24-1 魔力測定当日
今日は遂に魔力鑑定の日! 今まで自分の魔力とか世界の魔法について全然分からなかったから、教えて貰えるという意味では今日はとても楽しみにしていた。
鑑定式の流れは、念に数回の国が定めた鑑定式の日に、貴族の子ども達が城に登城し、魔法についての講義を受けた後で一人ずつ魔力の属性鑑定と魔力量の測定をするという事になっていた。
大抵はその家の当主とその子どもが一緒に出席する事になっていて、私もそうする予定だったんだけどパパのお仕事が滞っていて、鑑定式には向かうけど遅れての出席になりそうだと連絡が入っていた。なので、私は先に護衛の女騎士さんと一緒にお城の控え室まで来ていた。
「ねえねえ、騎士さん」
「ウィズ様、私の事はアリネスとお呼びください」
「はぁい」
椅子に座る私の隣に美しい姿勢で立っている女騎士さんの名前はアリネス。
何でも最近、金翼の騎士団から銀翼の騎士団へ移動してきて、更に銀翼の騎士団の副隊長に任命されたらしい。ポジェライト家は完全実力主義の家なので、強ければ若くても隊長にだってなれる。つまり、十四歳という若さで副隊長に抜擢されたアリネスは強さの超エリートと言えるのだろうね!
アリネスを見上げて、その美しさをじーっと凝視してしまう。ゆるくウェーブのかかった長い薄紫色の髪、顔の造形はお姫様かと見紛う程に整っていて、小さな顔とキリッとしたお目々に長い睫毛。紫色の瞳は宝石みたいで綺麗だなぁと、兎に角身長も高くてスラッとしてて、綺麗でかっこよくて隙が無いクール美人さんだ! 何度だって綺麗だと言えてしまう!
「ウィズ様」
「はい!」
「慣れぬ私を警戒するのは分かりますが、私よりも周囲を気にしてください」
警戒していたんじゃなくて見とれてたんだけどなぁ。でも、そうだよね! 魔力鑑定に来たんだからちゃんと周囲も見ておかなくちゃ!
改めてこの控え室の中を見渡した。貴族の待合室というだけあって、ダンスホールかな? という位に広々とした部屋に、シルクカバーの掛けられた丸テーブルが幾つも置かれていて、その上にはティーカップとお菓子が並べられていた。
そして、そのテーブルの周りには椅子が置かれていて、そこに座って貴族の子ども達はお菓子を食べながら談笑していた。
ここには子ども達とその護衛、またはメイドさんや執事の姿しかなく、親貴族達は別室に招かれている。
まずは子ども達だけで社交をしなさいという事なのかな、でもみんな私と同じ位の歳の子ばかりだからなぁ、緊張して固まっている子や、大声で話して笑ったり、自慢話したり、怯えて半泣きになっている子など、子どもならではの自由をしてしまっている。
会場には……まだメティスの姿は見えないみたい。ちょっと遅れて行くとは聞いていたけど、直前になったら来るのかな?
私が居るテーブルには私一人しか居らず、そういえば貴族の子どもの友達はメティスとエランド兄様しか居なかった事に今気づく。
同年代の女の子の友達が欲しいかもっ!
あちらこちらで、楽しそうにふわふわとお話をしている女の子達の姿を見て、羨ましいなとうずうずしてしまう。
「あっ」
視線を泳がせていると、とある女の子と視線がぶつかった。金色に艶やかな長いストレートの髪、大きくてまん丸なローズピンクの瞳。他の同年代の子ども達が落ち着きが無い中で、一人だけ胸を張りながら椅子に座っている姿になんだかとても惹かれた。
「アリネス! ウィズあのことおしゃべりしてくるね!」
「え? あの方はまさか」
「いってきまーす!」
「お待ちくださいウィズ様!」
アリネスはどこか慌てた風だったけど、早くおしゃべりしたいと気が急いて、椅子から飛び降りてその女の子の座っているテーブルの所へ駆け寄った。
「こんにちは! わたしポジェライト家のウィズです! あのねっよかったら一緒におはなし……」
「ポジェライト家の……ウィズ?」
女の子の顔が驚いたものから、怒りの表情へと変わった。
「……この」
ぺちん! と頭上に衝撃が走る。
目の前の女の子に頭を叩かれたのだと分かった時には、女の子は叫んでいた。
「私の方が! 貴女なんかより絶対魔力が強いはずなんだから!」
「へ……?」
「英雄様の皆様の子どもでっ、私が一番優秀なの!」
「ほ、ほえ……」
「私はロレーナ家のおじょーさまなのよ! 私より優秀な子はいないの!」
英雄? ロレーナ家? どんどん分からない話になってきて、お話をする事が出来ずに目が回っていく。
「わ、私のパパヴォルフっていうんだよ! 世界一のまほーつかいって言われてて、すごくかっこよくて」
「知ってるわよそんなこと!」
「えと? あなたのお名前はなんていうの?」
「ふんっ、私はっ」
女の子は自分の胸に手をあて、声高らかに宣言した。
「わたしはロレーナ公爵の娘ルティシアよ! お母様に相応しい英雄にわたしもなるの!」
ふんっと顔を背けて両手を腰にあてた。
「絶対にあなたよりも私の方が優秀なんだから!」
「そうなんだね、凄いねルティシアちゃん」
「気安く名前をよばないで!」
何故かルティシアちゃんは更にイライラしてきたようでどんどん目が吊り上がっていく。
私何か言っちゃいけない事言ったかな? 優秀って事に凄くこだわってるみたいだけどなんでだろう?
