21 対峙
尋問室の空気は、古くなったコーヒーと、嵐が近づいているような緊張感で重く満たされていた。山本 海斗は椅子に深く沈み込み、風雨にさらされてきたような顔は、反抗と疲労の色を帯びていた。嵐の後の海のように、いつもは鋭く輝いていた彼の目は、今や恐怖と諦めの色で曇っていた。足跡、髪の毛、繊維の証拠が、ついに彼に追いついたのだ。
海斗は深く、疲れ切ったため息をつき、まるで心の重さを吐き出すように言った。「わかった、わかった。その夜は館にいた。あの秘密の通路を使って館に忍び込んだ。なぜなら…」
彼は言葉を止め、視線を床に落とすと、彼の声に少しばかりの恥じらいと罪悪感が混じり始めた。「なぜなら、お金が必要だったからだ。恵子は、私が困っているときはいつも助けてくれた。私がギャンブラーだと知っていて、私を気にかけていたんだ。彼女は私に金を貸してくれたし、私は必ず返すと約束した。だが、私は決して返せなかった。いつも借金を増やしていたんだ。」
「つまり、あなたは恵子の家から盗もうとしたのですか?」愛莉は鋭く、揺るぎない声で尋ね、彼女の目は、海斗の表情に偽りの兆候がないかを探っていた。
「ええ、そうです」海斗は、打ちのめされたようなささやき声で答えた。「私は必死だった。カジノで多くを失っていたんだ。現金が必要だった。大きな勝利が必要だった。借金を返せるように…。恵子から少しだけ借りようと思ったんだ。しのぐためだけに。」
「だが、浩が亡くなってから、彼女はあなたにもうお金を渡さないと決めていたでしょう」愛莉は静かに言った。「彼女はあなたのギャンブルにうんざりしていた。あなたを助けるのに疲れ果てていたのです。」
「…それは知っていた」海斗は、恥じらいと絶望が入り混じった声で言った。「でも、私は必死だった。借金から逃れる必要があった。もしかしたら、彼女なら心を変えるかもしれないと思ったんだ。彼女の助けを得るためなら、何でもするつもりだった。」
愛莉は、失望感が押し寄せるのを感じた。彼女はもっと深い告白を、この謎を解き明かすような衝撃的な告白を期待していた。しかし、海斗の説明は、一見単純だが、奇妙に不完全だった。
「つまり、あなたはただ入って、金を盗んで、出て行ったのですか?」愛莉は、わずかに疑念を込めた声で尋ねた。「その夜、恵子に会いましたか?彼女と話しましたか?」
「いいえ」海斗は、少しだけ声のトーンを落として言った。「私がそこにいたとき、彼女は死んでいた。私は彼女を殺していない。」
「嘘をつかないでください」愛莉は、無菌室に響き渡るような低く、力強い声で言った。「その夜は一体何が起きたのですか?」
「私は真実を話しているんです」海斗は、彼の声には少しの疑念が混じっていた。「私は恵子を殺していない。」
「もう一度真実を話してください」愛莉は冷静に言った。「その夜は一体何が起きたのですか?」
「ええ、それは単なる事故だったんだ」海斗は、ささやくような声で言った。「私は釣りをしていた。崖の近くまで来て、下に降りる道を見つけたんだ。簡単だった。暗かった。梯子が見えたから、降りた。簡単だったんだ。」
「お金が必要だったんだ」海斗は、かすれた声で言った。「私は必死だった。恵子にはお金があるって知っていたんだ。たくさん。彼女から盗もうと思った。個人的な恨みなんかない。」
「あなたは恵子から盗もうと計画していたのですか?」愛莉は、測定されたような声で、海斗の目を見つめ、表面の下に真実の兆候がないかを探っていた。「あなたは真夜中に彼女の家に忍び込み、彼女から盗もうとしたのですか?」
「自分が間違っていたのはわかっている」海斗は、絶望的な懇願のトーンで言った。「でも、私は困っていたんだ。お金が必要だった。借金を返さなければいけなかったんだ。」
「あなたはカジノに多額の借金があるでしょう、海斗」愛莉は、鋭い声で言った。「あなたはギャンブラーです。私たちはあなたの借金について聞いています。いったいどれくらい借金があるのですか?」
