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【1】

「君が月の姫なのか……?」


 秋天はすっかり紫黒色に染まり、薄雲がかかる空には白く輝く十六夜が昇り始めたところだった。

 薄闇に包まれた閑静な住宅地を流れるドブ川の川辺には、ずぶ濡れの少女と長い毛から水を滴らせる黒毛のうさぎのふたりが取り残されていた。

 どちらも濡れた身体に夜風が吹いて寒いはずだが、今は何も感じられなかった。

 時間の流れさえゆっくりに感じられる中、宵に紛れてしまいそうな黒うさぎが静かに口を開いたのだ。


「どうか俺たち月の民を導く、月の姫になってはくれないか……?」


 成人男性のような落ち着いた低声が耳に入った瞬間、川を流れる水音や風が立てる葉擦れの音、近くを走る車のエンジン音さえすうっと遠のいた。

 自分の身体から漂うゴミと魚臭さが混ざった悪臭や、身体中にまとわりつく油分を含んだ汚泥さえも気にならなくなる。


「月の姫……」


 この日、二十歳を迎えた彩月(いつき)は自分の運命が廻り始める音を聞いたのだった。


 ◆◆◆


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