81-3 ピアルーン街の防衛戦 開始
防衛戦を始めてどれだけの時間が経っただろうか。
もう永遠のように長い時間を繰り返しているような気もするけど、実際は数時間しか経っていない。共に戦ってくれている街の人達にも疲れの色が窺える。
弓で少しでも魔物を討ち取ろうと矢を射って、アレスに状況を確認する。
「アレス、このまま防衛して持つと思う?」
「魔物の群れの中で一番厄介な魔物は倒せたとは思いますが」
アレスは防壁に群がる魔物達を眺める。
「魔物の数が増えてきている気がしますね」
魔物達がここを襲ってきた時から今に至るまで、少しの抵抗と防御を固めてはいるけど、森の方から引き寄せられるかのように魔物が次々と群がってくる。最初はおよそ百匹はいたかという魔物の数も今ではそれ以上に膨れあがっているようだ。
街の人達も諦めずにずっと頑張ってくれているけど、これ以上数が増えてしまうと防ぎきれなくなってしまう。
「投擲という攻撃は出来ますが、ここの街の者達の殆どが戦闘未経験。槍や弓という後方戦略が出来ないのが苦しい所だ」
「私の水魔法や、アルヴィンの風魔法で一定数を吹き飛ばすっていうのは?」
「オススメ出来ませんね、吹き飛ばした所で魔物はすぐに起き上がります、それどころが興奮状態になって更に激しく掛かってくる可能性が高い。
防衛が目的の戦いにおいて、相手を刺激して崩壊を早める戦略は出来ません」
「そうだね……」
「貴女一人が魔物の数を減らす為に戦いに趣くのも駄目です。貴女が怪我をしたとして、その血の匂いに刺激された魔物が貴女一人を狙って本気で殺しにかかってきますよ」
「うぅっ」
戦闘力という意味で力不足なこちら側は、下手な攻撃をせずに防衛に努めるのが一番良いというのは分かるけど、クラリス様が助けにくるまで果たして持つのだろうか?
「メティス様との絆の盟約によりウィズ様は水魔法が使えますが、あくまで加護されているレベルなので、水の大きな防御壁は作れませんし、ここはクドア町長の魔法に頼るしかないのですが」
土の防御壁が魔物達の攻撃でヒビが入っている事に気がつく。
「これ以上魔物の数が増えると……危険ですね」
空を見上げると真っ暗闇に染まっていた空がほんの少し明るくなってきていた。夜明けまであと一時間という所だろうか。
雨さえ降っていなければ、松明に火薬をしこんだ簡易爆弾を作って魔物になげつけたかった所だけど、それもこの天候では出来ない。
「諦めずに続けるしかないって事だねっ」
弓を再び構えた時、背後……いやすぐ後ろではない、町中の方から背を引かれるような感覚に襲われた。何もないのに、何かに引っ張られた、そんな感覚。
「今のは……」
「ウィズ様」
アレスの強ばった声が聞こえる。
「少々マズイ事になりそうです」
「まずい事って……」
「またゴーレムが現れました、それも三体」
「えっ?!」
身を乗り出して確認すると、先程倒したゴーレムと同じ魔物が三体こちらに向かって凄い速さで転がりながら襲い掛かってきていた。
「まって……違うそれだけじゃない!」
その後ろから無数の赤い光が近づいてくる。
あれは、魔物達の瞳の色。闇夜で不気味に蠢きながらピアルーンを目指してやってくる!
「少し増えるなんてもんじゃないっ、今の倍が、ううんそれ以上の数の魔物がやってきてる!」
「何故突然魔物の襲撃が増えたんだか、これでは夜明けまで持ちませんよ」
ドンッと地面が揺れる。
辿り着いたゴーレム達がクドアさんが作った土の防壁目掛けて体当たりを始めたのだ。
「駄目! クドアさん持ちそうですか?!」
「やっていますがっ、くっ!! 私の力ではこれ以上はっ」
ゴーレム達が同時に体当たりを繰り出した瞬間、防壁は大きな音を上げて砕け散り、そこに大きな穴が空いてしまった。
「魔物達がっ」
その穴に魔物達が群がり、街の門を紙くずのように破壊して遂にそこから侵入してきてしまった。
「う、うわぁっ!! 魔物だぁ!!」
「街に入ってきたぞ!!」
魔物の侵攻を許してしまい、人々は恐怖に恐れおののき逃げ惑う。
「くっ!!」
「ウィズ様?!」
私を止めようとしたアレスの手を振り払い、大剣を抜き放ち監視砦の上から飛び降りた。
街の人に鋭い牙を向いて噛みつこうとした魔物を斬り捨てる。
「あっ、あっ」
「ここから逃げて!! 出来るだけ遠くへ!!」
「は、はい!!」
防壁が崩れてしまってはもうそこからの魔物の進行は止められない。次々に押し寄せてくる魔物に大剣を振るうけど、自分に襲い掛かる魔物を倒す事だけで精一杯だ。
「やるしかないようだ!」
アルヴィンは風魔法を生み出し、刃物のように変化させたそれを魔物に振るい倒していく。
けれど、それでも倒しきれない魔物が街の人々に襲い掛かろうとする。
「退きなさい!!」
魔物に押し倒されて、首に噛みつかれそうになった所をルティシアちゃんが闇魔法を使い、魔物を眠らせた。
「立ってください! 早く!」
使い慣れぬ銅や木の剣でなんとか防ぎながら逃げ惑う人々。恐怖に染まった叫び声が響き渡る。
駄目なの? 頑張ってもゲームと同じ展開になってしまうの?!
