48-3 ゲームの製作者
【以上、今のお前に出来る事だ。俺も忙しい、今日の質問はあと一つだけ許す。どうぞ。】
突然の会話の打ち切りの発言に驚く。私はまだまだ聞きたい事が沢山あるのにっ。
本の前であたふたしながら、私は最後の質問を書き込んだ!
【このゲームにゴリラはいますか?】
そこなの私―――――っ?!
書いた自分の文字に自分で突っ込みを入れて崩れ落ちた。
絶対コレジャナイ、今聞く事はコレジャナカッタ……! でも、ゴリラがいるのかどうかは知りたいっ、マッチョなかっこかわいい生き物っ、いるなら会いたい!
しばし待てども返事がない、もしかして呆れてる? それとも笑ってる? はたまたゴリラが居なくて申し訳ないなと思われてる?!
白い紙に文字が浮かび上がり、私の顔は一瞬で喜びに染まった。
【いる】
やったあああっ!! ゴリラ居るってやったああああああっ!!
もう自分の感情に素直になろう! ゴリラがいる! 知れてよかった! あっ、でもいま思い返せばエランド兄様とメティスと話をした時にもゴリラの事話したけど二人とも笑ってたからゴリラはやっぱりいるんだよね! 確認が取れただけでもよしとしましょう!
【お前のそういう所がまだ六歳児の頭だな。
アドバイスしておく、お前の前世は高校生位だったが、今は六歳だ。幾ら前世が高校生だったと言っても、記憶と感性は別物だ。今のお前の感性と感情は六歳に引っ張られているだろう。ちょっと利口な六歳くらいという認識で生きて行け】
はい! と本に手を挙げて返事をする。じゃあ、まだまだ子どもとしてパパに甘えるのは普通という事だよね?
何故そんなアドバイスをくれたのかという事は深く考えず、素直にありがとうございますと頷いておいた。
【ゲームの世界】
一文だけ書き込まれたそれに、今更どうしたのかと首を傾げる。
【知っているか、鶏が先か、卵が先かという言葉を】
それは確か前世の学校で習った事がある。
鶏と卵のどちらが先にできたのか、という問題で、昔の哲学者さん達が「生命とこの世界全体がどのように始まったのか」という論議によるもの。
【今日は以上だ、その本は誰にも見られないようにしておくようにな相棒。それじゃあ。】
最後の言葉の意味を考えている隙に早々に別れを告げられてしまい、続けて私が言葉を書いても、もう反応が返ってくる事はなかった。
「この本は、前の世界とこの世界を繋ぐ本……なのかな?」
答えには辿り着けなかった、それでもメティスを、魔王様を救済する為に一歩前進出来たような気もする。
「よーしっ! この調子でメティスの為に頑張るね! 相棒っ!」
ぐーを空高くかざして気合いを入れる。時輝さんにどうやら相棒認定をされたようなので、私もそのつもりで頑張る事にする! 私がいつか、全てを思いだしたらまた教えてくれるって言ってたもんね、今は少しずつ前進出来るように頑張ろう!
本を抱きしめて意気揚々と扉を開けた。理解者がいるって言うだけでなんだか嬉しくなっちゃう! やる事も決まったし、そろそろ部屋に戻らないとみんな心配しちゃ……。
ぽすん、と扉を開けて進んだ先で何かにぶつかった。
おかしいね? 扉の先は普通の廊下でこんな良い香りで柔らかいものなんて置いて無かった筈なのに。
何にぶつかったんだろうって、そろりと顔をあげて、私は絶句した。
「やあ、今日も元気いっぱいだねウィズ」
「めっっ、メティスぅっっっ?!?!」
ズザッと後ろに下がり、真っ青な顔でわなわなと震えた。
私がぶつかったのはここには絶対いない筈のメティスで、それはもう爽やかなきらきら笑顔でそこに立っていた。
「な、なんでここにいるの?! ここ私のおうちっ」
「いやだなぁ、忘れたの?」
「な、ななななにを?」
「今日は登城の日だったでしょうウィズ? 折角だから婚約者である僕が迎えに来たんだよ」
登城の日……? き、聞いてないよ?
はっ?! だから朝からパパは忙しそうにしてたし、メイドさんは私に煌びやかなドレスを着せようとしていたのかな?! メティスが迎えにくる予定だと知っていたらこの場所には来なかったのに、なんで私にはそんな大切な情報が届いてないの?! なんだかパパが私をお城に行かせたくないが為に黙っていて最後まで悪あがきをしていたような気配を感じるよーーーっっ!!
せめてどうか、私がここで何をしていたのかは気づきませんようにっっ!
だらだらと汗を流しながら口をパクパクさせている私に、メティスが追撃をしかけてきた。
「ところで、どういう意味だったのウィズ?」
「ほわっつ?!」
「叫んでいたよね? 『メティスの為に頑張るよ、相棒』って」
聞かれてたああああああああっ?!
まさかメティスが部屋の前にいるだなんて思わないじゃないっ?! よりにもよってそんな独り言を聞かれていただなんて!
でも、何をしていたのか、何を企んでいるのかなんて言える筈がない。
「実は私前世では違う世界にいたの! そこでプレイしたゲームがこの世界と同じでね! そのゲームでメティスは魔王として覚醒して世界を滅ぼさんと暴れるんだけど、ヒロインとエランド兄様に殺されてしまうの! だから私はそれを阻止する為に頑張りたいんだよ☆」
なんて言える訳がない!! よりにもよって一番バレちゃいけない魔王様その人と出くわしてしまうだなんて!
「その大切そうに抱きしめている本は何?」
「こ、これっ?!」
ピンポイントで触れられたくない所に踏み込んでくる! 流石だよメティス目の付け所が違いますねっ??
ぎゅうっと本を抱きしめたまま後退し続けるとついに壁に背がついてしまった。メティスは遠慮など知らないというように近づいてきて、壁際に追い詰められた私の顔を覗き込みながら目を細めて笑う。
「相棒って言ってたのは誰の事?」
「ち、ちがうのっ、いまじなりーふれんどというものでしてっ、深い意味はっ」
「ふふ」
メティスは全然笑っていない目で本を見下ろし、口元だけで微笑んだ。
「ウィズは嘘が下手な所も可愛いね」
至近距離で見つめられて、メティスの手が私が抱きしめている本に触れた。
「大切そうに隠している人はどんな人なのかな?」
「違います違いますーーっ!!」
大切な人を隠している訳じゃなくて、魔王なメティスに知られる訳にはいかなくて隠しているんだよ! 時輝さんもこの本の存在は誰にも教えちゃいけないって言ってたしっ!!
「婚約して早々に誰と密談しているのかなウィズ」
ひょいっと軽々と本を奪われてしまう。
「ま、待って駄目だよメティスーーっ!」
メティスは奪い取ったその本を開いて、中を見てしまった。
◇◇◇◇◇
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