156-2 SECOND 狭い視野を広げられるか?
まず、私達の計画の大まかなやることは。
ファンボス王を呼び出して革命を中止させる事と。メティスを光の大精霊アルヴィンと接触させない事。この件についてはアルヴィンは大聖堂にいる筈だからそこに近づかなければなんとかなる……筈。
メティスに関しては周囲の事情のせいで色々と踏んではいけない地雷があるから、私とハイドの目の届く範囲で付かず離れずでいたい所。
そして、肝心のレグルス。彼の傍からは絶対に離れず、彼を殺し、ポジェライト家に罪をなすりつけようとした人物を特定する事。
革命が起きてしまえば、前回と同様にレグルスが死ぬ確立がぐんと上がってしまう。だから革命の阻止と、レグルスを守る事が第一条件となる。
それで、レグルスが無事に生き残れたら……絶対にアルヴィンと二人でお話してもらいたい。レグルスが死んで、あんな風に泣いて自暴自棄になってしまったアルヴィンだもん。それぐらい大切な存在なんだと二人にはお互いの存在の大きさを知って欲しい。
「は~い~ど~! お姉ちゃんと遊びましょう~~!」
「ウィズ様、ハイドレンジア様はお疲れのようですからそっとしておきましょう」
前回と同じようにハイドの部屋を訪ねて、これまた同じ台詞がメティスから返ってきた。同じ行動パターンを取ってしまうと同じ未来に進んでしまうと言う暗示な気がしてならない。前回はここでハイドは出てきてくれなかったけど、今回は違う。
数秒おいて、ハイドの部屋の扉が開いた。
「おはよう、姉さん」
「おはようハイド!」
口には出さなかったけど、視線を交えて意思疎通をする。今回はハイドが助けになってくれる、どのように計画を進めるかは話し合い済みだけど、失敗した時の事を考えて何パターンも計画を練っている。主にハイドが考えてくれたんだけどね。
「出てこないかと思っていました、大人になりましたねハイドレンジア様」
「どういう意味だ」
ハイドはメティスがリュオの変装をしている事に気がついていないフリで最初は動く事になっているから、いつもメティスに食って掛かるような言い方を我慢して少しの文句だけにしていた。
でもメティスの言う通り、前回のハイドは出てこなかったからね……拗ねてたんだろうなぁ、可愛い。
ハイドと私を先頭にリュオなメティスが少し後ろを歩く。前はアルヴィンに会おうとしていたけど今回は絶対に会いに行く事はしないと決めたので、目的地が変わっている。
「お二人の本日のご予定は?」
リュオなメティスにそう聞かれ、ハイドに目配せする。
「ファンボス陛下にお会いしたいんだが」
「……お忙しいので会うのは難しいかと思います」
ほんの少しだけ歯切れが悪かった。その理由も今なら分かる、王様は自国の兵士をレグルスに貸して共にヨレイド国の王を殺して革命を起こそうとしているのだ。
そして、その情報をメティスも知っている。だから、会うことは出来ないと思っているんだろう。
しかし! 更に私も知っているんだよ! 王様はその革命には参加しない! 私とメティスが光の大精霊アルヴィンに会いに行くと思って、私達のあとをつけているという事を!
だからまず王様の食いつきそうなネタでおびき出すしかない! って、ハイドが言ってた!
「王様に会うのは今日は難しいみたいだねハイド、ならお姉ちゃんと一緒にお散歩しようか?」
「ああ、そうしよう」
潔く諦めましたという風にして、ハイドにエスコートされながらスタスタと歩きだした私をメティスはやや訝しげに見ていた。
おっといけない、メティスは勘が鋭いからもっと上手くやらなくちゃね!
城内を見学するフリをして、人気が無い場所を通って中庭にやってきた。勿論前回レグルスと遭遇したロビーは避けて通った。レグルスに遭遇するにはまだ早いから。
水路が張り巡らされている中庭の東屋に入ってハイドと設置されていたベンチに座った。
「風が気持ちいいね~、天気もいいしこんな日は外でお茶会とかしたかったよ」
「それなら、侍女に用意するよう頼んでこよう」
そのハイドの発言に、リュオになりきっているメティスは反応せざるを得ない。
「お二人はここで待っていてください、俺が頼んできますから」
「動かせちゃってごめんねリュオ、お願いできる?」
「はい、頼むだけなのですぐに戻ります」
自分で用意してくると言わないのは、すぐに戻って私の傍を離れないという意味だ。メティスの事だから、革命を起こす前に私をお城の外の安全な場所に連れ出そうと考えてそう。
言伝だけなら五分くらいで戻って来る……なら、罠を仕掛けるなら今しかない! 王様はきっと、光の大精霊に会いたいと言っていた私の方にマークして身を潜めている筈だから。
「あのねハイド……私最近考えている事があるの」
「悩み事か?」
「うん……」
ここから先のハイドとの会話は、ハイドが考えてくれた王様を呼び出す罠だ。私はこの会話で王様が食いついてくるか不安だけど、ハイドがいけるというから信じて話してみようと思う!
