25-2 魔力について勉強しよう!
鑑定の間へは二つの扉を潜らなくてはいけない。
一枚目の扉を進んだ先に広がる空間は他に出入り口のない一本の長い廊下で、その廊下の先にまた扉がある。銀で作られたその扉の奥が鑑定の間となっているようで、私はメティスと手を繋いで廊下で待機していた。
一枚目の扉の前ではアリネスとポセイドンが静かに待機してくれていた。
「めちすあのね」
「うん?」
「い、いいの? 鑑定しちゃって」
メティスは魔力鑑定を受ける事を嫌がっていた、自分の高い魔力とポセイドンと契約している事を隠したいからという理由だった筈だけど、鑑定なんてしたらそれもバレちゃうんじゃないのかな……?
「心配してくれてるんだね、ありがとう。でも大丈夫だよ」
メティスは手首に嵌めた青い石で作られたブレスレットを私に見せてくれた。そして、小声で教えてくれた。
「これはね、ポセイドンに作らせた魔力封じのブレスレットなんだよ」
「えっ」
「完全に封印する訳じゃなくてね、本来の力を弱める位のものなんだ。大精霊のポセイドンが作ったものだから精巧な作りだし、余程の者じゃなきゃバレないよ」
「すごぉい!」
じゃあそのブレスレットのお陰でメティスは魔力鑑定しても、ポセイドンと契約している事も、すっごく強い魔力がある事もバレないって事なんだね?! メティスちゃんと考えてたんだね!
「あれ? なんかうしろの扉騒がしいね」
「うん、なんだろう」
鑑定の間では前の子がまだ鑑定中の筈、なので騒がしいのは私達が入って来た方の城内へ続く扉の方なんだけど?
どうやら、この廊下の外で見張りをしている兵士さんと誰かが話をしているみたいだった。耳をそばだててみると「だめです」とか「頼む」とかそんな問答を繰り返しているみたいだ。
誰だろうと首を傾げていると、その扉はゆっくりと開き、アリネスは警戒していたけど、その入って来た人物を確認すると一歩下がり姿勢を正した。
息を切らせながら入ってきたのは、エランド兄様だった。
「エランドにいさまっ?!」
「ウィズっ、メティスっ」
焦った様子のエランド兄様が私とメティスの元へ駆け寄ってくる。私もメティスも予想外のエランド兄様の登場に目を丸くして驚いてしまっている。
「何かあったのかっ」
「なにかって?」
「メティスの鑑定は最後の筈だろう? なのに早めたって、何かあったのかと思うのが普通だろうっ」
エランド兄様は私とメティスを交互に見つめて心配そうにしている。
「あのね、ウィズのパパまだ来てないからメティスが先に鑑定を受けてくれるって、時間をかせぐよって言ってくれたの」
「ああ……それで予定にない流れになったのか」
エランド兄様は「よかった」と安堵の溜息を漏らした。
「わざわざ僕の鑑定を確認しに来たんですか? 兄上より僕の方が魔力が強いと貴族達が騒ぎかねませんもんね」
「メティス……」
エランド兄様から顔を背けたメティスと、寂しそうに眉を垂れたエランド兄様。ん~? また私の分からない難しいやり取りしてるなぁ。
「エランド兄様はめちすが心配できてくれたんだもんね!」
「あ、いや……」
「めちすのかんていけっか次第では、めちすが虐められたらおこだよって来てくれたんだよ! ねっ、めちす!」
エランド兄様の事だから、メティスが最後の鑑定だと把握していて、王様と一緒に見守ろうって待機していたはず。それが早まったから慌てて来てくれたんだね!
苦笑いをするエランド兄様に対し、メティスはじっとエランド兄様を見つめてから、視線を逸らしてしまった。
「本当……貴族って面倒くさい」
「メティス?」
「なんでもありません、僕とウィズの邪魔だけはしないでください」
「わかってる、父上はまだ公務が終わっていないから来れないが俺だけでも見守って……」
「要りませんよ、僕は一人で結構ですから邪魔になるから兄上は戻って」
「ええーっ、やだよ! ウィズ二人と一緒がいい!」
メティスとエランド兄様の中に割って入り、二人と手を繋いだ。
「いっしょ! 三人でいっしょ!」
「ウィズ……」
メティスは困り果てた顔をしていたけど、もう何も言えなくなってしまったようだった。
「えへへ~これが噂のりょうてに花ですねぇ!」
「花……俺とメティスが花」
ぷはっと笑い出すエランド兄様。
「その言葉は普通、男が女性に囲まれた時に使う言葉だぞ?」
「えー? じゃありょうてにゴリラ?」
「ウィズのそのゴツイもの好きはどうにかならないのかな」
メティスも堪えられないと笑いだし、さっきまで殺伐としていた空気がほんわかと柔らかくなった。
「大好きなふたりと一緒! ウィズ嬉しいなぁ~っ」
にっこにこしながら鼻歌でも歌い出しそうな程ご機嫌に待機していると、鑑定の間の扉が開いた。どうやら、私達の前に鑑定していた子が終わったようだった。
「あれ?」
親御さんと子どもの組み合わせだろうと思っていたのに、出てきたのは紫色の髪をした男の子と女の子だった。
男の子は私と同じ位か一つ年上位で、女の子は私よりも小さい子。微かに震えていて、男の子の腕にしがみついていた。顔がとてもよく似ているから、きっと兄妹なんだろうね。
「あ……」
男の子が私達の存在に気づいて体を強ばらせた。
どうしようか迷っていたようだったけど、目の前まで来ると頭を下げた。
「お、王子殿下にお目にかかります……」
「お前は確か……ミラー家の」
家の名前を呼ばれ、男の子はビクンと肩を跳ねた。
「あ、あの……国王陛下のお計らいで、妹の魔力鑑定をさせていただきました」
「だあれ?」
私が問い掛けると、男の子は困ったように私とエランド兄様を交互に見つめた。
あ! そっか! 目上が先に名乗るんだっけ?! さっきルアちゃんから教えてもらったもんね! ありがとうルアちゃん!
