5月①
「奏多、カラオケでも行かね?どうせ暇だろ」
今日も何も代わり映えしない一日が終わり、教室を出ようとしていた時、唯一の親友、和馬が話しかけてきた。もちろん予定などないので行ってもいいが少し面倒だ。
「和馬、部活は休みなのか?」
「おう、みんな久々のオフ日なんだ」
「みんな?誰か他に来るのか?」
「ああ、若葉ちゃんと千歌ちゃん。最高だろ!バランス的に4人が良いんだよ」
僕ははたと足を止めた。教室の前に顔を向けると確かに若葉と千歌がこちらの様子を伺っている。
「千歌さ…間宮さんと斉藤さんとカラオケ?そんなの緊張しちゃうよ僕歌上手くないし」
「まあ人数合わせでいるだけでもいいからさ!行こうぜ」
「なんだよそれ…」
千歌とカラオケ。想像しただけで楽しみと緊張で頭がグラグラする。結局押し切られる形で和馬についていくことになった。
外に出ると少し蒸し暑かった。5月なのにもう夏が来たのかと感じた。最近の日本は春と秋が短い気がする。僕と和馬は自転車を押して行って、若葉と千歌は歩きだった。確か若葉は電車通学で千歌は徒歩圏内だった。
「暑いね~ちょっと着崩しちゃおっと」
「千歌、はしたないよ」
「うおー!千歌ちゃん大胆だね~」
「やだ!和馬くんのエッチ~」
僕は軽口を叩いている彼らの方に目を向けると固まってしまった。千歌がブラウスのボタンを一つ外していた。真っ白な肌が見える。そしてブラウスの下の膨らみも…目のやり場に困った僕は反対側の若葉に声をかけた。
「さ、斉藤さんは学級委員なのに帰りにカラオケなんて行って大丈夫なの?」
「んー?まあ別に内申点のために学級委員やってるわけじゃないし。千歌とカラオケなんて久しぶりだからぜひ行きたいと思って」
「間宮さんとは昔から仲いいの?」
「んーと…」
「あ、及川くん!千歌って呼んでって言ったじゃ~ん」
「ち、千歌さん!?近いですよ…」
いつの間にか千歌がとなりに来ていた。なんかいい匂いがする。かわいい女の子ってどうして良い匂いがするんだろう…
「千歌とは1年のときに仲良くなったの。去年はあんまり学校に来なかったし、来年は受験だから今年は一緒に遊ぼうって」
ねー!っとニッコリ笑う2人を見ると微笑ましい。若葉も気の強い目つきをしているから気づかなかったが笑うと柔和で小動物みたいな可愛さがある。そうか来年は受験か、と奏多は思いを馳せる。
-僕は2年後どこの大学のどの学部に行って、何がしたいんだろう。その先に何が待っているのだろうか。適当に講義を受けて適当に就活して適当に仕事をして生きる。…そんな人生で後何十年も生きるのか?本当にそれで良いのだろうか?そんな事ができるのだろうか?そこまでして生きたいのか-
鬱屈とした感情が出てきて黙り込んでしまった。千歌が僕の顔を覗き込みながら心配そうに訪ねてくる。
「及川くん、大丈夫?顔色悪いよ」
「あ、ああ大丈夫大丈夫」
今からこんなかわいい女子2人と(あと和馬と)カラオケに行くんだぞ。そんなイベント今までなかっただろ。切り替えろ切り替えろ…そう言い聞かせて蒸し暑い5月の夕空の下、僕は自転車を押していった。