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悪役令嬢は魔王と婚約して世界を救います!  作者: 水神 水雲
第2章 世界最強魔法使いのパパ帰還と王子様の恋(3歳)
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15 一人じゃないって勇気がみなぎる


「我が儘を沢山言っていいんだぞウィズ」


 右手をエランド兄様、左手をメティスと手を繋いで、私は二人の真ん中に挟まれながら薄暗い廊下をぽてぽてと歩いていた。

 そんな時に、エランド兄様が突然そんな事を言い出したものだから、どういう事なのって首を傾げる。


「わがままー?」

「うん、あれが欲しいとか、こうして欲しいとか、自分の欲求をちゃんと口にして伝える事も大切って事だ。勿論それで怒られる事もあるけど、それって相手にちゃんと自分の気持ちが伝わってるって事だから」

「エランドにーさまおとなみたーい」

「とても六歳の考えとは思えないよね」

「いやお前だけには言われたくないんだけどなメティス……」


 だから、と付け加えてエランド兄様は私の背を押してくれる。


「これからヴォルフ様にお前の気持ちを沢山ぶつけるんだ、良い子のフリして大人しくしていたらいつまでも気持ちが伝わらないまますれ違ってばかりだぞ」


 繋いでいるエランド兄様の手にぎゅっと力がこもった。


「関係が拗れて、話も出来なくなってしまってからじゃ遅いんだからな」


 とても寂しそうな声、そして何故か左手を繋いでいたメティスの手もぴくりと動いていた。二人の顔を交互に見比べると、二人とも顔を背けて重苦しい空気を背負って沈黙していた。

 どうしたのかなと思ったけど、エランド兄様が私に勇気を与えようとしてくれているという事は分かった。パパを待っているだけじゃ駄目なんだって、きっとそういってくれたんだね。


「じゃあウィズわがままのれんしゅーする」

「我が儘の練習?」

「うん、エランドにーさまと、めちす、きいてくれる?」

「ふふっ、ウィズは今まで何が欲しいのかって聞いても全然お強請りが無かったから新鮮だね、言ってみて」


 ご機嫌に微笑むメティス、言ってみろと促してくるエランド兄様。

 我が儘という事は無理で無謀だけど私がこうしてほしいから! これが嬉しい! やって! という事なんだよね、多分。

 二人は王子様だし、難しいって分かってるけど、これは我が儘の練習だから、沢山我が儘を言って駄々をこねてみよう。


「ウィズねぇ、エランドにーさまとめちすが大好きだからねぇ」

「うんうん、僕も好き」

「俺も」

「だからね、さんにんでいっしょにあそびたいのよ!」


 ピタリとエランド兄様とメティスの足が同時に止まる。二人と手を繋いでいた私も強制的に歩みを止める事になってしまい、どうしたのとばかりに交互に顔を見つめた。


「……三人で?」

「うん! だってね、めちすとあそぶひはエランドにーさまきてくれないし、エランドにーさまがきてくれるひはめちすこないんだもん」

「いや……それは、避けていたから」

「ウィズもっと別の我が儘はないか? その……三人で遊ぶ以外に」

「いーーやぁあっ! さんにんであそぶのぉ!」


 我が儘を言えと言ったのはエランド兄様だ! だから私はここで沢山我が儘を言って、我が儘レベルをあげるのだ!


「さんにんでおやまにいくの! ぼうけんするの!」

「冒険? なんで?」

「わるいがおーをたおしにいくのよ!」


 三人で旅をして、剣と魔法を使って悪い奴等をバッサバッサと倒して、邪竜が住んでいる山に登って囚われのお姫様を助けに行くのだ! 鼻息も荒く、目を輝かせながら二人に告げる。


「ソフィアによんでもらったえほんにかいてたの! ゆうしゃはおひめさまをたすけるのよ!」

「そ、そうか」

「エランドにーさまはかっこいいからけんしさまね! めちすはきれーだからまほうつかいね!」

「じゃあウィズは?」

「ウィズはね! ゴリラやるね!」


 ぶはっと二人同時に噴き出した、何故なの。


「な、なんでゴリラ…っ」

「せかいさいきょーせいぶつだからよ!」

「ぶっくく……っ! ちょっとっ、意味がわからないっ」

「わからなくないよめちすー! ごりらはね! すごくはやくはしるし! ちからもつよーいし! こぶしいっぱつでうみをたたきわるのよ! ウィズもこぶしでうみをたたきわるの!」

「あははっ! なにそれ! あははははっ」


 メティスはお腹を抱えながら大笑いをしている、対してエランド兄様は口元を手で隠してぷるぷる震えている! これは笑っているね?!


「けんしさまと! まほうつかいさんと! ゴリラでおひめさまをすくいだすの!」

「う、ウィズお前どんな絵本を読んで貰っているんだ? あとで見せてみろ」

「ゴリラ! ゴリラの存在感がすごいっ」

「ふたりともわらわないのぉ!」


 両手をぶんぶん振っても二人は絶対手を離してくれない! 私は真剣なのに!


