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推しうさぎと月の姫になるまで〜二十歳の誕生日に助けた迷いうさぎは電撃引退した推しのアイドルでした〜  作者: 四片霞彩
優游涵泳、学びの地で結ぶ信愛

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76/117

【76】

「綺世彩月様と久慈川響葵様ですね。久慈川様よりお話を聞いております。さあ、こちらへどうぞ!」

「あっ、はい! あの、本日はお忙しいところ見学を受け入れていただき誠にありがと……」

「そのような勿体なきお言葉は私共には不要です! 要人を外で待たせてしまったとあっては、久慈川様と全ての月の民に合わせる顔がありません!」

「よっ、要人……?」

「どうぞお入りください。応接室にご案内いたします。学園長と理事長、常務、各部署の部長以上の職員、各学部長と研究所所長などがお待ちです」


 就活生向けのマナー本に書かれていた企業訪問時の挨拶通りに頭を下げたはずの彩月だったが、有無を言う間もなく中に案内されてしまう。そうして足を踏み入れた玄関口には教職員たちが左右に分かれてずらりと整列しており、彩月の姿を見つけると一斉に背筋を伸ばして頭を下げたのだった。

 大の大人が一様に一礼する姿が衝撃的だったこともあり、これにはさすがの彩月も呆気に取られて固まってしまう。


「綺世様と久慈川様をお出迎えするために、現在本部棟にいる職員と手が空いている教員を呼びました。見学には学園長と理事長らも同席して失礼がないように対応をいたします」


 その声でハッと我に返った彩月は頭を左右に振って、迎えに来てくれた職員を止めたのだった。


「そこまでしていただかなくても……少し学内を見学させていただけば十分ですので」

「なりません! 綺世様が次代の月の姫であることは、この学園に在籍する月の民らはすでに承知しております。綺世様のことを蔑ろにしたと彼らが知ってしまったら、私共も立つ瀬がありません」

「でもあの……今日は時間も限られていますし、皆さんにご挨拶をした後は、私と響葵くんで場所を決めて見学したいと思います」


 広い学園内の全ての場所を見学できないことは事前に分かっていたので、昨日のうちに響葵とはどこを見学するかある程度決めていた。

 響葵は全て任せるとのことだったので、彩月は大学のパンフレットを読んで気になった食堂と図書館、それ以外にも自習室やパソコン室、中庭、学生が授業を受けている姿を見たいと話していた。

 もし入学したとして自分がこの学園に通う上でどのような生活を送るのか、少しでもイメージを膨らませたいと考えてのことだったが、食堂と図書館については先程犀原も太鼓判を押していたので、この選択は間違っていなかったと密かに自信にも繋がったのだった。

 彩月の話を聞いて迎えに来てくれた職員はどこか物寂しい顔をした後に、「上司と相談してみます」と答えてくれた。そして彩月が学園の学園長や理事長たちと挨拶を交わしている間に確認してくれたようで、見学は彩月と響葵たちだけで良いと言ってくれたのだった。


「久慈川様からは見学については綺世様と久慈川様のご意思を尊重するようにと申し付かっております。おふたりだけでじっくり見学されたいということでしたら、そのご意思を優先したいと思います。そこでこちらの見学者用のネームプレートをお持ちください。各施設への入館証と学内を巡回するスクールバスのフリーパスも兼ねております」

「ありがとうございます」


 受け取ったのはどこにでもあるような首から下げるタイプのネームプレートではあったが、職員の説明によるとこのネームプレートでほとんどの施設は入れるとのことであった。ただし機密事項もある研究施設にはなるべく立ち入らないようにと注意を言い渡されたのだった。


「綺世様たちが見学に行くことはすでに各施設に連絡をしております。後はそこに行ってネームプレートを見せて名前を伝えれば良いだけです。お困りのことがありましたら、お近くの教職員にお声掛けください。綺世様がご見学にいらっしゃることは全教職員と月の民に縁のある学生たちには通達しています。教職員が見当たらない時は学生を頼ってください」

「分かりました。ありがとうございます」


 ようやく職員たちの圧から解放されて本部棟を出た彩月はネームプレートと共に渡された学園内のマップを響葵と見ながら、近くの学部にある食堂と図書館から見学をすることに決める。解放される前に車を出すことも提案されたが、それを丁重に断った二人は地図を頼りに歩き出したのだった。


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