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推しうさぎと月の姫になるまで〜二十歳の誕生日に助けた迷いうさぎは電撃引退した推しのアイドルでした〜  作者: 四片霞彩
天香玉兎、君の誕生を祝福する

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37/117

【37】

「先程、姫さまの生家にお繋ぎいたしました。ここを通れば、すぐに姫さまの生家となります」

「助かる。皆にも礼を言ってくれ。短い滞在ながらも有意義な時間を過ごせた」

「今回は天里さまから先触れがあったから最低限の用意は出来ましたが、それでも事前にお伝えいただければ、もっと豪勢にお出迎えの用意が出来ましたのに……今度からはあらかじめ連絡をくださいね、響葵さま」

「……善処しよう」


 バツが悪そうに顔を背ける響葵の様子もそうだが、丁寧な物腰ながらもどことなく響葵を圧倒している眉見との関係も気になってしまう。

 二人の関係に首を傾げていると、彩月と同年代と思しき赤茶髪の女中に「響葵さまは眉見さまに逆らえないのですよ」と小声で教えてもらう。


「眉見さまは響葵さまと天里さまの教育係だったんです。今でこそ姫の側近として立場が同じになりましたが、今でもおふたりは眉見さまには逆らえないんですよ」

「へ、へえ〜。そうなんですね……」

「そこ、あまり姫さまに余計なことを吹き込まない」


 ニシシと笑っていた女中だったが、すかさず眉見に指摘されて笑みを引っ込めてしまう。預けていた月の檜扇と羽衣が入った桐の箱を手渡されると、彩月は気になっていたことを尋ねる。


「ところで月祈乃さんの姿が見えませんが、今はどちらに?」

「姫は自室におられます。自分が姿を見せてしまうとおふたりが気を遣ってしまうからと言って、ここから見送ると申しておりました。今は彩月さまが月の姫ですから」

「そんなことは……月祈乃さんによろしくお伝えください。あっ、響葵くんは会ってこなくていいの? ここで待っているよ。その間に私も着替えて、借りてる着物を返すから」


 せっかくの親子の再会に水を差すのも良くないと恐る恐る口にしたものの、響葵は左右に首を振っただけであった。


「いや、姫がそう言ったのならそれに従うまでだ。また会いにくればいい。それに姫の言う通り、今は君が月の姫だ」

「そのお着物は姫さまへの贈り物として届けられたものですので、そのままお持ちください。月の姫になられた以上、今後着物を着る機会も増えると思います。今から慣れておくのも良いかと。最初に着ていたお召し物は後ほど届けさせますので」

「いいえ。あれはもうボロボロなので、処分していただいて結構です……」


 カラスによって破れたブラウスと着古したスラックス、汚い川の水を吸った下着を見られるのが恥ずかしいという気持ちがあったが、眉見はなんともないように「それなら代わりの物を届けさせます」と端的に返しただけであった。

 それさえも必要ないと言いたかったが、傍らの響葵が「それは良いな。そうしてくれ」と答えてしまったので何も言えなくなってしまう。


「じゃあ、えっとこのまま帰っていいのかな」

「そうだな。ここでの時間の流れと地上での時間の流れは違うから、早めに帰って越したことはない。行くか」


 離れ離れにならないようにと、響葵が手を差し出したので彩月が掴む。そのタイミングで眉見の指示を受けた下働きの男性たちが閂を外して観音開きの扉を開けてくれる。


「姫さま、響葵さま、またの()()()をお待ちしております」


 その言葉と共に眉見が深く一礼すると、他の女中や下働きたちも一堂に頭を下げたので、彩月は「ありがとうございました」と同じく礼をしたのだった。


(「帰り」か……。月の姫になったらここで暮らすことになるから、そうするとここがこれから実家ということになるんだよね……)


 これまで彩月にとって「実家」という単語が示すものは、爽月と両親が暮らすあの家だった。自分勝手で女王気質の爽月とそんな爽月に心酔する両親が待っているからか、どうしても「実家」には嫌なイメージしか無かった。

 それもあってたまにネット上やCM広告で見かける「実家のような安心感」という言葉の意味が理解できずにいたが、これからは彩月も理解できるようになるかもしれない。

 少なくともこの月の都で響葵たちと過ごした時間は何の心配も無く、心休まる時間を過ごせたのだから。

 そうして響葵と一緒に扉の中に入ると、ここに来た時と同じような白い光に目を焼かれそうになる。彩月は庇うように目を瞑ったのだった。


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