162-1 真相の裏で暗躍する者達
「待って、まだ大切な事を聞けてないよ」
もう話す事は無いとばかりにお菓子の追加をするために人を呼ぼうとしたアルヴィンを止めた。
この場であるなら私達に害を与えないと言っていたんだから、聞ける事は今ちゃんと聞いておかないと、次は安全に会話が出来る状態であるかは分からないんだから。
「何が聞きたいのウィズ?」
「私の前世が初代聖女なのは分かったよ、でも私の鮮明な記憶では地球っていう異世界から転生してきた筈なんだけど」
「ああ、それ」
この時のみんなの顔色をあえて注視していた。驚いた表情をしたのはレグルスだけだった。メティスには私から話しているし、アルヴィンもまた知っていそうだから良いとして……ハイドとフレッツが無反応だったのが気になる。
「ハイド、フレッツ……もしかして知ってたの?」
「……」
ハイドはあからさまに私から視線を逸らした。これは! 知っていたやつだ!
「姫さん、俺は驚いています、表情筋が死んでいるだけで普通の人間なら青ざめて驚き椅子から転げ落ちている程に驚いていますぅ」
「言い方が凄くわざとらしい気がする!」
「気のせいです」
「気のせい~?!」
そんな筈が! と吠える私に対して「おしいんですけどね」と謎な発言をしている! 惜しいとはなにが?!
「ハイド! ハイドは知ってたの?! どうしてっ」
「……いつ僕を頼ってくれるか待っていたんだ」
「へ?」
「そこのキングオブ魔王が」
「きんぐおぶ魔王……」
間違い無くメティスの事を言っている。過酷だったらしい修行を受けたハイドにとってメティスはどう転んでも魔王なんだろう……なんだか私怨を感じる言い方だった。どんな修行だったのかは、いまだに私には教えてくれない……もしかして結構ハードな事をさせていたの?
「姉さんに守られるだけの弱い僕なら足手まといになるから領地へ帰れと、姉さんの弱点になる位なら安全な場所で邪魔にならないようにしていろと言っていた意味が……今なら理解出来るんだ」
「わ、私ハイドの事も守れるよ! それ位に強くなったから」
「いつも僕を守ろうとする姉さんが、いつか自分から頼ってきてくれる日を待っていたんだ。そうしたら、姉さんの命と願いを賭けた戦いに僕も巻き込んでくれるだろうと」
ハイドは寂しげな顔を見せたあとで、ようやくだったと笑った。
「姉さんが頼れる位に、僕は強くなれたという事だ」
「ハイド……」
堪らずハイドを抱きしめていた。何度もありがとうと言いながら、背中に隠して守る事を誓っていた子が、いつの間にか逆に私の力になりたいと頑張ってくれていた事、その気持ちがとても嬉しかった。
「ありがとうハイド……! これからは頼らせてもらうね、でも無茶だけはしないで」
「ああ……姉さんも」
「うんっ」
姉弟で熱い抱擁を交わしていたというのに、途中でメティスにべりっと引き離されてしまった。
「それで? ハイドレンジアは何故ウィズが転生してきた事を知っているのかな?」
メティスの冷たい笑顔に怯む事なくハイドは睨み付けている。
「……姉さん、昨晩言っていたよな。僕を頼ったのと同じように、もしこの場にリュオが居たら、奴にも頼っていたかもと」
「え、うん。リュオも頼っていた筈だよ」
「帰ったら一番先にリュオに話をすると約束してほしい」
「う、うん、分かったよ?」
どうしてリュオの話が出てきたのかと頬を掻くと、メティスが膝に乗る私の頭を撫でながら、ようやく納得したと言い出した。
「リュオからウィズの話を聞いたんだね?」
「え……ええ?! そうなのハイド?!」
ハイドは少しの間があったあとで頷いた。
「社交界デビューの日に、リュオから姉さんを救うために力を貸して欲しいと言われて姉さんが何度も人生をやり直し時を巻き戻している事を聞いた」
「な、なんでリュオがそんな事を知っていたの? 私ですら覚えていない事を」
ハイドはリュオに配慮してなのか、自分からは言いにくそうに口ごもる。けれど、これらの話で推察したのか、メティスが的確な答えを告げる。
