32-1 謎の少年 アルヴィン
「つまり、ウィズは迷子だね」
アルヴィンの言葉にコクコクと頷く。
あのあと、アルヴィンの気遣いで私は教会内部に案内されて大きなステンドグラスを眺めながら二人で長い椅子に座っていた。
「筋肉がつかないって言われたのがショックすぎてこんな事態になっちゃったの……」
「うーん、確かに自分の凄く大切なものが手に入らないってなるのは辛いよな」
アルヴィンは私の頭をよしよしと撫でて太陽のように笑った。
「大丈夫! 強さはそれだけじゃないから」
「でも重いもの持ち上げたりとかっ、大地をたたき割ったりしたかったのっ」
「あははっ、過激だね!」
アルヴィンは教会に響き渡る位の大きな声で笑う。
「それならさ、武器に自分の魔力を付与すればいいんじゃない?」
「武器に?」
「うん、魔石が宿っている武器の事を魔道具って言うんだけど、それに自分の魔力を付与すれば武器の威力は格段に上がるから、ウィズが言う地面をたたき割るとかも出来ると思う」
「本当――っ?!」
「重い物を持ち上げるのは難しいけど」
「ぐぅ……っ、せめて握力六十位は欲しいです」
「具体的!!」
アルヴィンはお腹を押さえながらそれはもう楽しそうに笑っている、でも一言も馬鹿にしたような言葉は言わない。
「六十は無理じゃない? せめて四十位でしょ」
「四十じゃあ少ないよーーっ!! それじゃお姫様抱っこも出来ないもん!」
「なんでお姫様抱っこしたいの?」
「例えば! 誰かが怪我して倒れてた時に抱え上げて連れて帰るのが格好いいヒーローなんだよ!」
「ウィズの理想像はそれか~」
「それです~」
アルヴィンは椅子から飛び降りると、手招きして私にも降りてと促してきた。それに従って椅子から降りると、アルヴィンは私の前にしゃがんで肩と足を抱いて、お姫様抱っこをしてみようと試みている。
「ふんっ、んんん~~っ!」
しかし、同じ歳位の小さな彼は私を抱っこする事叶わず、私諸共その場にべちゃっと倒れてしまった。
「俺でも無理なんだからウィズは無理だよ諦めよう!」
「やだーーっ! そんな爽やかに言われても諦めたくないやだーーっ!」
今度は私の番ですとばかりに、アルヴィンに飛びついて、抱え上げようとしたけど、やっぱり重くて顔を真っ赤にして踏ん張ってみたけど持ち上がらず、またしても二人一緒にその場にべちゃっと倒れ込んでしまった。
「あははっ、無理だって言ったのに」
「もお! 絶対諦めないもんんんんんっ」
「あのねウィズ、人を持ち上げたいなら腕だけ鍛えてもだめだよ、足腰も使うから」
「じゃあやっぱり筋肉になるね!? その筋肉が付かないって言われてるのにぃっ!!」
「奇跡を起こせ! 頑張れウィズ!」
「びええええっ」
からからと笑いながら、落ち込む私の手を引いて立ち上がらせ、アルヴィンはまた私を椅子に座らせてくれた。
「あーっ面白い、やっぱりどこかで会った事無い? こんなに話が弾むなんて中々ないよ」
「ナンパはのーせんきゅうです」
「ナンパ!」
また笑い出した。よく笑う子だなぁと思いながらも、初対面の私の話をちゃんと聞いて答えてくれた事が嬉しかった。
「ウィズは王都から来たって言ってたよな、もしかして貴族?」
「ち、ちちち違うもん!」
「ふむ、利口だ。見知らぬ場所で一人きり、その状況で自分の情報を隠すというのは重要な事だ」
その口調から察するに、もう貴族だとバレている気がする……服装も変えたし、名前と、王都の家から来たとしか言っていないのにね。
「トゥルーペにも会いたくないみたいだったよね、彼は王都から来たみたいだし、上手くいけば一緒に連れて帰ってくれそうなのに」
「でも、パパが……」
「あまり関わるなって言った?」
「うん」
アルヴィンは椅子に座ったまま足をぶらつかせて、思案するように上を向いた。
「トゥルーペの噂はそんなに悪いものじゃないよ、教会や神殿での勤務態度も真面目だし、孤児を保護する活動もしている、この村の事件の事も気に掛けてわざわざ足を運んだみたいだし」
「事件?」
「……そうだな、一つだけ教えてあげるから知りたいものを選んで」
アルヴィンは指を二本ピッと立てて、私の目の前に翳した。
「一つ目、俺が何者なのかについて。二つ目、この村で起きている事件について。
さあ、どっちを知りたい?」
「えっ、両方は駄目なの?」
「両方教えちゃうと気づいちゃいけない事にウィズが気づいちゃうから駄目」
「うううっ」
凄く親しげな子だから普通にお話してたけど、助けて貰ってからアルヴィンについては名前しか教えて貰ってない。一体どこの誰なのか、なんで助けてくれたのか、その全ては謎だらけだ。
でも、村で起きている事件というのも気になる。確かに治安はいいと言えないし、私が男の人達に追い掛けられても誰も助けてくれなかった事も不自然だ。
腕を組んでしばし悩んでから、アルヴィンの腕を掴んだ。
「おまけしてっ」
「おまけ?」
「村の事件が知りたいです! でもあのっ、アルヴィンの素性は聞かないから! 何をしに来たのかだけ軽くで良いので教えて欲しいです!」
アルヴィンはキョトンとした顔になってから、にんまりと笑った。
「俺は君に気に入られたって事でいいかな」
「え」
「俺の事信用したいもんね」
何故分かったのかな……。
まずこの国に住む者として村の事件の事は聞いておきたいと思った。そしてアルヴィンの事も知りたい、でも何者なのかが分からない以上どこまで信用したらいいのか分からないから、せめて何をしにきたのかだけでも知れれば信用にたる人だと判断したらいいのか分かると思ったのだ。
「無邪気な子どもに見えて、ウィズは賢いね」
「賢くないよ、この前も先生にもっと暗記をがんばりましょうって怒られたの」
「それは勉学だけの話だろ? 俺が言う賢さとは周囲を見渡す視野と手に入れた情報を自分の中でどうやって噛み砕くかという事。
例えば、頭脳が優れていてその知識をひけらかして情報をべらべら喋る人物と、勉学は不得手でも周囲の空気を読んでここぞという時に判断が出来る者とだったら、君はどちらが賢いと思う?」
「……お口チャックして判断する人」
「ね、ウィズは後者の方だよ。ウィズはきっと臨機応変に事を運ぶ事が得意な子なんだと思うよ、状況に応じて選ぶ選択肢を沢山持っていて選べるのは凄い事だ」
「…………」
「頭から煙出てない?」
正直頭から煙が出ていてもおかしくない程頭が混乱している。難しい話はよく分からないんだけど取りあえず褒められた事だけはわかった、よくやったねウィズ!
「それじゃあ、村の事と俺が何をしに来たのかって事を教えてあげるね」
「いいの?」
「うん、ウィズだから特別」
アルヴィンは口元にシーッと人差し指を押しあてた。
「でも、内緒だよ?」
「うん!」
「じゃあ教えるね、まずこの村で起きている事件についてだけど……子どもがね、何人も行方不明になっている」
「行方不明?」
◇◇◇◇◇
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