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生きたがりの君と死にたがりの僕  作者: 飛鳥シンジ
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5月②

 高校の最寄り駅に着いた。カラオケ店は商業施設のビルの6階にあるらしい。僕と和馬は自転車を止めて四人でビルに入って行った。


 「カラオケなんて久しぶりだよ!私うまく歌えるかなあ」


 千歌がいつものキラキラした目で話している。僕は歌には自信がないので1曲だけ歌って後は他の人の歌を聞いていようと思った。


 一通り飲み物などを注文した後、和馬が叫ぶ。

 

 「トップバッターは俺だ!行くぞおおお!」


 そういえば和馬とカラオケ来るのも久々だ。和馬がマイクを手に取り、歌い始めた。昔から活躍する大御所ロックバンドの曲だ。相変わらず上手いなと素直に思った。音程とかはそこまで正確ではないけど気持ちがこもっている。2人きりの空間でラブソング歌えば女の子に気に入られそうだ。


 「次、若葉ね!」


 千歌がニコッと笑いながら言う。若葉も笑顔でマイクを握る。曲は流行りの韓流アイドルのようだ。ダンスを踊りながら歌っている。すごすぎる。SNSに上げたらバズりそうだ。


 「次は奏多、曲選んでおけよ」


 和馬に促されてタブレット端末を手に持つ。アニソンとかボカロはオタクだけの空間じゃないと歌いづらいし、かと言って流行りの音楽も詳しくない。どうしようかと考えていると千歌が隣に座る。


 「及川くんこの曲知ってる?一緒に歌わない?」


 「知ってるけど…」


 「じゃあ決まりね!次私と及川くんで歌いま~す!」


 千歌は有名アーティストのコラボデュエット曲を見せてきた。千歌と一緒に歌うなんて緊張する。


 「♪世界は平等に美しい♪だから僕らも命を燃やしている♪」


 千歌の声はすっと心に入ってくる。透明感というのだろうか。

 楽しそうに歌う彼女を見て、僕は尊さのようなものを感じた。同時にまた頭がズキッと傷んだ。なぜだろう、千歌といるといつもこうだ。


 その後僕以外の3人が5曲ずつくらい歌って解散となった。僕はタンバリンを叩く係に終止した。




 外に出るとちょうど日が落ちる頃だった。真っ赤な夕日が千歌の顔を赤く照らしている。


 「楽しかったね~じゃあまた明日!」


 「今日はありがと、千歌ちゃん!じゃあな奏多!」


 「ああ、またな」


 自転車の鍵を開けて帰ろうとすると、和馬に手招きされた。


 「なんだよ」


 「俺は若葉ちゃんをホームまで見送りに行く。奏多は千歌ちゃんを送っていけ。紳士的にな」


 「なっ、何で」


 和馬に言われたその言葉に動揺する。まさか和馬は若葉を狙っているのか?確かにちっちゃい子が好みとは言っていたが…


 「じゃあお互い頑張ろうな!」


 何を、というまもなく和馬は若葉に駆け寄っていった。まあ確かにもうじき暗くなるし女の子を送っていくのは男の務めだよな…ということにして僕は千歌を目で探した。


 千歌は20メートルほど先を歩いていた。後ろから声をかけた。


 「千歌さん、送っていくよ」


 「あ、及川くん!…っ…そしたらお願いしようかな」


 夕日に照らされて千歌の顔が赤く映る。内気な少女が慣れない男子に照れて赤面しているようで可愛い。千歌に限ってそんなことはないだろうけど…


 その時僕は異変に気づいた。千歌の顔は本当に赤くなっていた。はー、はー、と息も上がっている。


 「…千歌さん、大丈夫?」


 「ちょっと…はしゃぎすぎちゃったかな…あはは」


 「た、タクシー呼ぶ?それとも救急車?」


 僕は焦っていた。どうすれば…その時、千歌がガッと腕をつかんできた。


 「自転車で家まで連れて行って…すぐ近くだから…後ろの荷台に座るね」


 「え?それって…二人乗りってこと?」


 僕は二人乗りなんてしたことないが、結構大変だと聞く。僕にできるだろうか…


 「じゃあお願い…」


 僕の返答を待つことなく荷台に座る千歌。僕は意を決して前を向いた。


 「…道案内できる?」


 「うん…」


 夕日が地平線に消えていく中、僕は全身のちからを振り絞って自転車を走らせる。千歌の体は思ったより軽く、ほのかに儚さすら感じた。それでも一人分の重さは運動部でもない僕にはなかなかの負荷がかかる。筋肉が軋む。息が上がる。


 日が落ちてあたりは闇に包まれ始めた。5月の夜風が気持ち良い。長い長い夏が始まったような気がした。気分がハイになる。このままどこまでも突き進んでいけるような。千歌と一緒なら…



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