15 真実への道
その写真、海斗のボートのシンプルなスナップショットは、警察署全体に衝撃波のように広がり、興奮と不信の波を巻き起こした。それは転換点であり、捜査の方向性を転換させ、慎重に構築された事件の表層を剥がす瞬間だった。
愛莉は、その画像を見つめながら、アドレナリンが駆け巡るのを感じた。一見普通の画像だが、そのタイムスタンプ、日付と時間は紛れもなかった。海斗のボート「シー・スプライト」が、恵子が殺害された夜に山田の邸宅の近くで停泊していた…。それはあまりにも偶然すぎる。まさに衝撃的な事実だった。
「どこで手に入れたの?」愛莉は、エミリーに鋭い視線を向けながら、ぎゅっと声を絞り出した。
エミリーの目は、興奮と不安が入り混じっていた。「あの夜、船の上で、町の歴史について記事を書いていたんです。その晩、港の写真をたくさん撮ったのですが、昨夜写真を見返していたら、海斗のボートの写真に気が付いたんです。もしかしたら役に立つかもしれないと思って。」
エミリーの説明は理にかなっていた。海斗は恵子との関係や悪名高いギャンブルの借金で、町ではよく知られた人物だった。「シー・スプライト」は、港でよく見かける光景だった。
その写真は、海斗が恵子の家に近づいていた、あるいは実際に家に訪れていたことを証明していた。恵子が殺害された夜、彼は釣りに出かけていたというアリバイは嘘だった。彼は事件現場の近くにいおり、これは非常に重要な事実だった。
「エミリー、ありがとう。」愛莉は、新しい目的意識に満ちた声で言った。「これはとても重要だ。海斗を見つけなければ。」
彼女は、警官に山本 海斗にすぐに連絡を取るよう指示した。警官は急いで署を出た。しばらくして、困惑した表情で戻ってきた。
「海斗はちょうど出るところでした、署長。」警官は言った。「次にどうすればいいですか?」
「海斗は家に帰っているかもしれない。すぐに彼を連れてこい!」愛莉は、緊急性を込めて声を張り上げた。
彼らは海斗のアパートに急いで向かった。海斗は、警察署から釈放された直後で、祝杯をあげるビールを楽しんでいた。彼は突然の警官の侵入に驚き、戸を開けた。
愛莉は海斗の前に立ち、鋭く揺るぎない視線で、恵子が殺害された夜に撮影された海斗のボートの写真をしっかりと握っていた。「海斗。」彼女は静かな轟音のような声で言った。その声には、揺るぎない権威が宿っていた。「山田 恵子の殺人で逮捕する。」
海斗の目は見開かれ、顔には信じられないという表情が浮かんだ。「何だって?ばかげている。証拠はない。言ったでしょう、その夜は釣りに出かけていたんだ。」
「目撃者がいるんだ、海斗。」愛莉は、強い声で言った。「エミリー・クラークだ。彼女がこの写真をとったんだ。」彼女は写真を掲げ、月明かりに照らされた海に浮かぶ「シー・スプライト」を示した。「恵子が殺害された夜、山田の邸宅の近くにあなたのボートがあるのがわかるでしょう。」
「ありえない。」海斗は、声高に抗議した。「その夜は沖合何マイルも離れた場所で釣りをしていたんだ。港長に聞いてみろ。確認してくれるはずだ。ただの偶然だ。」
「偶然は意外な真実を明らかにすることもあるんだ、海斗。」愛莉は、静かな声で言った。「追加の捜査のために警察署へお連れします。」
海斗の逮捕は町に衝撃を与えた。彼のギャンブルの借金と恵子との関係についての噂は本当だった。かつて尊敬されていた漁師が、殺人容疑者として逮捕されたのだ。
一方、DNA鑑定の結果が出た。山田は、山田 浩の息子であることが確認された。その知らせは町に安堵の波紋を広げた。
海斗の息子であるというニュースは偽物だった。地元の新聞は、山田の評判を傷つけ、彼を貶めるために、スキャンダラスな記事を発表していたのだ。
「誰かが私を陥れようとしているんだ。」山田は、怒りに満ちた声で言った。「彼らは私を傷つけ、私を悪く見せようとして、山田の財産を手に入れようとしているんだ。」
山田は、怒りと決意に燃え、町の人々に自分の発見を発表した。彼は父親鑑定の結果が真実であり、偽のニュース記事を糾弾した。