「メティスとの婚約の事なんだけど、王妃様は私達の婚約を反対していて今すぐにも婚約を破棄させたいみたいなの」
「そうだとは話は聞いているな」
しおらしい顔をしてみせる、顔が引きつらないように気をつけて出来るだけ自然に! メティスがいたらバレそうだけど、遠くから監視している王様なら騙せる筈。
「私達はこれからルーパウロ学園に入学して、卒業するまで早くて三年かかる……それまでに婚約破棄されないかって不安で」
「その可能性も高いだろうな」
ハイドは心配するフリをしながら、閃いたというように私の肩を叩いた。
「なら、メティス殿下と入学前に婚姻を結んでしまえばいいんじゃないか?」
「ええ? でもそんな勝手な事っ」
「姉さんはポジェライト家を継ぐ為にルーパウロの卒業資格が必須だ。だから学園には通わなくてはいけないが、婚姻を結んで学園に通ってはいけないという法律はない」
「そうなの~っ?!」
しらなかった~! と大袈裟に言いすぎて、ハイドに「こら」と目配せされた。演技って難しい。
「でも私っ、王子妃になる可能性もあるから」
「先に婚姻を結んでしまえば容易く覆す事は出来ない。だから、婚姻を先に結んでメティス殿下がポジェライト家に婿入りすればいい」
「そんなこと出来るのー?」
「メティス殿下なら姉さんと結婚する為になんとでもするだろう。だが、その場合」
ハイドは声をやや大きくして告げた。
「メティス殿下は王族から籍を抜くことになるだろうが」
「ちょっと待った!!」
真後ろの生け垣からファンボス王が頭に葉っぱをつけた状態で立ち上がった! どこかに潜んでいるとは思っていたけどまさか真後ろだとは?! 全然気配がなかった!!
「お、おうさま、どうしてそんな場所に?」
「私のことはいい! しかし! メティスを王族籍から抜く事は許さないぞウィズ嬢!」
「な、なぜでしょう?」
「寂しいからだ!!」
呆気にとられている私と、勝ち誇った顔で私を見て来るハイド。まるで「ほらな? 出てきただろう?」とでも言いたげだ。
メティスを守って死を選ぶ位のお父さんだから、メティスが大切なのは分かるけど。
「ウィズ嬢! 幸せにしてあげるから王家にお嫁においで!」
「い、いえ私はポジェライト家を継ぐので両立出来るかどうか……えーと、どちらの道を選択するのかは検討中といいますか。それに、メティス様とは婚約はしていますが、返事は保留中となっていて」
「保留とは?! うちの息子の唇を奪っておいてか?!」
「な、ななななんの話ですか?! そんな事してません!!」
「私が知らないと思ったら大間違いだぞウィズ嬢!」
話が噛み合わない! わ、私そんなっ、メティスときっ……ちゅーなんてしたことないし!
うん? と浮かんだ違和感に首を傾げる
ないよね? ……うんない、ない筈だ。
「それだ」
ハイドが謎のタイミングで閃いたと指を鳴らした。それってどれ……?
「なんの話をしているんですか」
呆れた顔をしたリュオなメティスが戻って来た! 予想していたよりもお早いお戻りでっ。
「リュオか! 聞いてくれ! ウィズ嬢がうちのメティスを弄ぶつもりなのだ!」
「それはいつもの事ですね」
さらりと言い返したメティスにぎょっとする。 いつもの事とは?! 私そんな悪女みたいな事してないよ?!
「口づけの事もしてないと聞いていた通り本気で言うんだな!」
「誰から聞いたんですか」
「二人の大切なファーストキスだったろうに!!」
「ウィズ様、お茶の用意を指示してきましたので、いましばしお待ちください」
「私の話を無視するなーーっ?!」
リュオの姿をしていても、王様は正体がメティスだと知っているもんね。この場にハイドがいるからまだ隠しているだけで……と、ハイドを見ると密かに悪い顔をしていた。な、なにを言うつもりなの?
「その話には間違いがあるよな姉さん」
「え? そうだね、私はメティスとは、まだちゅ、ちゅーなんてしてないし」
「そうではなく」
悪い顔のまま、ハイドは笑みを浮かべた。
「姉さんの初めてのキスは幼い頃だったと聞いていたから」
「え……」
場の空気が凍り付く。
私の初めてのちゅーが? 幼少期? そうだっけ……? だれだっけ? パパやハイドにただいま~と、おかえり~のほっぺにちゅーをしていた事じゃないよね? あれ? ちゅーなんて記憶にない……でもハイドは嘘をついているという感じじゃない、確信をして言っているようだ。
「……そうなの? ウィズ様? 誰と? いつ? どこで? なにかあっての事で? 好意から? 事故で? 何歳の時に? 目撃者はいる?」
「ちょっ、ちょっと待ってリュオっ、そんなにいっぱい聞かれても! 私知らない! 覚えてない!」
「覚えてない? 本当に?」
「う、うん、だからハイドがなんの話をしているのか私には分からないよ」
「当時姉さんは必死だったようだから意識もしていなかったんだろう、僕も父さんから話を聞いた時は何も思わなかったが、今のファンボス王の話を聞いてふと思いだしただけだ」
ハイドは何事もなかったというようにベンチに座り直した。
「では、お茶でも頂くとするか姉さん」
話を打ち切ろうとしたハイドを、リュオなメティスはじっと、いやもう穴が開く程にじっっっっっと見ていた。
この時、なんとなく悟った。ハイドはメティスが無視出来ない情報をちらつかせて、あえてしまい込んだのだと。リュオの変装をしているから、メティスはメティスとしてハイドに言及できない。リュオがしつこくハイドに聞くのもおかしいから。
今後の展開の為なんだろうなと思い至り、ハイドも頭が良いなと思った……けど!
それ!! 私のファーストちゅーの事でしなくてもいいんじゃないかなぁ?!