「話しかけてきたのも、自分のほうが強いって自慢する為なんでしょ?!」
「えっ?! 違うよ? ウィズはルティシアちゃんと友達になりたくて……」
「いいわ! 決闘なら受けてたつんだからっ」
「違うよちがうよーーー?!」
ルティシアちゃんが手を振りかぶり、また頭をぺちぺちと叩かれると身構えた! 頭のツボが的確に叩かれている! これは肩こりが治ってしまうやつだ! 私はまだ肩こり未経験だけど!
そしてにひたすらルティシアちゃんに頭のツボをぺちぺち叩かれていると、周囲も何事かと注目し始める。
もうどうしたものかと困り果てていた時、私とルティシアちゃんの間を別の小さな腕が割り込んできて止めてくれた。
「このような日に騒ぎを起こすとは関心しないな、ロレーナ嬢」
「あ、めちす!」
メティス遅れて来るって言ってたけど、今来たんだね?!
メティスは私を背に庇い、笑顔でやんわりとお嬢様に注意をした。
「ウィズにマナーを指南出来る程、貴女のマナーが正しいとは思えないんだけど?」
「むぅっ」
メティスに怒られて、ルティシアちゃんは頬を風船のようにぷくーっと膨らませた。えっ、可愛い!
「私が一番優秀で強くなくちゃいけないの!」
「いたっ?!」
ルティシアちゃんはメティスのもみあげを思い切り掴んで引っ張り、ふんっと鼻息荒く走って待合室から出て行ってしまった。そして、ルティシアちゃんに付き添っていたメイドさんが真っ青な顔でメティスに何度も謝罪して頭をさげて、後を追って出て行ってしまう。
「とんだじゃじゃ馬を育てたものだねロレーナ家は……」
「メティス大丈夫? もみあげとれたの?! くっつける?!」
「いや揉み上げってそんな簡単に取れるものじゃないからね?」
第二王子であるメティスの登場に、会場がざわめき立っているけど、メティスはそれに全く構わず、私の頭をよしよしと撫でてくれた。
「大丈夫? 叩かれて痛かったね」
「全然痛くないよ~! 健康になりました!」
「うん? なんの話?」
「ウィズね、ルティシアちゃんとお友達になりたかったの、でも頭のツボがとても刺激されて健康になっちゃってね」
「ちょっとどういう事なのかわからないね」
「このまえメイドさんに聞いたけど、目下のものが目上のものに先にはなしかけちゃだめって、それで怒ったのかなぁ?」
首を傾げると、メティスは顎に手をあてて考える素振りを見せた。
「まあ、そういうマナーはあるけど、しゃべっちゃいけないんじゃなくて、先に名乗って話しかけるのは上位貴族からであり、挨拶が済んだら下位貴族も喋っても大丈夫だよ」
「そうなのー?」
「だから、僕と君も普通に話してるじゃない?」
「そうだねーっ?!」
「それに、ロレーナ家とポジェライト家の立場でいうなら対等だけどね」
メティスは私の頭を撫で続けながら、最後にほっぺをぷにっと指先で押した。
「ぴゃ」
「ロレーナ家の女当主の名前はクラリス、君の父親のヴォルフとは共に魔王討伐の偉業を成した元聖女だよ、聞いた事ないかな?」
「そうなのぉ?!」
クラリス、という名前ならパパから聞いた事はあったけど、家の名前まで覚えていなかったから気づかなかったよ。つまり、ルティシアちゃんはクラリスさんの娘、という事かな?
「ウィズ、ロレーナ家のおじょうさまと友達になりたーい!」
「ええ? 酷い目にあったのに?」
「かわいくてつよそうだもーん!」
「強そうというか、結構な我が儘な子だって噂がある問題令嬢なんだけどね。
でもまあ、ウィズが気に入ったっていうんならお仕置きはしないでおこうか……命拾いしたね」
メティスは貼り付けた笑顔でにっこりと微笑む。いのちがなんて言ってたの? うん? 聞き間違い?
