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推しうさぎと月の姫になるまで〜二十歳の誕生日に助けた迷いうさぎは電撃引退した推しのアイドルでした〜  作者: 四片霞彩
天馬行空な従者、質実剛健な従者

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【47】

「化粧はこれくらいで良さそうだね。素敵だよ、彩月ちゃん。このまま攫ってしまいたくなるくらいに……」


 艶のあるバリトンボイスの囁きと共に頭に軽くキスされる。鏡越しに見ていた彩月が「ひっ!?」と飛び上がりそうになると、天里は相好を崩して嬌笑を浮かべたのだった。


「なんてね、冗談だよ。そんなことをしたら君の大好きな“五十鈴響夜”こと、ヒビが地の果てまで追いかけてきそうだ」

「そうでしょうか。私が勝手に推しているだけなので、きっと響葵くんは追いかけてこないと思いますよ」

「それはどうかな……」


 かろうじて聞き取れるくらいの呟きを残して、パウダールームの片付けを始めた天里に手伝いを申し出るが「今日の主役にさせられないよ」と断られてしまう。それでもじっとしているのが性に合わなくて、彩月は口を開く。


「お礼と言ってはなんですが、できることがあったら何でも言ってください。月の姫の役割もきちんとこなすようにしますので……」

「そうだね……それならオレも『天里くん』って呼ばれたいな。敬語も無し。ヒビと同じように接して欲しいかな」

「そんなことで良いんですか?」

「さっきも言ったでしょう。月の姫が他の月の者より格下になったらいけないって。彩月ちゃんはこれから姫としての威厳も身につけなければならない。その手始めとしてオレのことを敬うのは止めよう。それにこれから長い時間を共に過ごすことになるんだから、その方がお互いに気楽で良いんじゅない? 家族、みたいでさ」

「家族……」


 家族という単語が胸に染み入る。今まで彩月を縛り続けていた繋がり。求めれば求める程にがんじがらめになって彩月を苦しめ、どれでもなお愛されるためだけに縋りついていた縁。

 忌避したいくらい嫌な単語ではあるが、天里たちとの出会いで違うものになるのだろうか。


「良いですね。家族か……」

「……彩月ちゃんのことは簡単に調べさせてもらったよ。お姉さんと比較されて、家族から酷い扱いを受けていたって。全ての家族が彩月ちゃんの家族のような存在じゃないって知って欲しい。今すぐは無理でも、いつかはオレたちのことを家族と思ってもらえるように。オレもヒビも彩月ちゃんの幸せを心から願っている。幸せになるように最大限の努力をするから」

「ありがとうござい……ありがとう、天里()()


 天里は魅惑的な笑みを浮かべると、残っていたメイク道具を手早く片付ける。そうして「行こうか。お姫さま」と手を差し出たので、そっと掴んだのだった。


「そういえば、響葵くんのことはあだ名で呼ぶんだね」

「ヒビに限ったわけじゃないけど、身内はなんとなくかな。彩月ちゃんはあだ名で呼ばれたことある?」

「昔は『いっちゃん』って呼ばれたこともあるけど……」


 それこそ爽月とまだ仲が良かった幼い頃。お互いに「さっちゃん」、「いっちゃん」と呼び合っていた。

 どこに行くにも爽月と一緒で、爽月の真似をして、何よりも爽月のことが大好きだった。

 鈍臭い彩月の面倒を見てくれて、彩月の一歩先を行って手を引いてくれる頼れる双子のお姉ちゃん。迷子になった彩月を探しに来てくれたこともあれば、怖がりな彩月を励まして勇気をくれた。

 あの頃はまだ仲違いするとは思っていなくて、ずっと爽月とは仲良しの姉妹でいられると信じていた。


「じゃあこれからは彩月ちゃんのこともあだ名で呼ぼうかな。いっちゃんって」

「ふぇ!? 気を遣わなくてもいいよ……!」

「気を遣うもなにも、オレたちは家族になるんでしょう。それくらい親しみを込めないと……」

「いいや、彩月の言う通りだ。お前はもう少し慎みというものをだな……」


 彩月たちの話が聞こえていたのか、廊下で待ち構えていた響葵が口を挟んでくる。天里と色違いのネイビーのスーツに着替えたようで、色素の薄い肌色をした響葵によく映えていたのだった。


「ヒビ、小言の前にいっちゃんに言うことがあるんじゃない?」

「ぐっ……その……綺麗だ、彩月。振袖も艶やかで似合っていたが、今のドレス姿もあまりにも眩しくて……直視できない……」

「ありがとう……響葵くんも似合っているよ……」

「そ、そうか……寒くは無いか? 首元まで襟があるとはいえ、肩のレース地の下は素肌だろう?」

「平気だよ。丁度良いくらいで……」


 お互いに照れ臭い気持ちになって、会話が途切れてしまう。響葵も天里と同様に手足が長くてスタイルが整っているからか、スーツ姿になると細身の体型が強調されてバランスの良さに見惚れてしまいそうになる。

 アイドルとして活躍していた時も雑誌のインタビューやCDのリリースイベントなどで見事なスーツ姿を披露していたが、まさかこんなすぐ近くで見られるとは思わなかった。スマホを自宅に置いてきたことが悔やまれてしまう。

 一枚だけでいいから写真を撮らせてって頼んだのに。


「じゃあここからはヒビにバトンタッチ。レストランは上の階だから、またエレベーターに乗るよ」


 天里から渡された彩月の手を、響葵は恋人のように大切に握ってくれる。

 二人にエスコートされるようにエレベーターに乗って、そうして最上階近くで降りるとすぐ目の前が予約したというレストランだった。

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