21-2 強くなりたい(エランド視点)
今日はウィズのプレゼントをお忍びで買いに行く予定だったのだが……なんとも間が悪い事が続いてしまった。
俺とゼノがディオネを待って待機していた部屋の前で、水龍院の人間が立ち話をして、その話の内容が【偶然】俺達に聞こえてしまった。
『メティス様とウィズ様は大層な仲がよろしいらしいですよ』
『それはめでたい話ですな、ポジェライト家は今までは少々閉鎖的な部分がありましたからなぁ』
『メティス様とウィズ様が婚約された暁にはポジェライト家を水龍院へ招いてはどうか?』
『ポジェライト家と言えば先代が隣国の大貴族の娘で嫁いで来たという血筋でしょう? 隣国とのパイプもできますし』
『それはいい! そしてゆくゆくは力をつけたメティス様が王位につくでしょうな』
『まあエランド様は少々あれですから……不吉な赤目が』
『いやはや、こんな話を聞かれては首が飛びかねますな!』
『はははっ! ウィズ様はメティス様を贔屓してくださっているのは明白! 我ら水龍院の基盤も万全となるでしょうなぁ!』
そんな明らかに悪意のある【偶然】を装って俺に会話を聞かせ、水龍院の者達は立ち去って行った。
どうやら水龍院はメティスとウィズを婚約させ、ポジェライト家の力を自分達の元へ置きたいらしい。
俺の後ろには紅蓮院、メティスの後ろには水龍院が控えている。
俺達が望んでいた訳じゃないのに、気がつけば奴等は俺とメティスが自分達の神だというように崇め奉り、互いに争っている。
俺からしたら紅蓮院も水龍院もどちらも疎ましい存在だが……俺が紅蓮院を捨てれば水龍院が力をつけ、俺は王子としての力を失う。逆に水龍院を潰せばメティスに被害が及ぶ。
両極が存在するからこそ保たれている政も多々ある訳で、政治的なパワーバランスが崩れてしまうのは王家としても悩ましい所ではある。
俺にウィズとメティスの話を聞かせたという事は、必要以上にウィズに近づくなと、ポジェライトの力は水龍院のものであると脅したいんだろう。
確かにあれ達が言っていたようにポジェライト家の力は絶大だ、その戦闘力だけで無く、何より国民に絶大な支持を受けている面が大きい。
父上の代になってからは、国民の王家への見解は良い方向へ変わったらしいが、それでも先代国王の汚点が付きまとっている。そういった面を払拭し、派閥に力をつける為にもポジェライト家の力が欲しいのだろう。
そして思う、浅はかな者共めと。
ポジェライト辺境伯に実際に会った事はあるのだろうか? あの者に会えばこんな馬鹿げた発言は出来ない筈だ。
あの者は、娘や家族を生け贄にしてまで権力を手に入れようとする者じゃない。
もしもそんな奴だったら、今こんな風にウィズと王族の俺、それにメティスを遠ざけたりしていないだろう。
このような戯れ言は日常茶飯事だ、相手にしていたら切りが無いだろうと、聞こえていないふりをしようとしたが、俺の隣にいたゼノは眉を釣り上げて怒り、文句を言ってやると飛び出しそうになった所を腕を掴んで止めた所だった。
「なんで止めるんだエランド! あんな奴等! 俺がぶん殴ってやる!」
「落ち着けゼノ、問い詰めた所で有耶無耶にされるだけだ」
「不敬罪だ! エランドを傷付けやがって許せるか!」
気持ちは有り難いが落ち着けと、ゼノの腕を引いて無理矢理ソファーに座らせた。
ゼノはまだ興奮していて、鼻息荒く叫んだ。
「彼奴らだけじゃないっ、紅蓮院だって馬鹿げた事をいう奴がいるっ、それもさもエランドの事を考えていますと良いながら結局は自分達の権力欲しさに持ち上げているだけじゃないか! エランドが将来国王になるだけでいいと! そうしたら紅蓮院は勢力を強めると! 馬鹿げてる!」
ゼノはぎゅっと拳を握りしめて怒りに震えている。
「彼奴らエランドがどれだけ努力してるか知らないんだ! 勉強だって! マナーだって! 剣術だって! 誰よりも何倍も頑張ってるのにそれで出来るのが当然だって顔してやがる! 悔しい! 俺は悔しいっ!」
ゼノの背を撫でて落ち着けと何度も言う。
いつもこうだ、俺が腹を立てる前にゼノが先に怒ってしまうから、おれはその必要が無くなる。俺の代わりに悔しがって怒ってくれるから、俺が抱える弱くて情けない面はゼノが補ってくれる。それにはとても救われている。
「それになんだよ! やっぱりポジェライト家の令嬢もメティス王子の味方かよ!」
こういう、裏表がまだ見れないという欠点を除けば本当に良い奴なんだけど。いや、分かってる普通六歳ってこういうものなんだ、俺がちょっと嫌な経験が多すぎて理解が早いだけで、ゼノが普通なんだきっと。
「ポジェライト家が敵でも俺はお前の味方だからな!」
「ありがとう……いやでも、ポジェライト家は別に敵では」
「メティス王子とポジェライトの令嬢が婚約しても俺の家はお前の味方だ!」
ウィズとメティスが婚約したら……。
その言葉に何故か胸がチクリと痛んだ。
婚約するという事は家同士の絆を深め、勢力を強くするという貴族なら当然の義務なんだ。それにウィズとメティスがもし本当に婚約したらウィズと俺は兄妹になるじゃないか、今よりずっと傍にいれる、喜ばしい事じゃないのか。
ウィズはずっとメティスの隣にいて、ウィズのあの可愛らしい笑顔はメティスだけのもので、ウィズはメティスの姫になって……もう、俺が慰めてやる必要も無くなる。
どうして、こんなに胸が苦しいんだろう。
「ゼノ、エランド様、迎えの馬車の用意が出来ましたよ」
「父上! 行こうエランド、今日なんか買い物するんだよな? 楽しみだな城下町!」
「え……ああ、行こうか」
俺の心の中で何かが苦しんでいたけど、どうしてか分からず、そのまま城下町へと出掛ける事となった。




