31-2 筋肉に絶望していたらナンパされました
その後、私はアイビーの指示通りに質屋でドレスのリボンを売って、そのお金で服屋さんにて平民の女の子が着ている固い布のシャツとスカート、更にエプロンを購入して着た。先に着ていたドレスは勿体ないけど、このまま持っていたら貴族だと悪目立ちしてしまうし、これを売ったら何故こんな高級なものを持っているんだとそれこそ目立ってしまうからと、町外れに穴を掘ってドレスのお墓を作って埋めた……別れとはとても悲しいものだね。
これで魔法で気配消しをしなくても町中を歩ける事になり、服を買ってあまったお金をエプロンのポケットに入れ、町中をうろうろと歩き回る事になった。
「このお金で馬車に乗れるかな?」
『貴女のドレスについていたリボンは上物でしたから良い値で売れましたもの、馬車位なら乗れるでしょう、それでも足りないのなら後払いで御父様にお支払い頂いては?』
「う~~っ、こんな所に居る事がばれちゃったら怒られるよ~」
『そこは是非怒られて反省してくださいまし』
「アイビーのいじわる~っ」
舗装していない道を歩きながら、使い古された看板を頼りに馬車乗り場まで辿り着いた。すると、馬車乗り場で人だかりが出来ている事に気がついた。
「どうかしたのかな?」
『さあ……嫌な予感がしますわね、そこの優しげな奥様に聞いてみましょう』
アイビーが指したのは人だかりの後ろで、小さな男の子と手を繋いで困ったようにおろおろとしている金色の髪の女の人だった。
「すみませんっ、なにかあったんですか?」
「あら? お嬢ちゃん一人?」
ここはさっきアイビーに指示されていた通りに首を横に振った。
「ううん、パパは向こうに居るの」
これは一人でいたら誘拐されかねないからというアイビーの指示だ。貴女が思っているよりも、外の世界は危険がいっぱいだからと言っていた。
「そうなの、お父さんの代わりに聞きに来て偉いわね。でも、馬車に乗りたいのなら残念だったわね、今は馬車の往来が停止しているらしいわよ」
「ええっ?! なんで?!」
「なんでも、この町に貴族のお偉いさんっていうのが来ていてね、そういう時は貴族に道を譲るのが礼儀なものだから、こんな小さな町はその貴族が出て行くまで市民用の馬車は出せないそうなのよ」
「そ、そんな……」
「いつもなら貴族がちょっと立ち寄った位じゃこんなに厳重な事にはならないんだけど、今回は相当なお偉い貴族が来ているのかしらね」
私がショックで言葉を失っていると、応対してくれた女性の手を子どもがグイグイと引っ張った、顔立ちもよく似ているから親子なんだろう。
「ままぁ、ぼくお腹すいたよ~」
「あらあらごめんなさいね、今日はお出かけは諦めて家でスープでも作って食べましょうか」
「やったぁ! 病院にいかなくていいんだぁ!」
「こーら、明日には隣町の病院にちゃんと行きますからね」
「ちぇーっ」
女の人は子どもを抱き上げて、優しく私に微笑んだ。
「こういう事情で立ち往生している人も多いから、もしも宿屋が満杯になってしまったら、お父さんと一緒に私の家に訪ねてらっしゃい、町外れにある一軒家だからすぐに分かる筈よ」
「は……はい」
「えーっ、こいつとめるのやだよー! ただでさえいつもより家が狭いのにー!」
「なんてことをいうの! まったく、ごめんなさいね、それじゃあ」
女性は男の子を困った子だと叱りつけながらも、瞳が愛しいと語っていた。大切な宝物を抱きしめるようにして女性はこの場から立ち去って行った。
お母さん……かぁ。
その暖かい姿に少しだけ心がざわついた、いいなぁと憧れてしまうのはまだまだ子どもなのかな。
「一度でいいから、ママに抱っこしてもらいたかったな……」
『ウィズ様……』
アイビーが何かを言い淀んで居た時、私の目の前に大きな大人の男の人が二人ぬっと現れた。つぶつぶのお髭が手入れされておらず生え放題だし、服装も汚れている。お髭に関しては王様のお口の上にあるかっくいいお髭を見習ってほしいですね。
「だあれ?」
「へへっ、お嬢ちゃんさっき質屋で綺麗なおべべ着てた子だろ?」
「あれはど~みても貴族のお嬢ちゃんにしか見えなかったなぁ」
とても悪い笑みだ、質屋の店主さんにドレスのリボンを売るときは気配消しの魔法をしていなかったから、この人達も私の事を見てしまっていたようだ。
「迷子かい? 俺達がおうちまで送って行ってやるよ」
「いい子だからこっちへおいで」
私に男の人達の手が二つぬっと伸びてくる。どう見ても家に送ってくれるような人達には見えない。
『逃げてくださいましウィズ様!!』
「うん! えいやぁっ!」
思い切り地面を蹴って、男の一人の股間に頭突きをかました!
「ぎゃあっ?!」
「いでぇっ!!」
股間を私の石のように固い頭で抉られた男はそこを押さえながら地面に倒れて悶え苦しんでいる。もう一人の細身の男もその光景を見てまるで自分の事のように股間を押さえて青ざめている。
知らない男の人に襲われたらまずは股間を狙えとパパに教わっていたけど、これは男の人にしか分からない痛みがあるんだろうね!
『下品!! とても下品ですわ!!』
「いいの! 逃げるよーっ!!」
このチャンスを逃しちゃいけないと、一目散にその場から走って逃げ出した!
◇◇◇◇◇
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