4月④
図書委員になったといっても特段僕の学校生活に変化があるわけではない。と思っていたのだが意外とこの仕事は忙しかった。
この高校は図書委員会の活動が活発で、よくイメージされる昼休み・放課後の本の貸し借りの対応はもちろん、図書整理、書架整理、全校生徒への読書のすすめの発行、そして文化祭では全校生徒などから集めた古本市によるチャリティーイベントを開催しているらしい。去年もやっていたようだが全く知らなかった。
図書委員となってから1週間が過ぎた頃、初めて放課後のカウンター対応の仕事が回ってきた。同じクラスの図書委員二人で務める事が多いようで今日は千歌と一緒だった。あらかた作業が終わった頃、千歌が話しかけてきた。
「及川くんは本好きなの?」
千歌がいつものようにまっすぐな目で覗き込んでくる。僕は人の目を見て話すのが苦手だ。特に女子となんて。
「えっと、どうだろ。ライトノベルとかは結構読むけど。小説は有名どころの王道ミステリーくらい」
「えー!私もライトノベル読むよ!最近は7冊くらい新刊追ってるんだ!」
あれとこれと…と作品名を上げていく彼女に僕は驚いた。自分も読んでいる作品ばかりだったし、何よりそんなに本を読んでいるということに対して。人を見かけで判断するのはよくないが、カフェでSNS映えを意識しているほうが似合うJKといったところだ。
「間宮さんは本好きなんだね。なんか意外な感じ」
「千歌でいいよ!千歌で」
また僕はびっくりしてしまった。いきなり距離を縮めて来る人だ。でもいきなり女子を下の名前で呼び捨てなんてできない。
「じゃ、じゃあ千歌さん、で」
「呼び捨てでもいいのに…まあとりあえずそれでいいよ及川くん!」
何故か僕も奏多でいいよ、とはいえなかった。
「本は結構読むんだ~あんまり他にやることないから」
「部活とかは?」
「帰宅部!」
これも驚いた。稲張高校は特段部活が盛んな訳では無いが帰宅部は少ない。活発そうに見えた千歌が運動部ではないのは少し意外だ。続けて千歌がペロッと舌を見せながら話す。
「私、1年のときは学校サボっててあんまり来てなかったんだ。でも今年は頑張って学校来たい!と思って」
「なるほど、だから始業式の日に千歌さん見た覚えないから転校生かと思ったのか」
「えー見たことないことはないでしょ~こんな美少女!」
ケタケタ笑う千歌を見て、自分から言っても嫌味にならない彼女に僕は徐々に惹かれていくのを感じた。そして同時にまた彼女と比較して自己嫌悪感を覚えていくのだった。