「リュオは恐らく、未来から来たんじゃないかな」
「未来、から?」
「未来から来たのならウィズの事情を知っている事も納得出来るし、謎もいくつかとけるね」
「謎って?」
「ポジェライト家のハイドレンジアの捜索は、王家も秘密裏に動いて探していた事だった。しかし、それでも見つからなかったというのに、リュオがあっさりとその居場所をウィズに教えただろう?」
「うん、リュオはオヴェン家に仕えていたから、ハイドの事を誰かに助けて貰おうとしたって」
「ハイドレンジアが囚われていたのは使用人すら知らない、オヴェン家の者以外立ち入れない地下室だったという」
「え……」
「ウィズが立ち入って直ぐにあの家は燃えたから事情をあまり知らないのは当然だろうけど、僕は後日に色々と調べているからね。ただの使用人であるリュオが知る事はあり得ないんだよ」
じゃあリュオはオヴェン家の使用人じゃなかったの? 記憶喪失というのも嘘だって言ってたけど、本当に未来からきたの?
「リュオという人物の足取りを、国随一の情報機関シリウスにも探らせたけど、何一つ情報が出てこなかった」
「シリウスって」
ゲームでちらっと見たことがある情報だ。ゲームでは情報機関シリウスの長はアレス・ミラーその人であり、家を建て直す為にその組織を悪事に使うようになり、シリウスは金の為なら誰にでも情報を売り、汚い事も何でもする悪の組織と成り果てていた。
けど、メティスがミラー家を救った事で、シリウスは本来の情報機関としてそのまま残っているようだ。多分……第二王子のメティス直属の情報機関になっているんだろう。
「まるで突然この世界に現れたかのように、リュオの情報はウィズと出会った馬車の事故からしか得られない。その不自然な存在はむしろ、異世界や未来から来たと言われた方が納得する位だ。ウィズという前例がいる事を僕は知っているしね」
「メティス頭がいい~」
「褒めてくれるなら頭を撫でて欲しいな」
よしよし凄いとメティスの頭を撫でると、メティスはとても嬉しそうに微笑んだ。
「ハイド、リュオが未来から来たというのは合っているの?」
「それは本人の口から言わせたかったんだが」
「あとで本人からも聞くよ!」
「身も蓋もない……」
「ハイド~!」
「ああ……らしいな、身分はポジェライト家の使用人だったらしいが」
なるほど、だからポジェライト家のみんなの幸せを願ってくれていたんだね! 忠義者という事なんだろう。だから私も、リュオの事が可愛くて仕方が無いのかな。
「なら、何故彼はこの時間軸にいないんだろう?」
「え? メティスどういう事?」
「未来から来たというのなら、今の時間軸でポジェライト家に仕えている彼がいる筈だけど?」
「もしかして、私が今までの時間軸と違う動きを沢山しちゃったからリュオが現れなかったとかそういう事?!」
こういうのをバタフライ効果というのだ。少しの行動で、未来が少しずつ、そして大きく変わってしまうのだと。
「いや、それだとシリウスの情報に引っかからなかった事にはならないね」
「確かに」
そう相づちをうったのはハイドだった。やっぱりリュオの存在が見えない事が二人とも疑問らしい。
「ははは」
思案するメティスとハイドを笑ったのはアルヴィンだった。
「あと少しでバレちゃうだろうね、リュオは」
「もしかしてアルヴィンは知ってるの?!」
「ウィズはリュオが好きなの?」
「そりゃあもう信頼してますよ!」
林檎のように丸い頭も、鋭いツッコミも、優しいのにちょっと不器用な所も全部可愛いのだ。今ではリュオもフレッツと同じように私の中では大切な、家族だ。
「それは困ったね」
「な、なにが?」
「リュオを少しでも長く傍に置きたいなら……君の母上の救出はやっぱり遅い方がよさそうだ」
「え……」
なんで? 意味が分からない……わから、ないけど。
ママの居場所を伝える事を、ママの救出を遅くしろと言われたのは初めてではなかった。
じゃあ、あの人は……トゥルーペは、どういう意味であの日、私にママの居場所を伝えないよう言ったのだろう?