「みんな街の中央へ逃げて!! 私は少しでも時間を稼ぐ為にここでっ」
「きゃあっ?!」
ルティシアちゃんの叫び声が響く。
ゴーレムが更に壁を破壊し、遂にはルティシアちゃんの目の前までやってきていたのだ。
岩のような巨体で、赤い目を光らせてルティシアちゃんを捕らえた。アルヴィンも気づいていたけど、他二体のゴーレムに囲まれていてすぐにはこっちに来れない。
「ルティシアちゃん!!」
ルティシアちゃんとゴーレムの間に割り込み、ルティシアちゃんを背に庇う。
「うぃ、ウィズちゃん!」
「させないっ!!」
ゴーレムは岩の両手をバァンッとぶつけあい、それを大ぶりに振り上げた。
剣で防げる?! ううん無理だっ! なら一か八かでゴーレムを眠らせるぐらいの魔法をぶつけるしかっ。
ぐっと歯を噛みしめて、襲い掛かるゴーレムに手をかざそうとした……その時だった。
『グアァアアッ?!』
空から何かが降ってきたかと思ったら、それはゴーレムの背に突き刺さり、そのまま地面を貫いた。
それが、竜の鱗で作られた槍だという事に気がつくのに頭が追いつかない程、素早く的確な一撃だった。
「え……これは?」
羽ばたく翼の音と共に、それは空から一直線にゴーレムの頭上まで飛んでやってきた。
突き刺さった槍を手に握りしめると、一線を描くようにそれを振るいゴーレムの体を破壊した。
黒龍に跨がった黒い甲冑の竜騎士が疾風の如き速さでゴーレムを一振りで薙ぎ倒したのだ。
「貴方は……?」
ルティシアちゃんを抱きしめながらその人を見上げる。
雨を弾きながら闇夜に浮かぶ黒甲冑、その人物は兜に手を添え顔を覗かせた。
「ヴァンブル王国竜騎士隊第一隊長、ディオネ・ウォードが加勢に参上した」
「でぃっ、ディオネさまっ?!」
何故ディオネさんがここに?! クラリス様が来るというのは聞いていたけど、国の英雄でもあるディオネ様まで何故?!
「私も居るわよ」
ディオネ様が乗る竜の後ろにもう一人乗っている事に気がついた。
その人物を見るやいなやルティシアちゃんが飛び跳ねた。
「お、おかあさまっ?!」
「お母様……という事はクラリス様?!」
美しい金の長い髪に、元聖女の名にふさわしい優しく美しい顔立ち。クラリスさんがニッコリと微笑みながら私……いや私の背で震えるルティシアちゃんをガン見していた。
「私も居るわよ」
「あわわわっっっ」
「わ・た・し・も・い・る・わ・よ」
気のせいだろうか? ものすごくルティシアちゃんに笑顔の圧を掛けている気がする……うん、これは怒っている感じだ。
「クラリス、遊ぶな」
「遊んでないわよ!! 家出娘がようやく見つかったのだから少しぐらい話をしてもいいじゃない!」
喋りながらも、クラリス様は手に握りしめていた杖をくるりと回転させ、木属性の魔法を発動させた。
途端、石畳の地面を突き破り木の幹が現れ、魔物達の体に突き刺さる。
ボロボロと形を崩して魔石へと姿を変えていく魔物達、少ししか力を振るっていないのに、魔物が塵と化した光景に、皆が呆気にとられて固まった。
「にしても凄い数の魔物ねぇ、聞いていた話以上かも」
「あ、あのっ、クラリス様ディオネ様、ピアルーンの街が魔物に襲われて、守らなくちゃって頑張ったんですけど、私では力及ばずでっ、だからっ」
助けてくださいっ。
そう言おうとしたのに、私の返答を待たずしてディオネ様とクラリス様は余裕たっぷりの笑顔で私に応えてくれた。
「ここまでよく頑張ったな」
「私達が、ちょちょっと倒してくるからお茶でも飲んで待ってなさいな」




