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悪役令嬢は魔王と婚約して世界を救います!  作者: 水神 水雲
第4章 仲直りしたい令嬢と魔王の気配(5~6歳)
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35-1 懐かしい世界の言葉が綴られた本

「ぐらんでん……らいあんぐらんでん……っ」


 私専用のお勉強部屋にて一人唸っていた。

 壁一面に収納された本棚を見上げながら腕を組んでキョロキョロと本達を見回す。

 ここにある全てが私の勉強用の本と、パパが買ってくれた私好みの本だった。それが所狭しと並べられている。

 私は本はどちらかと言うと好きという感じだけど、パパは本を読むのが大好きらしくて、ことあるごとに私に本をプレゼントしてくれたお陰でお勉強部屋の本棚は本でいっぱいになってしまったのだ。

 というか、パパ……残念ながら私はまだ文字が全部読めないんだよ、覚えてる最中だから途切れ途切れしか読めないの。それでも将来読めば良いと言って買ってくれるから増えていく一方なのだ。


 でも今はその本の数の多さに感謝をしている、この前お城でゼノがライアン・グランデンがエランド兄様を誘拐しようとした犯人の疑惑があると言っていたから、私はいてもたってもいられず、グランデン様の情報を集める為にこうして情報収集をしようとしているのだ!


「アイビー! らいあんぐらんでん様が関連する本はどれー?」

『子ども部屋の本棚に水龍院幹部の情報が書きした溜められている本などないと思いますわ』


 今日はお目覚めらしいアイビーが脳内で私に受け答えをしてくれる。


「エランド兄様が攫われないように事前に構えておかないといけないんだよ! ライアン様の情報を集めて襲撃にそなえよう!」

『……そうですわね』


 やる気満々の私とは対照的に、アイビーは全くと言って良いほど乗り気ではない。どことなく嫌そうな声色だ。


「アイビー! 私は字があんまり読めないからアイビーが読んでね」

『読むのは構いませんが……やはり子ども部屋にはそんな本はないと思いますわ』

「そうかなー? じゃあアイビーは何か知らない? グランデン様について!」

『……それはつまり、基本情報という事でしょうか?』


 基本情報? えっと、つまりプロフィールという事だよね?

 うんそう、それそれ! と笑顔で頷くとアイビーはゆっくりと口を開いた。


『ライアン・グランデン、十九歳の若さにして水龍院幹部となった次期グランデン公爵であり、王宮に勤める魔力鑑定士ですわ。更に水龍院の総統はこのライアンの父上です。

第一王子のエランドの事を憎んでいるというのは有名な話で、過去にも刺客を送り込み殺そうとした事があります』

「ま、前にもあったの?!」

『捕まったその暗殺者がライアン・グランデンの名を口にしたそうですわ、ですがライアン・グランデンはそれを真っ向から否定しました「ならず者が私を貶める為に嘘をついただけだ」と。それを受けてライアン・グランデンの周囲の取り調べを行いましたが何も怪しい点は見つからず、彼は無罪として釈放されています』


 まさか前科があったなんて。証拠が見つからなかったとはいえ、限りなく黒よりのグレーな気がする。

 それに彼にはエランド兄様を誘拐する動機がある、水龍院としては紅蓮院を従えているエランド兄様がもうじき王太子に任命されるのを阻止したい思惑があるだろうし。


「それっていつの話なの?」

『ウィズ様が第一王子の婚約者候補に任命された数日後の話です』

「しらなかった……」


 エランド兄様の婚約者候補になってからも、私は変わらずにエランド兄様に会いに行って、お屋敷で普通に体を鍛えて過ごして、誰も何も言っていなかったから平和に過ごしていた……。小さなこどもの私には、誰もまだ教えてくれないんだ。


「それにしても、アイビーすごく詳しいね! アイビーがいる所からはいろんな者が見えたりするの?」

『それは……ええ、まあ』

「エランド兄様の誘拐を防ぐために何をすればいいかわかる?!」

『いえ、それは……その』


 先程まではきはきと喋っていたアイビーの言葉が曖昧になった。ここまでライアン様の事を知っているんだから助言とか貰えそうなものなのに。


「アイビー?」

『……申し訳ございません、わたくしは貴方に助言出来る事は何もありませんの』

「そんなぁ」

『すみません』


 ちょっとのアドバイスでいいと言ってもアイビーは頑なに拒否をする。

 今後のアドバイスが貰えないんなら……そうだ、なんの根拠もないけど夢の事をアイビーに話してみようかな?

