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悪役令嬢は、既に殺されていた。  作者: 藍銅 紅(らんどう こう)@『前向き令嬢と二度目の恋』書籍発売中


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第十一話 宣言

 ルキウスによって、三人はミュラーの前に突き出された。

 ミュラーは一人一人、顎を掴み、目線を逸らせないようにしながら、問う。

「あなたが、アストレア殺害を示唆したのですか?」

 キースとロルフは即座に「違う」と言ったがジョーだけは目を逸らした。

「こ、殺せなんて言っていない。エ、エミリアを虐めるなと……、さっさと領地へと帰れと……脅せと命じただけで……」

 嘘ではなかった。

 虐められて泣くエミリアがかわいそうで、自分が守ってやらねばと思っただけだったのだ。

「アストレアはエミリア嬢を虐めてなんかいませんよ。そもそも眼中にすらなかったでしょうからね」

「な、なぜ……? だって、エミリアはいつも……、王太子殿下と親しいエミリアは、嫉妬に駆られたアストレア嬢に苛めを……」

「その前提からしておかしいですね。アストレアにとって王太子殿下はどうでもいい存在です」

「え?」

「血縁上の無能な父親のせいで、王太子殿下との婚約を、国王陛下から押し付けられただけなのです。マイゼンハウアーの長である母も、この私も、アストレアも。そんな婚約など断るつもりでしたけど、一応、この国に帰属している以上、完全に無視もできません。王太子殿下がそれなりにまともな人物であれば、婚約継続も一応は考えましたが、初対面のアストレアに暴言を吐くほどの愚物。まともに相手をするのも馬鹿々々しい」

 滔滔と話すミュラーに、愚物と言われたオスカーが熱り立った。

「き、貴様っ! この俺様を愚物と愚弄するか!」

 口から唾を飛ばすほどの勢いのオスカーに、ミュラーはさらりと答える。

「ええ。初対面のアストレアに対し『自分より背が高いから女ではない』と馬鹿々々しい発言をした王太子殿下。そんな王太子殿下を尊敬に値する人物とは到底思えませんね」

「ぐ……」

 オスカーからジョー達に、ミュラーは視線を流した。

「ちなみにアストレアも『自分より背の低い王太子殿下など、男として見ることはできない』と反論をしましたが。そんなアストレアが、王太子殿下と懇意にしているご令嬢に嫉妬? ありえませんね。寧ろそちらのエミリア嬢とやらには愚物を引き取ってもらい、感謝の念を抱いていたのではないですか?」

「そ、そんな……」と言ったのは、ジョー達だった。

「俺たちは……、虐められるエミリアを可哀そうに思って……」

 慰めたら、エミリアから好意を抱かれるだろうという下心もあったには違いないが。エミリアを侯爵令嬢から虐められる平民の娘を、不憫に思う気持ちも根底にはあったのだ。

 それゆえに、ごろつきを雇って脅した。

 それは愚策ではあったし、その依頼自体が雑過ぎたのかもしれない。雇った者たちがあまりに下郎だったため、脅すに留まらず、殺害までに至ってしまっただけなのかもしれないが……。

「そもそもその嘘つきな小娘と、その小娘に騙されたあなた方が悪い……ということですね。我が妹、アストレアを害した罪、あなた方にも取ってもらいましょう」

 結論付けたミュラーに、エミリアが反論した。

「あ、あたしは関係ないわっ! ジョー達が勝手にやったんじゃないっ! 知らないわよ!」

「関係ない……ですか……?」

 ミュラーの目が冷たく光った。

「そちらの男性がたを唆した。アストレアに虐げられたなどと噓を吐き、今は階段からアストレアに突き飛ばされたと演技まで行ったあなたが、知らないと言って済ませられるとお思いか?」

 あまりの眼光の鋭さに、エミリアはオスカーの背に隠れた。

「えっと、あの……、そうじゃ、なくて、あたしは……」

「我が妹アストレアを陥れ、結果、殺害までに至った。すべての元凶であるうちのひとり、あなたを許すことはできない。その身を以て償っていただきます」

 エミリアはもう何も言えず、ただ、オスカーの背で震えるだけだった。

「ミュ、ミュラー!」

「何でしょう、アストレア殺害の遠因ともなった王太子殿下。今に至ってようやく懺悔でも?」

「エミリアが直接アストレアを殺したわけではないのだぞ! そのエミリアを脅すとは、貴様、紳士の風上にも置けん……!」

 オスカーのその言葉に、ミュラーは笑った。いや、嗤った。しかも、その美しさは壮絶だった。思わずルキウスさえも、後ずさるほどに。

「陛下に命じられた婚約とはいえ、初対面の婚約者に暴言を吐き、謝罪もせず、他の女性との愛を深める王太子殿下。殿下のような方を紳士と称するのであれば、私は紳士などというものでなくとも構いませんね」

「き、貴様……、この俺様も愚弄するか! たかが侯爵令息が不敬だぞ! 不敬罪で訴えてやる‼」

「不敬罪?」

 ミュラーの眉根がピクリと動いた。そうして、口角がゆっくりと上げる。

「……なるほど、不敬罪! おもしろいことをおっしゃいますね! では、ヴァーセヒルダ王国の王太子殿下への不敬罪という責任を取って、マイゼンハウアーは侯爵位をヴァーセヒルダ王国へと返上させていただきましょう!」

 高らかに、宣言を、した。

「近日中に、我が妹、アストレアの遺体と共に、我らマイゼンハウアー一族の者は、ヴァーセヒルダ王国から去りましょう。そうしてマイゼンハウアーの地に籠り、これ以降、ヴァーセヒルダ王国と関わりを持たないことを、ここに宣言いたしましょう!」

 ミュラーの言葉の意味を、理解できた者は、この場に半数……いや、十分の一もいなかった。

 オスカーは「はっ! 馬鹿なのか? 爵位を返上し、王都から去り、ヴァーセヒルダ王国と関わりを無くすとは!」と、勝者のような高笑いをした。

 他の者たちも大変なことが起きたとは思うが、本質的に、何を宣言されたのかは理解できていない。

「行くぞ、ルキウス」

 ミュラーはオスカー達に背を向けて、さっさと歩きだした。

「……ごろつきなんかを雇ったそいつら、ぶち殺さないでいいんですか?」

 ルキウスが不満げに、聞いた。

「おまえが手を汚して殺してやるまでもない。そのうち自滅する」

 ルキウスが思わず「うっ!」と呻いたほどの、恐ろしく鋭い眼光だった。

 ミュラーとルキウスが去った後のホールには、勝ち誇ったようなオスカーの笑い声が響いたが、その笑いに同調する者は誰一人としていなかった。


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