61-2 時を遡り変えた未来
時が巻き戻ってる?! そうだよだってリュオ君とはさっき別れて、私とゼノの二人でハイドの元へ向かった筈なのに!
魔の森の奥まで進んだというのに、この一瞬で屋敷の前に三人が揃うなんて有り得ない!
「アイビー? アイビー!! こ、これどういう事なの?!」
「何を独り言を言っているんだ! 時間が無いんだろ乗れ!」
「急いで! 俺も助けを呼んですぐに追い掛けるよ!」
ゼノとリュオ君の呼び声にハッとする、そうだ……本当に時間が巻き戻ったというのなら、ハイドはまだ魔力を暴走させる前の筈。一分一秒でも早く辿りつけばあの惨事を免れる事が出来るかもしれない!
「ゼノ! リュオ君も戦えるの! 一緒に連れて行って!」
「え? 僕もっ?!」
「俺は構わないが、助けを呼ぶ人間が残った方がいいんじゃないか?」
「魔の森は魔物がいっぱい出るの! 戦える人を一人でも増やしていったほうがいい! 数秒でも早く辿り着きたいの! だから!」
渋るゼノとは反対に、リュオ君は考える間も無く自らアークに飛び乗った。
「分かった僕も行く! 武器ならさっき買ったのを服に仕込んであるから戦えるよ!」
「あ、ありがとうリュオ君!」
「おいおい本気かよ……!」
私も急いでアークに飛び乗り、先頭に私、真ん中にリュオ君、そして私達を支える形でゼノが後ろに座る事になった。
ゼノは大きな溜息をついたけど、すぐに前を見据えて頭を切り換え、竜の手綱を力強く握りしめた。
「全力で追い掛ける、振り落とされるなよ!」
「はい!」
「わかった!」
先程とは違い、リュオ君を乗せた状態で魔の森へと入って行った。
ハイドを見つけるまで二度魔物達に襲われた。
一度目はセラドアイ、二度目は一角獣のウサギ。二回とも群れで襲われたから倒すのに数秒のロスがあった筈だ。
セラドアイの時は空中に跳び上がった時に。一角獣の時はアークの主人であるゼノがアークから降りて私を一人で走らせたせいで、アークの走る速さが鈍った可能性がある。
今回はこの二つを潰せば、前よりも数秒早く辿り付けるかもしれないっ! ハイドが魔力を暴走させてしまう前に、必ず辿り着かなくては!
「攫われたという子どもの特徴は?」
先程と全く同じ事をゼノが聞いてきた。
「……銀髪に薄い緑色の目をしたパパに似た顔の子どもだよ、パパに似ているのは親戚だからだって聞いたよ」
「親戚だと?! ポジェライト家は先の大戦でヴォルフ様を残して皆亡くなったと聞いていたが、生き残りがいたのか!」
やっぱり同じ事を言っている、既視感だった訳じゃなく本当に時が巻き戻っているんだ。これもきっと、アイビーの力なのだろう。
ならば、このあとはきっとゼノが叫ぶ筈だ、身を屈めろ! と。
「身を屈めろ!」
「はい!」
「うわっ?!」
来ると分かっていたから素早く身を屈め、ゼノは私とリュオ君を庇うように一緒に抱き寄せた。
そしてゼノは槍を抜き放ち、前方には巨大な目玉の化け物、セラドアイを槍で一突きして倒した。ここまでは同じ状況だ。
「セラドアイという魔物だ!! 目が合った人間のっ」
「人間の精神を侵食して殺しに掛かってくるんだよね! 目を合わせないように気をつけるよ!」
「あ、ああ、知っていたんだな」
ここでゼノだけに戦わせちゃいけない、少しでも時間を短縮させるんだ!
「ゼノ! 剣を借りるよ!」
「あっ、オイ?!」
先程の時間でゼノは私に短めの剣を渡してくれたからゼノが持っている事は知っていた。ゼノの腰の後ろに携えていた鞘から剣を抜いて、襲い掛かってくるセラドアイに斬りかかった。
『ギャアッ!?』
「いいか! 奴と目を絶対にあわせるんじゃないぞ!」
「了解したよ!」
セラドアイの羽根を見るようにして目を反らしながら剣を振りかぶる。ゼノも槍を魔物達に突きたてながら何体もセラドアイを倒していく。
「クソッ数が多いなっ、一掃したほうが早いかっ」
「だ、だめ! 待ってゼノ!」
一掃するという事は先程のように空高く跳び上がるという事だ。それをされてしまうと数秒のロスになる!
慌ててゼノを止めようとすると、私の後ろに座るリュオ君が太股に巻き付けたベルトからダガーを数本引き抜いて指の間に持った。
「別に倒しきらなくてもここを抜けられればいいんでしょ!」
ジャッと刃物の擦れる音と同時にリュオ君は両手に持ったダガーを前方のセラドアイ達に投げ放った。
『ギャッ!』
『ビィッ!!』
ダガーはセラドアイ達の羽根や目に命中して、ボトボトと地面に落ちていく。
「ゼノ様! この隙にここを抜けて!」
「素晴らしい命中率だ! うちの騎士団にスカウトしたい程だな!」
ゼノは手綱を思い切り叩いてアークに駆け抜けろと命じ、私達はそのままセラドアイの群れから逃げ出す事に成功した。
状況的に同じ道を走っているから次に出てくるのは一角獣のウサギだ!
ここでは、ゼノをアークから降ろしちゃいけない。ゼノには最後までアークに指示を出して貰って、更に一角獣も素早く倒さなくちゃいけない。
けど、一角獣を倒しながら進んでしまっては、きっとさっきよりも時間が掛かってしまう事になる。
ここをなんとか切り抜けられれば、ハイドを救える!
「前方右四十五度! アークが反応している!」
来たっ、これが最後の難関が飛び出してくる合図だ!
ぐっと唇を噛み、二人に向けて叫んだ。
「この先に居る子がハイドなの! お願いゼノ! 何があってもアークから降りずにスピードを維持してこのまま駆け抜けて!」
「任せておけ!」
ぐんっとアークのスピードが上がったのも束の間、やはり先程と同じように一角獣のウサギがあちらこちらから飛びかかってきた。けど、さっきよりも数が多い!
もしかしたらさっきはゼノがセラドアイを一掃した事態に驚いて一角獣の多くは逃げ出していたのかもしれない、それが無いから逃げなかった一角獣もその場に残り襲い掛かってきているのかもっ! これを全部相手していたんじゃ時間を短縮する所がさっきよりもロスしてしまう!
魔物達を闇魔法で眠らせてしまおうと、両手をかざして呪文を詠唱するも、一角獣達の動きが素早いせいで攻撃が当たらない! ポジェライトのみんなが言っていたのはこういう事なんだっ、人間と戦うのとでは全然戦法が違う!
私は右方向を、リュオ君は左方向から襲い掛かる魔物を剣やナイフで倒し、ゼノは私がお願いした通りにここを駆け抜ける事に専念してくれている。けれど、一角獣達のせいでどうしてもスピードは落ちてしまう。
思わず視線をあと少し先にいるハイドに向ける。
あと少しでハイドの元に行けるのに! でも走って行っても間に合わない!
「危ない上だ!」
「えっ?!」
ゼノの焦った声に振り向くと、頭上から私目掛けて一角獣が飛び掛かってきていた。