 私が見た夢……エランド兄様が地下劇場という場所の更に地下につれて行かれて、酷い目に合う夢の話。

 ただの夢、なんだけど……今エランド兄様の誘拐のお話が出てきている事と、夢の状況がどうにも被る面があって気になって仕方ないのだ。


「じゃあ、あのね、最近見た夢の事話しても良い?」

『夢ですか?』

「うん、まずねエランド兄様は今よりずっと大きくなっていてね、みんなに[隻眼の王子様]って呼ばれてるの」

『……っ?!』


 アイビーが驚きのあまり息を呑む気配を感じる。


「それでね、そのエランド兄様が自分の過去の話をしてくれるんだけど、秘密の地下劇場があって、そこの悪い人達に捕まって兄様は酷い目にあって」

『そんな事は放っておけばよいのです!!』


 頭の中がビリビリと痺れる程のアイビーの大声に驚いて言葉も無く固まる。


『ウィズ様! 貴方には関わりの無い事です! 貴方は何もせずとも良いのです!!』

「え……でも、あのね、これは夢の話だから」

『何故そんな夢をっ、やはりどう頑張っても……未来は変えられないと言うのですか』

「あ、アイビー?」


 アイビーは悲観に暮れるように嘆き、呼吸を整えてから呟いた。


『……申し訳ございません、ウィズ様も夢の事ですからあまり鵜呑みのされませんように』

「ちょ、ちょっと待ってアイビー!」


 アイビーとの通話が途切れてしまうと焦って目の前に居ないのに手を突き出して止めようとして、その手が本棚にぶつかった衝撃で本棚から数冊の本がどさどさと頭の上に落ちてきた。


「いたぁいっ?!」

『えっ、大丈夫ですの?』


 私が頭を抱えて蹲るとアイビーは心配そうに声を掛けてくる。

 よかったまだ繋がってるっ、アイビーが夢の話をそんなに嫌がるなんて思わなかったよ、もしかして痛い痛いな話は苦手なのかな? 確かにそういう人もいるしね、このあとお話しようとした夢の内容って結構あれだったからね、反省します。


「だ、大丈夫だよ、でもこの本どうやって戻そうかな、私の身長じゃ届かない高さの所から落ちてきたから椅子を持ってきて……あれ?」



 散乱する本の中に懐かしい本を見つけた。



 真っ赤な装丁に金の葉の装飾が施された分厚い本。

 この本は確か、パパが初めて私を城下町に連れて行ってくれた時に、コリンちゃんが居た店で買ってくれた本だ。

 あの時二冊の本を買ってくれたけど、もう一冊の本が私好みすぎて、その本を何度もソフィアに読んでもらっていたせいで、もう一冊の本の事を忘れてしまっていた。


「これ、結局なんの本だったのかな?」


 床にぺたんと座り込んでその本を手にとって、表紙をまじまじと見つめた。

 普通本だったら表紙にタイトルが書かれているものだけど、この本にはタイトルが書かれていないのだ。


『なんですのその本?』

「魔法の本屋さんで買ってもらった本だよーっ」


 魔法の本屋さん。コリンちゃんはお客様にとって一番必要な本を見繕ってくれるのだと言っていた。つまり、魔法のエナン帽が選んでくれたこの本は私にとって必要な本という事になるけど。


「中を見てみよっか?」


 厚みのある表紙を開いて本の中を見て……私は目を見開いて驚いた。


「これ……」

『なんですの? どこの言語でしょうか?』


 私にはまだ文字が少ししか読めない、けれどこの本に書かれている文字はスラスラと読む事ができる。

 この文字はこの国の文字ではない、この文字は……。


「日本語……?」

『ニホンゴ?』


 日本語と自分で口に出したというのに、日本というのがどこの国なのか分からない、前にお勉強の先生に見せてもらった世界地図にそんな国あったかな?

 頭がズキズキと微かに痛む、けれどどうがんばってもそれ以上の事は分からないし思い浮かばない。

 ドキドキと高鳴る胸をぐっと押さえ込み、そこに書かれている日本語を心の中で読んだ。


【これを目にしたお前が手遅れで無い事を祈る】


 一ページ目にはそれだけ書かれていて、次のページを捲るとまた一言だけ綴られていた。

◇◇◇◇◇


作品を読んでくださりありがとうございます!


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