「私は山田 浩の息子です。」彼は、広場に響き渡る声で宣言した。「ドノバンみたいな卑劣な人間に、山田の財産を乗っ取らせるわけにはいかない。」
山田のDNA鑑定の結果は瞬く間に広がったが、町は依然として分裂していた。一部の人々は彼を信じ、彼の無実を喜んだ。しかし、多くの人々は疑いを抱き続け、彼らの見方は噂や山田の人生を覆ったスキャンダルによって歪められていた。
「山田 太郎は、山田 浩の息子ではなく、山田 恵子と山本 海斗の息子である。」
地元の新聞の第一面に大きく書かれた記事の言葉は、山田を悩ませ続けた。町はかつて彼に同情していたが、今では分裂し、同情は判断と軽蔑に変わっていた。
しかし、愛莉と優斗は、新しい証拠によって鋭敏になった視線を向け、捜査を続けた。彼らは海斗を尋問しなければならなかった。
海斗は、取り調べ室でうなだれて座り、あらゆることを否定した。彼は、その夜は釣りをしていたと主張し、恵子の家の近くの入り江に偶然たどり着いたと説明した。それは漁師がよく使う場所であり、静かに網を投げられる場所を探していただけだと説明した。
しかし、彼の否定は空虚に響いた。写真は紛れもなかった。彼はその夜、恵子の家の近くにいっていたことを証明していた。
「写真は嘘をつかない、海斗。」愛莉は、冷静かつ揺るぎない声で言った。「あなたが彼女の家の近くにいっていたことはわかっている。そこで何をしてたんだ?」
海斗は、いら立ちと絶望が入り混じった表情で、椅子の中で身じろぎした。「言ったでしょう、釣りをしていたんだ。沖合で釣りをしていただけなんだ。たまたま、海岸のその部分に来ただけなんだ。」
「そして、山田 恵子の家の近くの、人里離れた入り江で、たまたま釣りをすることにしたんだ?」優斗は、低い唸り声をあげた。
海斗の肩は落ちた。彼は、真実から逃れられないことを知っていた。写真は強力な証拠であり、彼は否定することができなかった。彼はため息をつき、疲労感に襲われた。
「わかった。」海斗は、かすれた声で言った。「その夜は家の近くにいっていたが、中には入ってない。ただ釣りをしていただけだ。すべてを話した。恵子を傷つけるようなことはしてない。」
愛莉は海斗を見つめ、わずかに疑いを抱いた。彼の話は少しもつれていて、うまくいっていなかった。彼女は、彼が何か隠していると感じ、必死に守ろうとしている秘密があると感じた。
「あなたが家の近くにいっていたことは信じてるけど、ただ釣りをしていたとは思わないわ、海斗。」愛莉は、静かな声で言った。「その夜の本当のことを話してみては?」
「他に言うことは何もない…」海斗は、疲れた声で言った。「言ったでしょう、釣りをしていました。沖合何マイルも離れていました。たまたまその海岸に来ただけです。」
「私たちは真実を見つけ出すでしょう、海斗。何か思い出したら、いつでも教えてください。」愛莉は言った。
愛莉と優斗は、互いに視線を交わし、彼らの心には疑いが渦巻いていた。海斗の話は、言い訳の絡み合った網だった。彼の説明は空虚に感じられ、沈みゆく船を救おうとする絶望的な試みに思えた。
「捜査を進めるわ。」愛莉は、断固たる声で言った。「あなたの話を裏付ける証拠を探してみましょう。」
優斗は同意してうなずいた。「再び現場に戻ろう。入り江に行ってみよう。海斗がそこにいた痕跡があるかもしれない。」
愛莉と優斗は、真実を見つけ出す決意を固め、海斗を拘留したまま、その場を離れた。彼らは、人里離れた入り江に向かって車を走らせた。風は彼らの顔を打ち付け、海の香りが空気を満たしていた。
入り江は、そびえ立つ崖の下に隠された、人里離れた海岸線だった。海と陸が静かに抱き合う場所だった。愛莉と優斗は、手がかりを探しながら、あたりを見回した。その光景は荒涼としており、人間の存在を示すものは、老朽化したボロボロのボート小屋と、かすかに漂う塩の香りだけだった。
「ここが、あの写真が撮られた場所ね。」愛莉は、静かな声で言った。「ここで捜査を始めよう。これが、謎を解く鍵になるかもしれないわ。」