ち続けてくれた。私が爽月を褒めて期待を寄せてしまったから。ずっと“一番”でいなければならないと自分を戒めて、妹からの賞賛や尊敬を裏切らないように見えないところで努力してきて……無理をさせていたんだよね?」


 それなのに何も知らなかった彩月は爽月の表面しか見てこなかった。爽月が虐めてくる本当の理由を考えず、爽月が“一番”に執着してきた理由に気付けなかった。爽月の全て行動の根底に自分の存在があったとは、微塵も思わなかった。

 爽月について理解を深めようとすれば、気付けたかもしれないのに。やはり自分は出来損ないだ。


「違うっ! あんたなんて関係ない! そんなつもり……っ!」

「もう終わりにしよう。私は爽月を頼るのを止めるから、爽月も無理して“一番”にならなくて良いよ。お互いに好きなことをして、自分が本当にやりたいことをやろう。爽月が芸能界で頑張るのなら応援する。だから私が月の姫になるのを爽月は見守っていて。もう相手に縛られないで、自分の気持ちに正直に生きようよ」


 その言葉に逆上した爽月が反射的に手を振り上げる。

 これまでの経験から叩かれると察して首を竦めた彩月だったが、爽月が振り下ろした手は膝の上から飛び出した響葵に制止されて指先さえ掠りもしなかった。


「ぎゃんっ!」


 しかし手が当たった衝撃でぬいぐるみ並に軽い響葵は真横に飛んでいき、勢いのまま応接間の壁に叩きつけられる。

 壁を伝うように床に落ちると、そのままピクリとも動かなくなったのだった。


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