「だいすきなふたりとうぃずでたびをするのぉ! そしたらずっといっしょにいられるもん!」


 二人は笑うのを止めて、じっと私の顔を見つめた。


「ママとおとーとがいなくなってから、ふたりにあえなくてウィズさびしかったもん! あいたかったもん! だからぼうけんしたらずっといっしょにいられるもん」

「ウィズ……」

「どっちかがいなくてもやだ……いっしょがいい」


 ぐすっと鼻を啜りながら俯く。

 エランド兄様と遊ぶ日にはメティスに会えない。メティスと遊ぶとエランド兄様は会いに来てくれない。なんでかな? 私は三人で遊びたいのに、一人ずつじゃなくて、三人で一緒に遊んだ方が絶対に楽しいのに。


「三人であそんでくれないならウィズもー二人とあそばなぁい!」

「ええ? ついさっきまで寂しいって言ってたのに?」

「おんなはかけひきするいきものだってメイドさんがいってたのよ」

「解雇しようそんなメイド」

「でも、そうだな」


 エランド兄様はぐんと手を引いてまた歩きだした。


「俺も本当は……三人一緒がいいな」

「……」


 エランド兄様は困ったように微笑み、メティスは困惑した。


「俺も我が儘が言えるなら、お前達と一緒に何もしがらみに囚われずに……遊びたかったな」

「…………」


 メティスは視線を逸らして何も答えない、けれど私の手を痛い位に握っていた。


「いっしょ! エランドにーさまもウィズといっしょでだいすきなのね!」

「うん、大好きだよ」

「めちすはー?」

「僕は……」


 メティスはエランド兄様と一度視線を合わせたけど、すぐに顔を背けてしまった。


「……兄上とは別に、遊びたくない」

「そう……だよな、変なこと言って悪かっ……」

「えーー? なんでーー? めちすもエランドにーさまのことだいすきなのに?」


 びたっとメティスの足が止まる、何言ってるんだとばかりに驚いた顔をされて逆にこちらが驚いてしまった。


「ウィ、ズ、勘違いしてるね」

「してないもん、めちすいっつもエランドにーさまのはなししてるもん、めちすきらいなひとのはなししないってウィズしってう」


 ずばむっと音が聞こえそうな程素早く激しくメティスに手で口を塞がれた。


「してない! してないよ!」

「してうもーん! うれしそうなかおもしてたもーんっ」

「してない!!」


 メティスの手を掴んで押し返して、メティスもまた押し返して、してたしてないと言い合いをする。

 絶対そうだよ! 勘違いじゃない! だって今もメティス慌てて焦ってるじゃない!

 エランド兄様はそんな私達のやり取りを呆気にとられたように眺めて、少し考えてから、とても嬉しそうにはにかんだ。


「兄上ち、がいますからねっ、ウィズが思い込んでいるだけで僕は別に兄上の事なんてどうでもいいですからっ」

「ウィズ、因みにメティスは末王子のラキシスの事は何か言ってたか?」

「のうみそまめつぶって、ばかにしてた~」

「あっははははっ」


 今度はエランド兄様が大笑いする番だった。腰を折り曲げて涙を浮かべる位に笑っている。


「はぁ……俺がウィズを助けにきたつもりだったのにな」


 私よりもちょっと大きい小さな手で頭を撫でられた。


「ありがとうウィズ」

「いーのよ!」

「意味も分かってないのに胸を張らないっ」


 ツンとメティスにおでこを突かれたけど、二人ともまた手を繋いでくれて一緒に歩き出した。


「えへへ~、ウィズやっぱりエランドにーさまもめちすもすきぃ」

「うん、俺も」

「幸せそうでいいね君は」


 そんな会話をしながら廊下を進んでいく、さっきまで胸を覆い尽くしていた寂しさなんて全部どこかに消えてしまっていて、二人の手の温かさが心地よくてずっとこのままでいられたら幸せなのになぁって思っていた。


 お屋敷の最上階、普段は限られた使用人しか入る事が許されないパパの書斎の前まで辿り着いた。

 扉は半開きになっていて、暗い廊下に扉から僅かに光が漏れていて、その部屋だけがスポットライトで照らされた舞台のように感じて尻込みしてしまう。


「ウィズ、大丈夫だ俺達も行くから」

「言いたい事、あるんでしょう?」

「う、うん……」


 二人と手を繋いだまま、恐る恐るその扉に近づいて、隙間から部屋の中の様子を覗き見た。



 部屋の中では机を挟んで対面でソファーに座るパパと……王様の姿があった。



 ドクンと心臓が鈍く鳴る。


 この光景を私は見た事がある。ママがいなくなる直前に脳裏に浮かんだあの映像と同じだった。


「すまないヴォルフ……まさかこんな事件が起きるなんて」

「目撃情報は?」


 喋っている内容も一緒、一つだけ違うのは、映像では項垂れていたパパが、今は鋭い目で窓の外を睨み付けながら王様の話を聞いているという事だけ。


「数人の使用人が見ていたそうだ、レベッカ殿は屋敷の馬車ではない庶民が乗るような木製の荷馬車に乗って裏門から出て行ったと。恐らく事前に外部の者を雇っていたんだろう」

