狼たちと鷹
銀色の狼と黒色の狼が、他の狼たちと連携しながら、少年を担いだ青年を先導していく。
まだ、白い壁は追っ手を遮っているが、先程より勢いがなくなっている。
森に逃げ込み、弓矢の射程から外れれば、追っては来ないはずだ。
少年を担いだ赤茶がかった髪の青年とカイと呼ばれた青年が、森に入る。
少年を担いだまま、森の茂みにしゃがみこみ辺りを確認する。
前方には、崖があり、怪我人と気を失っている少年を休ませるのに丁度良い洞穴が見える。
しかし、洞穴に続く雪の上には、男の足跡にしては小さめな足跡が、二人分続いていた。
「女だな……。」
なぜ、こんな戦地に。
面倒はごめんだった。
まともに戦えるのは自分一人。
「これじゃ、襲ってくれと言わんばかりだな……。」
立ち去ろうとしたが、中から泣き声が聞こえて、思わずため息がでた。
俺はここで厄介事にかかわっている場合ではないのに……。
「お願い、洞穴へ…、大丈夫、追っては僕達の前を行く兵を追っている。ミッヒは、カイの為に薬草を探して。」
少年の意識が戻ったのだ。
赤茶がかった髪のミッヒは、少年を洞穴まで運ぶと、傷を負ったカイと一緒に薬草を探しに森に向かった。
洞穴はそれほど奥深くはなかった。
あっという間に泣き声の主に出くわした。
突然、見知らぬ少年が現れたというのに、少女は諦めた様な目を向け、横たわる女の手を取った。
地べたに横たわる女の手を、寒さで、ほんのり紅く染まった自分の頬にあてている。
ゆっくり近づくと綺麗な布が美しい金色の髪を隠していた。
少女はいかにも品があり平民ではない美しさで、歳は少年と同じか、少し幼いぐらいだろう。
戦地となったここで、悪い奴らに捕まれば、身代金をとるか、慰み者にされて身売りされるか、時間の問題だ。
そう時間がない。
少年が地べたに横たわる女の横に跪いた。
女はまだ若く、顔だけ見ればまるで眠っているようだった。
ただ背中に深手を負っているのだろう血だまりができていた。
女は力なく目を開けると、目の前の少年を見つめる。
「あなたは……。」と小さくささやいた。
「……どうか、姫様を守ってくださいませ。お願いします。」
唇を噛み締めるように、息を引き取った。
少女が、女に抱きつき、また泣き始めた。
「時間が無いから……。」
少年は、少女を引き剥がし、女から金目の物を漁り始めた。
「やめてそんな事!」
少女は、少年の腕に飛びついたが、少年は軽く少女をつき返した。
「君のためだ。僕には、何も無い。君が逃げるためにお金が必要なんだ。」
少年は、少女を見つめた。
少女は座り込み、顔を手で覆って泣いている。
少年は、金目のものを漁り終えると、少女に手を差し出した。
少女は、少年の手を取らずに立ち上がると、途方にくれた様子で少年を見た。
「身分が分かる物は、持ってないか?」
少年の問いに、少女は首を振った。
慌てて逃げ出した事だろうし、これ幸いだ。
姫様だと、死んだ女も言ってたし、下手に身分が分かれば、危険度はもっと上がる。
「無事に、家に帰りたければ、これからは僕以外に自分の話をするな。」
少年は、少女に背を向け歩き出した。
少女は、自分のために亡くなった女性に目を向けた。
彼女の名前を知らなかった。
いつもそばにいたが、少女は知る必要がないと育てられていた。
それでも、いつも甲斐甲斐しく世話をしてくれていた彼女の名前ぐらい、知るべきだったと思い、悔い改めた。
ためらった後、少年の後を追いかけるが話し声に足を止めた。
「中に女がいるだろう、二人。」
戦いから流れてきた傭兵が、厭らしい笑いを少年に向けてきた。
「挨拶がしたいんだがな。」
5人の男たちが、ニヤけた笑いを見せた。