クラウス王子とフレール王国
美しい甲冑を身に纏った王子の名はクラウス。
リリアーナの兄で、フレール王国の王継承者だ。
男は彼一人。幼き頃から、いずれ自分が王になると生きてきた。
周りももちろん彼に膝を折り、頭を垂れる。
17の歳に、王から軍を授かった折りは、高揚したものだ。
西の情勢が不穏な動きに変わり、先立って行われた会議でも、コッツウォートからの援軍を求める声に、クラウスもすかさず賛同の声を挙げた。
だが、その願いは退けられ、妹を結婚相手に届けるため、イリヤ王国へ。
イリヤ王国は、コッツウォートより先の西に位置する。
西の不穏な動きに、フレールの王兵を西に向かわす一方、クラウス王子の兵が、リリアーナをイリヤに向かわすこととなった。
その途上、クラウス王子は、王兵からの使者により、同盟国になる予定であったイリヤが陥落し、コッツウォート王国が陥落した報告を受けた。
コッツウォートに近いところにいた、フレールの王兵が静観したことも聞いた。
王兵とは、大分離れてイリヤに向かっていたクラウス王子の兵は、少ない兵数ながら、助けられる民がいればと、コッツウォートに向かい、敵と鉢合わせしてしまったのだ。
自国へ、向かいながら、クラウスは口に出さずにはいられなかった。
「いったい、父上は何をお考えか!そして私は、何をしているのだ!」
強い憤りを感じた。
自分の不甲斐なさに嫌気がさした。
何も出来ない上に、妹も行方知れずにしてしまった。
クラウスは、先程のコッツウォート王国の王子の蔑む顔を思いだし、唇を強く噛み締めた。
父上はしくじった。
敵を侮った。
イリヤとコッツウォートは敗れた。我が国だけでどう戦うつもりか。
フレール王国は、大国だ。
海もあり、漁業、農業、酪農、気候の良さが国を豊かにし、隣接する国にも恵まれていた。
王の妹、そして娘を嫁がせ同盟を結んでいる。
王は、戦いに出たことがなかった。
暗雲たる噂が、自国で囁かれ始めた時も、遠いところの話しとして、気にも止めてなかった。
自国の議会で、ようやく議題として上がったことで、仕方なく対処した。
それが、第二王女リリアーナを嫁がせることだった。
隣接する同盟国は、小国でフレール王国によって成り立っていて、軍とは名ばかりだった。そのため、娘を嫁がせるという人質で治める案に、渋々従った。
リリアーナは、当初コッツウォート王国の第二王子に嫁がせるはずだった。
急遽、イリヤ王国に嫁がせることになったが、王はコッツウォートより、イリヤを気に入っていた。
小国ながら、鉱山を持ち、商業に長けていた。
フレール王は、商業に長けたイリヤが金で交渉し、西側諸国を上手く治められると思っていた。
しかし、情報収集を怠り、他国の忠告も無視した結果、単純かつ安易な打開策は簡単に終わった。
同盟を結ぶはずのイリヤ、同盟を破棄したコッツウォートが陥落。
フレール王の思惑など、成り立たさない敵だった。