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悪役令嬢は魔王と婚約して世界を救います!  作者: 水神 水雲
第9章 聖光誕祭(10歳)
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76-1 怪盗マッチョメン

『ウィズ様、ウィズ様、お気を付けくださいませ……』


 夢の中でアイビーの声が響く。

 最近会えていないなと思っていたけど、夢の中でようやく話しかけてきてくれた。


(アイビーもしかしてずっと眠っていたの? 元気してた?)

『私は変わりませんわ、少々忙しいだけです』

(忙しいってなに? 前に出会った空間でなにかあるの?)

『いいですかウィズ様よく聞いてくださいませ』


 アイビーは私が夢から覚めるまえにと、急ぎ言葉を伝えてくる。


『二つ気をつけてほしい事がございます』

(気をつける事って?)

『一つは、貴方を狙うものの存在です。ダルゴット以外にも貴方を狙う者がいる筈……もしも、貴方がその人物に出会い【見つけた】と言われたのならすぐに逃げてください、そして必ず私を呼んで下さいませ』

(見つける? 誰かが私を探しているの?)

『ええ……ずっとずっと長い間あなたを探している者がいる筈です。まだ見つけられていないようですが』

(なんで私を探しているの?)

『今回の旅でようやくお気づきになれたでしょう? 貴女にかかっている呪いについて』


 私にかかっている呪いとは、恋が出来ないというそれだ。アイビーはその事を知っていたの? それに、今その話をするという事はつまり?


(もしかして、私に恋が出来ない呪いをかけた人が私を探しているという事なの?)

『ええそうですわ、貴女が気づくまで黙っていようと決めていました。ですが気づいてしまった以上、教えるべきだと思ったのです』


 夢が浅いせいだろうか、アイビーの姿は見えず声だけが真っ白な空間に響いている。


(私の呪いに気がついていたんなら、いつ呪いをかけられたとか、その人物は誰とか知ってる?)

『二つ目ですが』


 やはり時間がないんだろう。私の質問には答えず次を告げてきた。


『メティス様にはお気を付けて』

(え? なんでメティス? 気をつけるって?)

『まだ覚醒していないと言っても魔王でありますから……貴方に執着しているようですが、その執着が害になる事もあります』

(そ、そんな事ないよ! いつも助けてくれてるもん!)


 絶対大丈夫だと訴えてもアイビーからは渋い反応しか返ってこない。


『貴方は魔王がどういう存在であるのかという事の全てを理解出来ていないのです、今は崖の上の細い道を奇跡的に歩けているだけに過ぎません、少しでも風が吹けばそれも落ちてしまう……崖下へ落ちてしまえば後に待つのは破滅だけ』


 グラスを弾くようなキンキンという音が周囲に響く、これはもうすぐ夢から覚めてしまうという合図だろう。


「貴女が幸せになる為には、魔王という存在との共存は不可能ですウィズ様」

(でも! )

『貴方の物語が終わるまで気をつけてください……メティス様に関われば貴女は不幸にしかならない……その事をゆめゆめお忘れ無きように……』


(待ってアイビー! 魔王について何を知っているのアイビー!)


 夢の先でアイビーが僅かに微笑んでいる気配を感じながら……私は夢から覚めた。






◇◇◇






「ううん……」


 寝返りをうつと、宿屋のふかふかお布団に体が包み込まれた。

 はっきりと覚えているタイプの夢だったなぁ、アイビーの夢だったけど、あれはきっと現実でもあるんだろう。


 私を狙っている人物がいる?


 ダルゴットが私を狙っている理由は分かる、私を殺してメティスの逆鱗に触れて魔王として復活させる為。

 けど、それ以外に私を狙っている人ってなんだろう……狙うというからには何か目的があると思うんだけど。この世界に生まれてから十年、誰かに恨まれるような事をした覚えはないんだけどな。

 私の行動のせいで怒りを買い命を狙われている訳ではないのかな? 例えば利用する為とかはありそうだ、パパは英雄の一人だし、ポジェライト家というのも大きい家門である。でも、恋が出来ない呪いをかけた人であるようだし、それをした上で私を狙うとは? 今持っている情報だけじゃ答えまで辿り付けない。


 それに……アイビーはメティスに気をつけろって言ってた、それはメティスが魔王の生まれ変わりだからだろうけど。


 メティスの今までの姿を思い出す、メティスは優しくて全然魔王っぽくなんてな……な……ない、とは言えないけど。

 メティスの真っ黒な笑顔とか、人間達への興味の無さ、辛辣な物言い、私が知らない裏側でなーーんか怖い事をしている雰囲気! ああ駄目ですね、ものすっごく黒い! アイビーが心配する要素が確かにいっぱいある。ベストオブ魔王大賞とかがあったらメティスはぶっちぎりで優勝出来てしまう位には魔王っぽい!


 でも、それぐらい狂気的な部分を抱えていても、私が人を殺しては駄目だとお願いすれば聞いてくれている。さっきも怒ってはいたけど堪えてくれていた。

 私はメティスの嬉しそうな笑顔も、仕草も、思いやってくれる優しさも全部知ってるから、だからやっぱりアイビーが言うように距離を取るなんて出来ない。


「いざとなったら力尽くでメティスを止めようっと!」


 全ての悩みを力で解決する為に日々特訓しているんだからね!


 お布団を蹴飛ばしてベットから起き上がる。

 ピアルーンの街の中で一番お高いと言われている宿屋に私達は泊まっていた。

 メティスは部屋も一緒でいいんだよと笑っていたけど、私にはちょっと秘密のミッションがあるので、メティスには秘密にしたまま部屋は別にしようとお願いしていた。


 そして今現在の時刻は深夜0時! 悪い事をするには絶好の時間です!


 髪をぎゅぎゅっとポニテールに結んで服も動きやすいものに着替えた。鏡で見た自分の姿はまだ銀髪のままだけど、このお祭り中はアレスの魔法が維持されたままのようだ。


「よし! 行こう!」


 部屋から直接出てしまったら隣の部屋のメティスに物音で気づかれそうなので、部屋の窓から外へ出る事にする。

 念のために気配消しの魔法を自分にかけて、窓を開けて窓枠を踏んで下の階へと飛び乗って移動していく。流石に五階から飛び降りたら怪我しそうだからね、慎重に行こう!


 地面へと降り立ち、上手く降りられたと一人でドヤ顔を決める。

 静かに、素早く、宿屋の裏を駆け抜けて街へとでて待ち合わせ場所の教会の前まで走って行く。

 そして、教会の前で待っている小さな影に声を掛けた。


「シアちゃんお待たせ!」

「ウィアちゃん!」


 ぎゅっと手を握り合って互いに頷く。


「本当に来てくれたのね! 私の話を信じてくれてありがとう!」

「ううん! 私もどうにかしたかったもん!」


 そう、どきるんのゲームの展開と同じように、メティスが街を破壊してしまわないように。


「内緒で花人形を盗み出して隠しちゃおう!」


 さあ! 怪盗マッチョメンの出番ですよ!


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