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推しうさぎと月の姫になるまで〜二十歳の誕生日に助けた迷いうさぎは電撃引退した推しのアイドルでした〜  作者: 四片霞彩
優游涵泳、学びの地で結ぶ信愛

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77/117

【77】

「やはり風が冷たいな。彩月は平気か?」

「私は平気だよ。響葵くんも寒い時は無理しないでキャリーケースの中に入ってね」


 そう声を掛けると、響葵は身震いした後にキャリーケースの中に入ってしまった。やはり黒い毛に覆われているといっても寒いのだろう。うさぎは寒さに弱いという話を聞いたことがあったので、響葵のために温かい毛布やカイロを持ってくるべきだったかもしれない。

 秋も深まってきたからか、今日の外気温はここ最近で一番低かった。屋敷の周辺も今朝から風が冷たかったこともあって、今日の彩月は天里が用意してくれたリボン付きの白いブラウスと黒のマキシスカートの上に赤茶色のロングカーディガンを羽織っていた。大学見学ということで派手になりすぎず、だからといってカジュアルになりすぎない服装を選んだとのことであった。

 ヘアメイクをしてくれた狐塚もそんな天里の意図を理解しているようで、洋服に合わせるようなナチュラルメイクを施してくれた後に後ろ髪を一本の三つ編みでまとめて背中に流してくれたのだった。


「それにしてもやっぱり学部が多いからか学生さんが多いね。お洒落な男の子もいるのが新鮮だよ」

「そういえば、彩月の大学は女性のみの大学だったな」

「大学祭の時は男の子も学内に立ち入るけど、基本的には女の子しかいないから……あまり同年代の男子学生に会わないから物珍しさを感じちゃう」


 そんなことを話している間にすれ違う学生たちはいずれもお洒落な秋冬用のファッションに身を包んでおり、コートや長袖のカーディガンを羽織っていた。その中には世界的に有名なコーヒーショップのロゴが入った紙コップを片手に友人たちと談笑しながら歩いている者もいて、彩月が理想とする憧れの大学生の姿にどこか羨ましい気持ちになってしまう。

 そんな羨望の眼差しを向けていると、目が合った一部の学生たちから深々と頭を下げられてしまう。響葵曰く、彩月の顔を知っているということは月の民や関係者である可能性が高いとのことで、無言で一礼をされる度に彩月も会釈をして足早に立ち去らざるを得なくなったのだった。


「月の姫に選ばれて日も浅いのに、みんな私たちの顔を知っているんだね……」

「月の民にとって月の頂点に君臨する姫の命令は絶対だからな。現在の月の姫が君を後継者に指名したことで、君の素性を調べた者が広めたのだろう。あのネット記事とは別に……」


 響葵たちと出会った日に三人で過ごす様子を撮影されて憶測だけで書かれた嘘八百のネットニュース。有名人の響葵と天里は勿論のこと、一般人の彩月まで生活が脅かされるほど深く傷付けられた。

 一時期は天里のマンション以外にも、彩月の大学や響葵が所属していた芸能事務所にもテレビ局の取材や週刊誌の記者が押し寄せたとのことだった。

 彩月の大学はまともに取り合わず、響葵の芸能事務所はコメントを控えたようだが、天里のマンションについては張り込みをする記者と良識の無い取材クルーらに迷惑を被ったマンションの住人や近隣住民らが通報したようで、警察沙汰にも発展したとのことであった。

 結局両者ともに一歩も引かず、一触即発の事態を重く受け止めた久慈川家が月の民について理解のある警察官らの力を借りて、どうにか記者と近隣住民を穏便に収めたとのことだった。

 その後天里も一度マンションに戻って、玄朔の遣いの者と一緒に改めて通報した住民たちに謝罪して回ったらしい。

 ここまで話が大きくなってしまったのは、あの記事を鵜呑みにした二人のファンが好き勝手に話を広めて、更に当て推量で話を誇張してしまったことはSNSを見ずとも想像に固くない。

 世間での二人の人気と影響力の大きさがこのような形で明らかになるとは、当の響葵たち本人も考えていなかっただろう。今までこの話題は避けていたくらいであった。


「この学園に通うということは、学園に在籍する月の民を率いる存在になることも意味する。つまるところ、君がこの学園を統治する女王になるということだな」

「女王なんて……先生や職員だっているのにっ!」

「俺たちを出迎えた時の様子を見ただろう。ただの見学者相手にわざわざ理事長や学園長を含めた職員総出で出迎えるか? 相手が君だからこその好待遇だ。月の学校にしか通ったことが無い俺でさえ、この破格の待遇に気付いている」

「そこまでしてもらうような存在じゃないのに……ところで月にも学校があるんだね?」

「ああ。俺たちが通ったのは人間に転化できるようになってからの数年だけだが、地上(ここ)の学校とは大差ないぞ。一つの部屋に机を並べて、日が暮れるまで教師から教えを乞う。体術や〈超常力〉の使い方も習ったな。皆、どうしているだろうか……」


 故郷を懐かしむように空を見つめる響葵の身体をひと撫ですると最初の校舎に入っていく。

 食堂と図書館のどちらもうさぎ形態の響葵を外に出しても良いとのことだったので、キャリーケースの中から出してぬいぐるみのように身体の前で抱える。他の学生の邪魔をしないよう静かに見学するが、昼休憩が終わった直後の授業時間帯だったためか、どちらも利用している者は少なかった。彩月は食堂のメニュー数の豊富さと併設されたカフェを利用してゼミ活動中の学生たちが振る舞っていた自家製コーヒー豆を使ったコーヒーの美味しさに舌を巻き、開放的な現代建築造りの図書館に置かれた蔵書数の多さと自習室の充実ぶりに圧倒されたのだった。

 その後、校舎を散策して空き教室やパソコン室を見させてもらうとまた別の校舎に向かう。学部ごとに校舎は分かれているものの、内部の造りはどこも同じようで三ヶ所目の見学を終えた頃には疲労が出てきたのだった。


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