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推しうさぎと月の姫になるまで〜二十歳の誕生日に助けた迷いうさぎは電撃引退した推しのアイドルでした〜  作者: 四片霞彩
爽月と彩月【下】

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86/117

【86】

「先程も説明しましたように、オレたちの祖父である当久慈川家の当主は屋敷を空けているため、後程合流します。先に話しを進めておくようにと言付かっておりますので始めましょう。昨日今日と遠路はるばるお越しいただきありがとうございます」

「その前に私たちと彩月だけにしてもらえないか。これは家族の問題だ。他人が口を挟む問題ではない」

「家族の問題ですか。それならオレたちにも関係のあることです。邪魔はしませんので、同席させてもらえませんか?」

「関係? どういうことだ?」

「彩月ちゃんは近いうちに当家の一員となります。将来を誓い合った相手がいますからね。そうすればそちらと当家で縁が出来ます。悪い話では無いでしょう? 家族という結びつきが出来るのは……」

「相手!? まさか君か!?」

「いいえ。オレの弟――響葵のことです」


 立て板に水のように話す天里に任せていたが、その言葉には流石に彩月だけではなく響葵も驚愕したようであった。彩月の膝の上で小さく飛び上がったかと思うと身を乗り出すようにして天里に声を掛ける。


「お、おい、天里。そんな話は聞いていないぞっ! いったいどういうことなんだ!?」

「天里くん、どうしちゃったの!? 急にそんなことを言って……」

「とまあ、こんな感じに慌てていますが、本当は彩月ちゃんが大学を卒業するまで口にするつもりは無かったんですよ。でも弟は本気で彼女を愛していて、彼女も弟を好いています。傍から見ると、これ以上無いというくらいにベストカップルです。若い夫婦の誕生を祝福していただけませんか?」


 天里は貼り付けたような笑みを浮かべたままでさも当然といった様子で話しているが、両親が怒りを堪えているのは誰が見ても明らかであった。

 顔を真っ赤にして肩を戦慄かせていたが、それを気にせず話し出したのは爽月であった。彩月を指しながら癇に障る声を上げる。


「こんな不細工と結婚する馬鹿がいるというの!?」

「いったい彼女のどこが不細工ですか? こんなに咲き始めの花のように初々しくて愛らしい姫君だというのに」

「そっ、そんなはずあるわけないじゃない!? どいつもこいつも馬鹿ばっかりっ!! 頭おかしいんじゃないの!?」

「二人を馬鹿にするのは許せませんね。今すぐにその口を閉ざさないと――流石のオレも怒らざるを得ない」


 耳心地の良い天里の鶯舌に怒りが込められる。温かみを感じられない侮蔑を含んだ低声と刺すような視線に怯んだのか、ようやく爽月の疾呼が収まったのだった。


「弟より先に出会っていればと何度も悔やみましたよ。そうしたらオレと結ばれる未来だってあったかもしれない。こんなに麗しい姫君を目の前にして昂る気持ちを抑えるのがどんなに酷なことか――。激しい恋慕の情に身を焦がしてしまいそうだ」

「てっ、天里くんっ!?」


 彩月を守るように肩を抱き寄せてくれた天里からほのかに甘くフローラルな香りが漂ってきた時には、頭に軽くキスをされていた。唇が触れたのは刹那の時間ではあったものの、目の前の家族を挑発するには充分であった。猛り立った父親が体裁も忘れて声を荒げる。


「もうたくさんだっ! 彩月、お前は全員に謝罪しなさい! 私たちに迷惑を掛けて、久慈川さんまで巻き込んでっ! 二十年も育ててやった恩を何だと思っている!? 恩を仇で返して楽しいか!? だいたいその響葵という男はどうしてここにいないんだ!? 彩月の親である私たちに無断で娘と結婚を誓い合っていて顔も見せないとはどういうことだ!?」

「弟は出掛けています。じきに来ますよ。弟が来るまでの代わりとしてこの黒うさぎを連れて来ています」

「揃いも揃って随分と失礼な連中だな。さっきから俺はここにいるぞ」


 鼻を鳴らして何度も後ろ足で彩月の膝を叩く響葵を宥めようと抱き上げて背中を撫でていると、憮然とした爽月と目が遭う。その視線が響葵に向けられたかと思うと、合点がいったというように悪声を発したのだった。


「そのうさぎ、この間家に連れ帰ってきたうさぎでしょ!? うさぎを利用して久慈川家に取り入ったのね! なんて嫌らしい女なのっ!! それも私が動物嫌いだって知っていながらこの場に連れてくるなんて最低よ!!」

「確かに、このうさぎは先日迷子になっていたところを彩月ちゃんが保護してくれたうさぎですが、何も彩月ちゃんはこの子を利用して我が家と親密な関係になったわけではありません。それに動物が嫌いなご家族を不快な気持ちにしようとこの場に連れてきたわけでもなく、迷子になって以来、彩月ちゃんを気に入ってずっと離れないため連れて来ただけです」

「彩月が結婚するのは、そのうさぎとは無関係ということ?」

「そうです。二人は最初から結ばれる運命でした。月の民の血が二人を引き合わせて結び付けた。月に導かれたこの出逢いを運命的な恋と呼ばずにはいられないでしょう。そんな二人を引き裂くような無粋な真似はしませんよ。少なくともオレは」

「月の民ですって……!?」


 今まで黙っていた母親が急に取り乱したからか、「どうしたの、ママ?」と爽月が心配そうに母親の肩をさする。これには彩月も一驚して、響葵を抱く腕に力を込めてしまったのだった。


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