私は礼儀作法の心の師匠であるルアちゃんを真似て、えっへんと胸を張って挨拶をした。
「わたしはポジェライト家のウィズです! 貴方はっ?」
「え、あの……」
「ウィズが知りたがっている、名乗っていいよ」
メティスからの許可に男の子は狼狽えながら頷いた。
「わ、私はミラー子爵家の次男、アレス・ミラーです……そして、私の隣にいるのは、妹のアリア・ミラーです」
名前を紹介されて、女の子はビクビクしながらアレスさんの腕にしがみついている。
「こんにちはー!」
「……っ」
女の子、アリアちゃんは顔を歪め涙ぐんでアレスさんの後ろに隠れてしまった。
「すみません御令嬢……妹は、喋れないのです」
「え?」
「心の、病気で……しゃべれなく、て。無礼をお許しください……失礼します」
アレスさんは、アリアちゃんの体を支えながら改めてお辞儀をして、この場から立ち去って行った。
完全に出て行った事を確認してからメティスが溜息を漏らした。
「父上も甘すぎますね、ミラー家に施しをするなんて」
「ああ……」
「ミラー家の人がどうかしたの?」
エランド兄様は渋い顔をして、私に教えてくれた。
「ミラー家は……裏切り者が居た家だから」
「裏切り、もの?」
「ミラー家の長男は下二人と随分歳が離れていてな、長男の名はアルベール・ミラー、魔王大戦の時に父上達と魔王討伐の為に旅立ったうちの一人で……旅の途中で父上を裏切った者なんだ」
「え……」
王様達を裏切った……という事は、私のパパも裏切られたという事なんだろう。でも、裏切ったって具体的にどう裏切ったというのだろう。
「そのせいで父上達は死にかけたし、多くの犠牲も出たらしい。ミラー家は元は侯爵家だったが、子爵家に降格されほとんどの土地も没収された。今では子爵家とは名ばかりの貧乏貴族だ……」
「ミラー家が取り潰しにならなかっただけでも、奇跡のような寛大な処置ですよ」
エランド兄様の言葉にメティスが同調し頷く。
「その、あるべーるさんは、なんで裏切ったの? 今はどうしてるの?」
「裏切ったという事は知られていても、裏切った理由までは知られていないんだ。知っているのは父上、ヴォルフ、ディオネ、クラリスの当時共に旅をしていた勇者達だけだよ。父上はこの件に触れられたくないみたいでな、聞くに聞けないでいるんだ」
続けてメティスが言う。
「アルベールはね、死刑になったよ」
「し、けい?」
「裏切り者には死あるのみ、断罪されたという事さ」
さっき挨拶をしたアレスさんと、アリアちゃんの姿を思い浮かべる。小さな二人だけで魔力鑑定に来ていた理由が、そこにあったのかもしれない。
「アリアちゃんが喋れないのは……おにいちゃんがしんじゃって、会えないからなのかな」
「さあ……どうだろうね」
「ウィズもね、もしも、もしも、エランド兄様とめちすが……しんじゃったら、悲しくて怖くて苦しくて、喋れなくなっちゃうと思うの」
繋いだままの二人の手をぎゅうっと握りしめた。
「だから、悲しいね」
「ウィズ……でもね、罪人に情けなんて」
メティスの言いかけた言葉を、エランド兄様はやめておけと手で制し首を横に振った。メティスは不服そうにしながらも、別の言葉を口にした。
「僕は、君が優しすぎて心配だよウィズ。この醜い貴族達の巣窟で純粋で優しい君が傷つかず、利用されずにいられるか、心配で堪らない」
「この話はこれぐらいにしよう、今はお前達の魔力測定の方が大切だ」
エランド兄様が行こうと促せば、私は二人に手を引かれながら鑑定の間へと入って行った。
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