「それで、その先でならず者に襲われたと?」

「そうだ、そしてあの爆薬の量だ……レベッカ殿もお前の子どももきっと、助からないだろう」


 ダンッと、パパは握りしめた拳で机を叩きつけた。


「ファンボス……気づいていないとは言わせないぞ」

「分かっている、ただ証拠がないんだ。レベッカ殿を襲った輩はお前の氷魔法で捕らえた者達も居たが、獄中で何者かに殺されてしまい証拠が残っていない」

「……奴め、今まで俺が黙っていてやったのは誰がいたからだと思っている? これは俺に対する報復だと受け取っていいという事だろうな」

「落ち着けヴォルフっ、気持ちは分かる! だが、証拠も無いのにアレに刃向かえば国への謀反だと陥れられるのはお前の方だ! そうなればお前の領地はどうなる! ウィズ嬢の身だってっ」


 パパは殺気を溢れ出させながらも黙り込んだ、氷のように冷たい眼差しを細め、言葉を吐き捨てた。


「俺は領地へ帰還するが、ウィズは王都へ置いていく」


 息を呑む。目を限界まで見開いて、段々と身体が震えだした。

 私の様子に気がついたエランド兄様とメティスが慌てた様子で振り返り、何か声を掛けてくれているけど耳に届かない。



 私は今……パパに捨てられようとしているんだ。



 あの白昼夢と、同じように。



 白昼夢でママと弟くんが死んでパパは私をこの広い屋敷に一人置いていった。仕事を理由に私の事は避けて一切会ってくれる事は無くなった。

 また、あんな寂しい思いをしなくちゃいけなくなるの? パパは私が、邪魔なの?


「それは危険だ、例えお前の信頼する兵士達を呼び寄せて屋敷に置いたとしても、こうなった以上もうウィズ嬢を一人にする事は出来ないだろう」

「この屋敷に置くとは言っていない、クラリスの所へでも養子に出せばいいだろう」

「ヴォルフ!」


 あの日とは少し、違う。けれど、私を置いて行くという事は同じだ。

 前はここで諦めた……パパの気持ちも分からないのに嫌だと一緒に居たいと言って、これ以上嫌われてしまうのが怖くて、これ以上傷つきたくなくて私は口を塞いでパパから逃げ出した。


 でもっ、でも今の私はっ。


 ぎゅうってエランド兄様とメティスの手を握りしめる。


「エランドにーさま、めちす……わたし、かわいい?」


 パパが帰って来るって楽しみにしてて、当日もすっごく楽しみで、何度何度も聞いて確認した事。


 可愛いかな? 好きになってくれるかな? 一緒にいてくれるかな?


 そんな期待と希望が詰まった、私の願いだったから。


「可愛いよ」


 すぐにメティスから言葉が返ってきた。やんわりと微笑んで私の頭をぎゅって抱きしめてくれた。


「大丈夫、絶対に誰も突き放したりなんて出来ない、今日の君は最高に可愛い」

「うんっ」


 エランド兄様も私の頭をポンポンと撫でて、力強く頷いてくれた。


「安心しろ、俺達が一緒に居るから。お前の望まない未来になんて絶対にさせない、だから自分の気持ちを全部ぶつけてこい」

「うんっ」


 ありがとうって頷いて、二人は私に微笑み掛けながら扉に手を掛けた。

 大丈夫、絶対言える。



 だって【今回の私は一人じゃない】んだから!



 エランド兄様とメティスによって、扉がバンッと激しい音をたてて開かれた。


「なっ?! エランドにメティス?! お前達どうしてここに居るっ?!」

「父上がまた抜け出したとディオネが嘆いていたので、どうせここに来ているのだろうと思っていましたよ」

「歓談の途中に邪魔をして申し訳ございませんが、こちらのご令嬢が当主殿にお話があるとの事ですので」


 エランドとメティスが道を空けてくれる。暗闇が包む廊下から一歩ずつ明るい部屋の中へと入って行く。


「ウィズ……」


 パパは椅子から立ち上がり、驚いた様子で私を見下ろしている。


 どくどくと心臓が暴れ回る。

 逃げない、絶対に逃げない。


 二人が居てくれるから、私はもう絶対に後悔する選択を選んだりなんてしない!


「うぃ、うぃじゅはっ」


 ぎゅっと目を瞑って涙を堪え、顔を真っ赤にして大声で叫んだ。



「パパといっしょじゃなきゃいやぁっ」



 それでもやっぱり、泣いてしまった。


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