「もしかして……」
「メティス?」
メティスは青い瞳を逸らし、何か深く考え込んでいる。
「何かに気がついたの?」
見上げた私をじっと見つめ、ぽんぽんと頭を撫でる。
「……ごめんね、分からない」
「そ、そう?」
そして、アルヴィンと視線を交え、二人で威圧するように睨み合う。無言の会話が二人の中で成されたようだった。
「ウィズの質問に話を戻すけど、君が異世界から来たというのも事実で間違いない」
「ど、どういう事?」
「簡単に説明すると、知恵を付けて強くなってもらう為だよ」
「つよ、く?」
「何度も、何度も、何度も、痛めつけられて壊されかけた君の魂を元の形に近づけて救うには、シロツメクサの君がいない世界で君を保護する必要があった。シロツメクサが居るこの世界では、ウィズはいつも不幸に見舞われていたから」
アルヴィンが喋れている。呪いで血を吐くこともなく……つまり今はなしていることは、シロツメクサの君が制御出来なかったアルヴィンの行動という事?
「俺はウィズが何度も時を巻き戻し、やり直した時間の行動を覚えている。君の顔はシロツメクサの呪いで忘れさせられても。何が起きたのかは覚えている」
「うん」
「そして、君の魂に知恵をつけて対抗する手段を得てもらう為に異世界へと、とある方法で送った」
「とある方法って」
「言いたくない」
「うっ」
もごっと口ごもった私に対し笑みを浮かべ、「ここまではいいね?」と続けた。
「乙女ゲームという言葉を知っている?」
「し、知ってる! 知ってるよ! 私はその乙女ゲームでこの世界の事を地球で知ったから!」
だから、この世界に転生したときは、ゲームの世界に入ったのだと思っていた。ヒロインがいて、攻略キャラがいて、私は悪役令嬢で……。
「この世界、ウィズの輪廻転生の話を乙女ゲームとして創るように指示を出したのは俺なんだ」
「あ、アルヴィンが!? どうしてっ」
「どんな手段を使ってもいいから、地球に転生するウィズに未来の危機を知らせるように。またこの世界に戻ってきた時には、同じような目にあわずに回避できるように、その知識を付けさせるためだ」
じゃあ、あの乙女ゲームは私が未来の知識を得て立ち向かう力を得る為の情報そのものだったという事……? やっぱりゲームなんかじゃなくて、私自身におきていた未来の話だったんだ。
「ウィズに教える為だったというのなら、何故そのシナリオでウィズを主人公にしなかった?」
メティスに苛立ちに空気がヒヤリと冷える。
「ウィズの為ならウィズ視点で、ウィズが主人公となり話を作った方が手っ取り早いというのに、何故まどろっこしい事をしたんだ?」
「俺は未来の知識を【とある人物】に教えて【どんな手段を使ってもいいからウィズに教えるように】と言ったんだ。まさか、悪役令嬢という役として使われるとは思っていなかった」
「その人物というのは誰だ?」
メティスの視線を交わし、アルヴィンは私を見た。
「ウィズはもう、出会っているんじゃない?」
「え……?」
「乙女ゲームの制作者、地球での名前を【時輝】という」
□□□
リュオに関しての事は(122-2)~(123-2)話を読み返して頂くと、今回の話がより分かりやすくなります。




