相撲
名乗りを上げた。
「田中旅夢!」
彼女も興奮気味に名乗り返す。
『マリリン・オータム!』
そして、お互いに裸の腰を、スッと落とし気味にする――
もはや分かったろう。
ああバトルとは?! 広大なフィールドを存分に生かして執り行われるバトルとは――?
両者が一糸まとわぬ姿になって正々堂々打ち噛ましあう、スモウレスリングだった!
なんだ相撲か、と言うなかれ。
相撲は、天下泰平・子孫繁栄・五穀豊穣・大漁等を願い、土中の邪気を払い、地を踏み鎮める――神事なんだから。
これほどこのゲームに相応しい試合はない、というものだ。
僕は駆け出すと躊躇うことなく吉野川の水面に足を踏み入れた。さすが大河で水深はそこそこあるんだろうけど、今は百倍の巨人だ。大したことなく水しぶきを上げて走り、勢いのまままりんの巨体にタックルする。
まりんの柔らかい肉の感触と匂い、暖かさを体一杯に感じ取り――ふわっと身体が浮く感じになって、二人して川にドシャンと倒れ込む。まりんは引っ掻こうとし、蹴ろうとし、僕は関節を極めようとし、絡み合い、掴み合い、ゴロンゴロンと転がり合う。
川の流れが音を轟かして大揺れに揺れ、市街に溢れんばかりになったのだった――
もちろん、VR世界でのことだよ!
実体は“巨人の目の位置”に追従する球体だけ。それ以外は二人にしか見えていないこと。
全て、オリハが知覚させる、バーチャル・リアリティだった。
あとちょっとで川岸なのに!
そのちょっとで、川の中央に逃げられる。
さすがは人魚族と思うが何とももどかしく――
僕は――芸なくタックルを仕掛けて――
その瞬間、僕は罠に落ちたことを覚ったのだった。