「たくさんある」海斗は、ささやくような声で認めた。「たくさんのお金を失ったんだ。私は絶望的な状況だった。他に選択肢はなかったんだ。借金を返せるように、十分な金額を盗もうと思った。恵子を傷つけるつもりはなかった、本当だ。」
「続けなさい。次に何が起きたのか教えてください」愛莉は、揺るぎない視線を保ちながら言った。「館に着いてからどうなったのですか?」
「秘密の通路を見つけたんだ」海斗は、疲れ切ったささやき声で言った。「通路をたどって館に入った。恵子の部屋に行って、お金を少しだけ取って、出ていくつもりだったんだ。でも、彼女の部屋に着いたら、彼女は死んでいた。私は彼女を殺していない。自分の命にかけて誓うよ!」
愛莉は、数え切れないほどの可能性が頭の中を駆け巡り、アドレナリンが急上昇するのを感じた。海斗は、その夜館にいたことを認めた。彼は恵子が殺された場にいたが、彼女を殺したのは自分ではないと主張した。これは衝撃的な告白だった。
「あなたは、恵子の部屋にいて、彼女を殺していないと言っているのですか?あなたはたまたま殺人の現場に遭遇しただけだと?」愛莉は、懐疑的な口調で尋ねた。
海斗は、懇願するようにうなずいた。「まさにそのとおりだ、刑事。誓って言うけど、彼女を傷つけたりはしていない。彼女はすでに死んでいたんだ。パニックになったんだ。逃げ出した。どうすればいいのかわからなかった。」
愛莉の目は細くなった。彼の物語は矛盾だらけで、半ば真実と、慎重に構築されたアリバイのタペストリーだった。彼女は彼が何かを隠している、重要な何かを隠していることを知っていた。
「あなたは館を出て、崖をよじ登って、痕跡を残さずに逃げ出した」愛莉は、測定されたような声で言った。「そして、たまたま私たちが今日見つけた秘密の通路に遭遇した。海斗、これはあまりにも多くの偶然だ。」
海斗は、自分で作った網に捕らえられ、自分が窮地に追い込まれているのを感じた。真実とは、ブラックウッドを覆う霧のように、ずる賢く掴みどころのないものであった。
「刑事、他に言うことは何もないんだ」海斗は、疲れたささやき声で言った。「私は殺人者じゃない。恵子を殺したのではない。誓う。」
「あなたは誓うのですか?」愛莉は、低く、力強い声で、海斗の目を見つめ、彼の外見を突き破ろうとした。「あなたは、恵子が殺されたとき、彼女の家に来たことはなかったと誓った。あなたは秘密の通路について知らなかったと誓った。どうしてあなたを信じられるというのですか?」
「当時、私は怖くて、嘘をついてしまったんだ」彼は不安げに弁解した。「私は恵子を殺していない。信じてください。」
「わかった、海斗」愛莉は、冷酷で鋼のようなエッジを帯びた声で言った。「あなたは恵子が殺されたのを見ましたか?恵子が殺されたとき、他に誰かがそこにいましたか?」
「いいえ。恵子と私以外、誰も見ていない。」海斗は茫然とした表情で言った。「私がそこにいたとき、恵子は地面に倒れていた。彼女は死んでいた。」
「つまり、これはあなたの主張する出来事のバージョンであり、それを裏付ける証拠はないということですね」愛莉は平坦に言った。
愛莉の言葉は空気中に漂い、海斗の希望を打ち砕くような重い重さを帯びていた。真実とは、影の中の幽霊のように、彼の手の届かないところに潜んでいた。彼は言葉に詰まった。
尋問室は、まるで檻のように感じられた。秘密と嘘の牢獄だった。愛莉は、海斗を見つめながら、決意を感じた。彼女は彼の防御を打ち破り、真実を解き明かさなければならない。どんな犠牲を払っても。彼女は刑事であり、正義のために生きる女性であり、真犯人を裁くまで安らぐことはなかった。
「海斗、その夜は一体何が起きたのか、私たちに話してくれませんか?」愛莉は、静かで、しつこいささやき声で言った。「真実、本当の真実を話してください。」
海斗は愛莉を見つめ、彼の目は恐怖と後悔の色で満たされていたが、その奥底に、新しいものが光り始めた。それは理解の閃光であり、彼に迫り来る真実の認識であった。真実とは、ブラックウッドを覆う霧のように、ずる賢く掴みどころのないものであったが、それは抑えられない力でもあった。