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真実は手紙と共に  作者: 小鳥遊怜那
トウガラシ編
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画策

 ダイズを畑に埋めた後、ナザトはダイズ宛の手紙と彼女の服を回収した。

 ダイズの部屋に行き、物を置いた時だった。食器を回収しに来たオーナーテツと鉢合わせてしまった。

「誰⁉」

「この宿に泊まってるナザトです」

「ああ、お客様ですか。いや、なんでここに居るんですか? 従業員用の部屋ですよ」

「この部屋の住人の荷物を届けに来たんです」

「意味が分かりませんが」

「とりあえず、ダイズさんからの手紙を読んでください」

 机には彼女からの手紙が置いてあった。オーナーはそれを読む。

 彼は泣いた。

「バカ野郎。俺は畑のこととか分かんねーっての」

「彼女の遺したものはこの町を支え続けます。そうしたいと思えるほど愛に満ちたこの町を、私は羨ましく思います。どうかこれからも愛情の輪を繋ぎとめてください」

「勿論だ」


 昼食を食べて、ナザトはこの宿を出る。

 まさか10日ほどここに滞在することになるとは思わなかった。でもそれだけの価値はあった。これからも彼女たちの満足の支えにならなきゃと認識出来た。まあ、宿泊費で7万ゼニーかかるとは思わなかったけど。といってもお金は十分にある。金より彼女たちの満足だ。その意識は忘れずいよう。

 さて、次はさらに南。南アニサ海付近、ネニスが近い。相手はトウガラシ。どんな人だか。


 4日後早朝、彼女はネニスに着いた。

 ――まずはトウガラシの情報を集めよう。

 よそ者は情報が手に入りそうな場所を探す。手始めにさかな市場に行ってみる。鯛、マグロ、蛸、鮫etc。新鮮な魚が安価で売られている。

 ――おお、凄い。山育ちだから川魚以外は初めて見るなぁ。活気に満ちているし、楽しい町だな。

「お嬢ちゃん、見ない顔だね。旅人かい?」

「そんなところです」

「捌いてあげるから買っていってよ」

「じゃあ、このブリってやつを一尾ください」

「まいどあり」

 ナザトは店主の厚意を受け、捌きたての刺身を食べる。

「うわ美味しい」

「だろ?」

「コリっとした弾力があって、噛むたびに甘味とうまみがにじみ出てくる」

「いい反応してくれるねぇ」

「ここでは、いつもこんなに美味しいものが食べられるんですか?」

「まあな。それもトウガラシさんのお陰だよ」

「トウガラシ⁉ 今その人何処にいるか分かりますか?」

「うん? さっき海から戻ってきたから、近くの酒場にいると思うぞ」

「ありがとうございます。私行きますね。魚、ご馳走さまでした」

 彼女は市場を後にする。

 