その時、控え室の扉が開き、案内人の魔道士の人が入ってきた。
「時間です、皆様講義室へお越し下さい」
ぶっきらぼうにそれだけ告げ、移動を促された。
「魔道士ってこういうものだよ、礼儀がなっていない者が多いんだ」
「講義室でおべんきょー?」
「そうだよ、簡単な話だからすぐに終わるよ」
「はい!」
私の後ろにはアリネスが、そしてメティスの後ろにはポセイドンが控えて、他の貴族達に続いて私達も移動をしようと歩き出した。
「ポジェライト辺境伯家のウィズ令嬢」
「へ?」
「貴女だけ別室に来なさい」
魔道士さんが私だけを別室に来いと言い出して、足がピタリと止まった。
「え、でも今から魔法のおべんきょうが……」
「講義は受けなくて結構、その後にある魔力鑑定だけ受けなさい」
「そんなぁ」
魔法について知れると思っていたのに、講義に出れなかったらそれを知る事も出来ない。何故私だけ予定を変更しなくてはならないのだろう?
早くと私を促しながら手を伸ばしてきた魔道士の手をアリネスが払いのけた。そして、苛立った様子で私と魔道士の間に割り込んだ。
「勝手を言われては困ります、ウィズ様に講義を受けるなとは一体どういう事ですか」
「連れてくるように言われているのでな」
「このような大切な日に連れ出せとは随分と不作法な輩もいたものですね、一体誰なのです」
「ウェスト家の当主、ダルゴット様だ」
ウェスト家……?
ウェスト家って確かママの生家で、つまり呼んでいるのは私のおじいちゃん?
おじいちゃんなら会ってみたいな、生まれてから会えた事ないもんね! でも、前からパパもメティスもウェスト家には関わって欲しくないみたいだったし、それに王様も言ってた。
『ウェスト家には気をつけるように、レベッカも嫡男もいなくなった今、次に駒として狙われるのは君だろうから』って。
アリネスの顔が強ばる、私を背に庇い守るように後退した。
「お引き取り願えるようお伝え下さい、ウィズ様とウェスト家を会わせてはならないと我が主に厳命されています」
「フンッ、貴様は下級貴族出身だったな? ウェスト公爵家に逆らえるような立場ではない筈だが」
「身分など関係ない、私は己の守るべき姫君を守るだけだ」
「楯突くとは噂に違わぬ蛮族のような下品さだな」
一色触発の雰囲気に焦ってしまう、アリネスは私を守ってくれているけど、このままじゃアリネスが罰せられてしまうんじゃないだろうか?
それに、私も一度会ってみたい、ウェスト家当主ダルゴット様に。
私のおじいちゃんだというし、もしかしたらちょっと頑固なだけで誤解されがちな人かもしれないし、お話ししたらいい人かも、しれない。
でも、それでもやっぱり怖い人だったら、ちゃんと距離は取らなくちゃ。それを判断する為にも一度は自分でもしっかり会っておかなくちゃと思うんだよ。
「アリネス、ウィズいってくるよ」
「ウィズ様?!」
「だいじょうぶよ、すぐ戻るから!」
「良い心がけですね、護衛は不要ですから御令嬢一人で来なさい」
アリネスは着いてくるなと言った魔道士にアリネスの瞳が怒りで見開かれる。
「護衛を付けるなとはどういう事だ!」
「ウェスト家は令嬢の母君の生家です、危険などなにもありませんので護衛は不要です」
「貴様……我らを愚弄するのもいい加減にっ」
「君は確か、魔塔第五級の魔核管理士のペインだったね」
今まで大人しく話を聞いていたメティスが突然話に割り込んできた。
「ウィズは会いには行かない、ダルゴット卿にもそう伝えてくれる?」
「は……いや、そういう訳には」
「君さ、誰に口答えしようとしてるの?」
メティスは馬鹿にするように小さく笑った。
「七年も魔塔に所属しているのに未だに第五級の地位しか得られていないから、誰かの力を借りて夢でも見ようとしているのかな?」
「な……っ」
「もしも、君が突然魔塔での階級が上がったりしたら……なんて、そんな事も勘ぐってしまいそうだけど。ねえ、誰かの息でもかかっていたりしない?」
メティスは自分の何倍も大きな魔道士に詰め寄ると相手は怖じ気づいたように後ろに下がる、そしてメティスは不敵な笑みを浮かべ魔道士へ指をさした。
「この僕が行かなくていいと言っているんだよ、二度も同じ事を言わせるな」
「で、ですが……」
「お前、早死にするタイプだね」
ゾクリと周囲の空気が凍り付いた。
メティスから放たれる殺気にこの場にいる誰もがたじろぎ、それを一身に浴びた魔道士は顔面蒼白になり、言葉を発する事も出来ずに震えている。
「めちす、だいじょうぶだよ! 少しお話したらすぐにもどってくるから!」
「そのまま帰してもらえない可能性が高いからこうして止めているんだよ」
「え?」
「なんの騒ぎですかな?」
低い男の人の声。それは蛇のように絡みつき鼓膜にへばりついた。浴びせられた未知のどす黒い視線に恐怖が迫り上がる。
それを理解するよりも早く、本能で思わずメティスの背に身を隠してしまった。
アリネスは腰に下げた武器に手をあてて構え、静観していたポセイドンですら警戒態勢を取った。
魔道士は冷や汗を掻きながらその人物に頭を下げ、その人は私を凝視しながらその場に現れた。




