コッツウォートの森
少年は、リリアーナを馬に乗せて森を進む。
この森は、コッツウォート王国の端に位置する大きな森だ。
少年の生まれ育った国。
派手さはないが、木材や、果実、果実酒などに、匠な技を魅せる職人達が、多く住み、他国から外貨を得ていた。
真ん中に大きな一本道があり、森は分断されている。
王都を背にして右側の森は、王都に近く、王国を継ぐ第一王子の所領地。
左側の森は、腹違いの兄である第二王子の所領地だ。
3人いる王子達は、母親の違う腹違いの兄弟だった。
それぞれの所領地には、街を中心に、囲むように森があった。
第一、第二所領地を背に、緩やかな斜面を登るように森を抜けると、断崖絶壁になっている。
この断崖絶壁がコッツウォートの国境だ。
崖を割った真ん中に、コッツウォート国に入る大通りがあるのだ。
皆、コッツウォートに入るも、出るも真ん中の大通りを進むしかない。
テオグラードは、第一所領にいた。
下にある大通りを左手に見ながら、緩やかな斜面を登り、国境である崖まで馬で進んでいた。
いつもなら、もっと早く馬を走らせるところだが、リリアーナを前に乗せているため、ひどくゆっくりに感じられた。
左手崖下を覗くと負傷兵を伴い、急ぎきれない兵列がいた。
「もう少し先に行かなければ、合流できないな。」
「お兄さまは、ご無事かしら?」
震えながら囁く声に、
「ああ、大丈夫。たぶんあれが君の兄上だろう。」
少年が指差す先に、細身だが、美しい甲冑を纏い威厳ある姿が見えた。
フレール王国が、我が国に加勢していればと、少年は手綱をきつく握りしめる。
その時、一本の弓矢が、後列にいた歩兵の背中に突き刺さり、馬が嘶く。
「追ってか?」
少年が振り向くと、先ほどより、少ない兵士達が、リリアーナの兄達に向かっていた。
殲滅させる気だ。
少ない兵数だけに、早い。
「お兄様!」
リリアーナの叫び声に、テオグラードは我に返り慌てて馬を進める。
歩兵を捨て逃げるか、迎え打つか。
馬が前足を上げ嘶き、美しい甲冑が追ってと相対すると剣を振り上げ、剣先を追ってに向ける。
少女の兄の雄叫びで、兵達は追ってに立ち向かおうとしていた。
突然、追って達が弓矢の奇襲を受け倒れていく。
少年は反対側の崖の上から、弓矢を射る兵を見て喜びの声を挙げる。
「兄上!」
彼より4歳離れた兄は、少年には気づかず美しい甲冑を纏った王子に鋭い眼光を向けているようだ。
追ってをすべて倒したのを確認すると、兵に片手を挙げ、森に前進を促す。
崖下では、美しい甲冑を纏った王子が苦虫を噛み潰したような顔で、森の中に消える兵達を見送った。
「殿下、あれは……、」
リリアーナの兄の側近は、呆気にとられていた。
「同盟とはこうすることだと、見せつけられたのだ。くそっ。城に戻るぞ!」
「はっ!」
王子の後に、兵が続いた。