 酒場に入る。そこには粗暴な男たちが酒盛りをしていた。

 ――声デッカ。さっきのとこより煩い。

 そんなことを考えながら店を見渡していると、店主が声をかける。

「嬢ちゃん、まだ飲める年じゃないだろ。さっさと帰んな」

「トウガラシさんに用があって来ました」

「姐御に? お前みたいなガキが?」

 どうやらトウガラシは姐御と呼ばれているらしい。それだけ慕われているということだ。

「駄目ですか?」

「いや、会うのは自由だぜ。ただ、お前みたいな小便臭いガキが会ったところで、まともに取り合ってはくれないだろうなぁ」

 意地悪な笑みを浮かべる。

「その人はそんなに狭量なのですか?」

 店主の煽りにカウンターを食らわせる。

「おっと、そいつは聞き捨てならないな」

 背後から声をかけられる。振り向くと赤髪で筋肉質でやや大柄な女性が立っていた。

「私は人を選ぶが、選ばなかった相手だって丁重に向き合うさ」

 トウガラシ本人だ。

「私とて、本気でそう思ったわけではありませんよ」

 ナザトは鞄から手紙を取り出す。

「これは?」

「セレカレスさんからの手紙です。皆さんにお届けしています」

「そりゃご苦労だったな。あとでちゃんと読ませてもらうよ」

 トウガラシは立ち去ろうとした。その背後から、引き留めるように声をかける。

「それと! 貴女達を本来の姿に戻すようにとも、仰せつかっています」

「ほぅ。私を香辛料に戻そうってのかい」

「何も知らずに戻そうとは思いません。皆さんはそれぞれ問題を抱えていると、コムギさんから聞きました。私はそれの解決に協力したい。だから話を聞かせてください」

「私に協力したいというなら力を示してみな」

「力の示し方は自由ですか?」

「海から財宝を集めてきてもらう。方法と人数は自由だ。だが必ず、お前さんが中心になって財宝を獲ってくること。じゃ、楽しみにしてるよ」

 彼女は席に戻り、酒盛りを再開する。


「で、どうするよ? 嬢ちゃん」

「とにもかくにも情報です。財宝がありそうな場所の情報を聞き出します」

「どうやって?」

「酒場を転々とし、大人にお酒を奢ることで情報を聞き出します」

「払えるのか?」

「問題ありません。私こう見えてもお金持ちなんですよ。手始めに――」

 彼女は息を大きく吸った。

「皆の者聞け! ここは私が奢る! 好きなだけ飲むといい!」

 「うおおおお」と盛り上がる。

 海の男たちが酒をあおる合間を縫って、ナザトは情報を聞き出す。


「ねえ、おじさんたちは漁師なの?」

 雰囲気に合わせて、少し砕けた口調で質問する。

「それも兼任してるが、俺たちは海賊だぜ」

「海賊なんだ。格好いいね」

「分かるかい? 俺たちは命がけで海と戦ってる。波に揺られながら、屈強な魚たちと戦う。魔法を使えば楽に獲れるが、売り物にはならなくなる。鍛えた肉体と釣り具、そして仲間。この3つが頼りだ」

「凄いね。私は魔法に頼ってばっかだから、憧れちゃうなー」

 嘘である。彼女も狩りをする際は魔法は使わなかった。だが、相手をおだてるために話を合わせる。

「そうだろうそうだろう」

「そんなおじさんの一番の戦績を教えてよ」

「俺の最大の釣果は3メートルを超える巨大鮫だな」

「3メートル⁉ 大きいね」

「これくらいになると、重さ300キロにもなる。引っ張られないようにするだけでも一苦労よ。それを人力で引き上げようってんだから、死闘もんだぜ」

「どうやって釣り上げたの?」

「銛で突いて体力を奪いながら、他の奴が網を引っ張るんだ。それと、船が獲物に持っていかれないように操縦するやつも必要だな。全員が一丸となって、何時間もかけて釣り上げるんだ」

「チームワークがないと出来ないんだね」

「そうだ。トウガラシの姐御が人を選ぶのもそれが理由だろうよ」

「なるほどねー」

「話の続きなんだがな、鮫のいた所から金属の反応があったんだよ。それで潜ってみたら宝箱があったんだ。あいつはきっと守ってたんだなー」

「じゃあおじさんたちは、門番を倒しちゃったんだね。流石海の男だね」

「まあな」

「お話聞かせてくれてありがとう」

 と、こんな感じで何人かに話を聞いて回った。


 円もたけなわ。客の殆どは帰っていった。

 ――話を聞く限り、大物がいるところと財宝があるところは被っているみたいだね。だったら、今日聞いた話を総合して、大物がいる場所を特定する。どうやって船にのるかだなぁ。まぁとりあえず宿に泊まってゆっくり考えよう。

「マスター、お代は?」

「30万」

 お酒って高いんですね。そう言いながらも、ポンと出す。

「へぇ。本当に金持ってたんだ」

「まぁ、それに見合うだけの情報は手に入ったので、満足です」

「そうか。じゃあ頑張れや」

 マスターとトウガラシは、店を背にするナザトを見送った。

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