オリハ
(JR伊予三島駅)
(3月撮影。以下同)
6月1日、伊予三島駅。
駅のトイレを借りる。用を済ませ、鏡の前に立つ。
「ふむ……」僕だ。
名前は田中旅夢。ゲームに登録したネームもリョム(Lv1 Ex25)。
先月に誕生日を迎えたばかりの、ぴかぴかな16歳の僕だった。
素直な、肩までの黒髪、澄んだ菫色の瞳。柔らかな鼻梁に桜色の唇。
小ぶりの耳。均整のとれた顔のライン、細い首。
小首を傾げる。髪の毛がすんなり揺れる……。
男子としては、ちょっと華奢で頼りない印象かもだけど、まぁ今回。なんとか体力は持つでしょう。なんたって、万能の“オリハ”があるから、ね。
オリハ。インテリジェント・コーティング端末と理解されている、宇宙鉱物だ。
頭の天辺からつま先まで、目ん玉も全て、裸の全身を余さず包んでいるそのオリハは、今、“服”の形態を取っていて――
僕に長袖の白シャツと、デニムのパンツ、赤色のトレッキングシューズを着せていたのだった。
気分を変えてみようか?
“意識”した途端、オリハが反応。シャツが半袖になり色が、パステルピンクに変わったのだった。アハッ!
そして、ゲームアプリ“バトルトラベル”。
出会ってからもう一月がたつ。
でも、周囲の友達に聞いても、いまだに「知らない」と言うだけだし……。
じゃ、もう一度やってみるしかないよね――
と言うわけで、今日の2回目なのだった。
僕は歩き始める。
駅舎の外に出る。スッキリとした青空だ。梅雨の晴れ間の、明るい日の光――
仮想現実が視界の横にマップを表示し、ナビを始める。
靴底がローラーブレードに変形し、自動走行し始める。
「さぁクエストだ――!」
まず目指すはスタート地点、四国中央市、三島川之江港。
大工場がひしめく、働く港だ。
興奮が身を突き動かすままに、僕は駅前通りを北上したのだった。
☆ ☆ ☆
(駅前通りから出て国道11号では、スタートラインまでバスを利用)
(今回は全体的に距離があり、少しでも足を溜めるため)
(前から乗ろうとして、「後ろからです」と教えられたのはいい思い出。笑)