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誓いの果て  作者: のの
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兄と弟

 フレール王国の兵達は、自国へ向かって進んで行く。


 少年には、もはやフレール王国の兵達など目に入っていなかった。


「兄上!」


 大通りは、崖に挟まれるようにあるが、馬が一頭登り降りができるような道が一定間隔で設けられている。

 少年が、急いで馬を向かわせようとする前を、黒い狼が立ちはだかる。


「キリウェル! どけ!」


 兄上が行ってしまう。


 すでに、軍勢は森に姿を消そうとしていた。

 黒い狼が、執拗に威嚇することで、少年は苛立ち、リリアーナがいるにも関わらず、黒い狼に手をかざし、何事か唱えると、狼の回りを、黒い靄が勢いよく立ち上る。


 リリアーナが小さな悲鳴をあげる。


 先ほどまで、黒い狼が居た場所には、背の高い、黒いマントの男が立っていた。


 顔が隠れるぐらいの、マントのフードが後ろに落ち、端正な顔を見せる。

 テオグラードの馬の手綱をしっかり持ち、厳しい顔で、少年を諌める。


「行ってはなりません!」


「なぜだ!」

「 軍旗です!」


「軍旗?国王陛下、第一、第二王子、隣国の第三王子!何が問題だ!」


 第二王子の母親は、隣国リメルナから嫁いできている。母親の弟が助けにきていて不思議はない。

 しかし、キリウェルは、手綱をさらに強く持ち食い下がる。


「王軍旗が第二王子、リル様が持っているということは、現在、我が国コッツウォートの王の継承権は、リル様になっております!」


「それがどうした、当たり前だ!」


 王と第一王子が討たれた。

 王と王子の首がさらされたのを思い出し、手綱を持つ手に力が入る。


 キリウェルも、さらに力を込める。


「今、第三王子である、テオグラード様が現れて、大人しく迎えるとは思えません!」


「兄上は、歓迎する。今、僕の魔術は戦いに使える!」

 体力的にも、強大な魔術は使えない。でも、役にたつはずだ。

 仲が良いわけではない。それでも、幼い頃の思い出が、一方的な愛情でないと突き動かす。


 なおも、馬を進めようとするテオグラードに、キリウェルは、手綱を持って必死に食い止める。


「例え、リル様が迎えようが、軍師殿は違います!」


 これには、テオグラードの動きが止まった。

 キリウェルは、続ける。


「今度は、必ずテオグラード様を殺しにかかります!リル様が止めようと。王と第一王子が亡くなり、今、テオグラード様が現れれば、残存する兵は二分されます。」


 元々、第二王子のリルの元には、隣国のリメルナから流れてきた傭兵が多い。

 軍師も、リルの母親と共に、リメルナから来た男だ。


 盗賊の国と言われているリメルナから来た傭兵は、兵士とは言えない、荒くれものの集団だった。

 第一王子とは、10歳も離れていたため、王は、第二、第三王子達の兵達には、重きを置いていなかった。


 気がつけば、第二王子が、王の座を狙っていると、まことしやかに囁かれていた。


 第一王子側は、警戒心露に、第二王子側と対立していたので、今、第三王子のテオグラードが現れれば、王と第一王子の残存兵は、テオグラードに付くだろう。


「テオグラード様が、王になると言うのなら、喜んでお供します!」


 珍しく強いキリウェルの言葉に、絶句した。

 まさか、キリウェルの口から、そんな言葉が発せられるとは。


 兵士とは、名ばかりの自分の軍に、哀れみを抱いていたことは、認めざるを得なかった。

 まだ、幼かった頃、他国への遠征に赴く第一王子の兵達を、キリウェルと一緒に見に行った。


 威厳のある隊列に感動した。


 同じ思いであろうキリウェルを見上げた時に、少し悔しげな横顔を思い出した。

 悩んだ末に、王や兄上の軍に、入りたいのかと、もしそうならば、推薦すると伝えたことがある。

 キリウェルは、少し悲しげに微笑んで、自分に生涯仕えることをあらためて誓ってくれた。


 キリウェルには、悪いと思ったが、自分は、キリウェルにいてほしかったので、その話は、以後、話すことはなかった。

 なぜ悲しげだったのか、今、テオグラードは分かった。

 キリウェルは、王や兄上の軍に入りたかったのではなく、自分の主が、王になり、共に歩む姿を思い描いていたのだと。


 テオグラードは今、キリウェルを巻き、リルの元に馬を走らせていた昔のことを思い出しながら、王となる兄の隊列の後ろ姿を見つめていた。


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