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推しうさぎと月の姫になるまで〜二十歳の誕生日に助けた迷いうさぎは電撃引退した推しのアイドルでした〜  作者: 四片霞彩
天馬行空な従者、質実剛健な従者

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44/117

【44】

「TENさまは私に会いに来たんじゃないの!? なんで彩月ばっかり優遇するのよっ! 私だって、今日誕生日なのよ! 彩月の双子の姉なんだからっ!」

「ああ、そうなんだ。でも君はもう祝ってもらったんじゃないの? ご両親と出掛けていたみたいだし、そこに配達のトラックだって待っている。聞いたら、君宛の荷物を持ってきたみたいだよ。この通り、道路が封鎖されていて配達できないみたいだけど」


 情感がこもっていない天里が指し示した方を見れば、スクラップになった父の車の近くに配達会社のロゴが入った大きなトラックが停まっていた。

 いつから停まっていたのか、その運転席では配達員らしき制服姿の男性が困り果てたように頭を掻いていたのだった。


「ああっ! 私宛のファンからのプレゼント! ちょっと、パパ! 早く車をどかしてよっ!」

「すぐにはできないよ! そんなに気になるなら、自分で取りに行きなさい。パパとママは警察に事情を説明しないと罰金が……」

「はぁ!? そんなの後でもいいじゃない! じゃあ、あんたが受け取ってきなさい、彩月。そもそも荷物の受け取らせるために、家に呼んだんだからね!」


 爽月の言葉で反射的に動きそうになった彩月だったが、すかさず阻んだのは彩月の肩を抱いた天里だった。


「残念だけど、彩月ちゃんはこれからオレたちと出掛けるから。そうだろう、ヒビ?」

「悪いが、彩月には先約がある。荷物の受け取りが目的なら、もう用は済んだだろう。彩月は俺たちが連れて行く」

「ちょっと待ちなさいよっ! こんなことをして許されると思っているの!? 自分の立場ってものを弁えなさいよっ!! 聞いているの!? パパとママも何か言ってよ……って、離しなさいよ! この薄汚い生き物!」


 爽月が彩月に向かって掴みかかってこようとするが、またしても月の生物たちが行く手を阻む。

 老狐の「姫を守れっ!!」の号令に合わせて、子狐でさえ彩月を守ろうと必死になって爽月の足にしがみついていたのだった。

 この状況をどうにかしようと爽月の元に向かおうとするが、すぐさま天里に肩を引き寄せられる。


「あんな聞くに堪えない言葉は聞かなくていいよ」

「ただの悪口雑言だ。君が生まれた祝うべき日にわざわざ耳を傾ける必要はない」


 どこにも行かせないというように響葵が彩月の手を取って指を絡めれば、爽月たちとは反対方向――天里が姿を現した方向に歩き出す。


「あっ、どこにっ……!?」

「こっちに車を停めているんだ。必要なものがあれば後で取りに行かせるから、今は君を安全な場所に連れて行かないと」

「家族のことは老狐に任せておけばいい。警察も上手く対処してくれるだろう。他にも月の協力者は大勢いる。()()()()()()()()()ことにするのも慣れている」

「何も起こらなかった……?」


 意味深な響葵の言葉を反芻していると、「そうそう」と天里が頷く。


「今はオレたちの用を済まさないと。彩月ちゃんだって聞きたいことがたくさんあるんじゃない。月のことや姫のこと、オレたち側使えのことも……」

「そうですね……」


 少し歩いて家の角を曲がると、そこには住宅街には似つかわしくない黒光りする高級車が停まっていた。

 彩月でも知っている有名な高級車メーカーの車に二の足を踏んでいると、彩月たちを出迎えるように音も無くドアが開く。


「どうぞ。オレたちのお姫さま」


 天里の声に促されるままに響葵の手を借りて乗車すると、中はゆったりと足を伸ばせる程に広くてシートもふかふかで沈んでしまいそうになった。

 彩月が座り直している間に響葵たちが乗り込むと自動でドアが閉まって走り出すが、その時になってようやく動物たちを追い払ったのか、綺麗にセットアップした髪やドレスを乱しながら爽月が追いついたのだった。


「待ちなさいっ! 彩月っ!!」


 住宅が密集した閑静な住宅地に響き渡るような呼号。紙一重で車がスピードを上げてあっという間に爽月から離れたものの、それでも爽月の甲高い声が彩月の耳から離れなかった。

 身体を震わせながら耳を押さえていると、隣に座った響葵に抱き寄せられて子供をあやすように何度も肩を擦られる。そうしているうちにだんだんと気持ちは落ち着いてきたのだった。


(あんな姉がどうなってもいいって完全に捨てきれないのは、二十年前に共に産声を上げて、この世界に産まれ落ちた姉妹だからなのかな……)


 響葵の体温に身を委ねながらシートに埋めて、行き先を話し合う響葵と天里の言葉を遠くに聞く。やがて彩月は目を瞑る。

 思い返せば、これが彩月自身の意思で爽月から離れた、最初の一歩なのかもしれなかった。


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