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悪役令嬢は魔王と婚約して世界を救います!  作者: 水神 水雲
第5章 魔王復活の儀式(6歳)
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44-1 狂人

「この場所ごと破壊した方が早いよ」

「駄目です!!」


 メティスと木箱の中に隠れたまま今後の逃げる方針について話し合っていた。

 ゲームのような展開にならないと分かってしまった今、助けは朝には来ないし、来るかも分からない助けをずっとこの木箱の中で待つには絶望的過ぎる。

 かと言って、地下という閉鎖空間、更には構造がよく分からない場所から逃げ出すとなると捕まるリスクが高い。それに加えて怖い人達がうじゃうじゃと居るときたものだ!

 そして、この絶望的な状況でメティスは魔王の力を解放してこの場所諸共ぶち壊すという案しか出してくれない!! これがゲームの強制力というものなのかな?! どうしてそう危険な思考に辿り着いちゃうのかな?!


「あのねメティス、ここを破壊しちゃったら捕まっている子ども達も危険だし、さっき助けてくれたチェシャさんだって危ないんだよ?」

「チェシャって誰?」

「さっき助けてくれた人のお名前だよ!」

「ふぅん」


 メティスってばあからさまに興味が無さそう。


「とにかく、そんな事したら人が沢山死んじゃうかもしれないんだよっ」

「別にいいよ、君以外の人間なんてもうどうでも」

「メティス~!」


 本当にこの二年間の間で一体どうしてしまったというんだろう? 人間を殺す事に躊躇いがない、無機物を踏みつけるように心も無くそんな悲しい事を言ってしまっている。

 どうにか今ここでメティスを止めないと、すぐにでもメティスが魔力封じの腕輪を破壊して魔王として目覚めてしまいそうで、焦りながら苦し紛れの説得を続ける。


「そ、それにね、ほら! 目が赤くなっちゃうの勿体ないよ! 赤い目も綺麗だけど、私はメティスには青い瞳が凄く似合ってると思うしっ」

「瞳が赤く……」

「そう! だからね、力を解放させて魔王化して青い瞳に会えなくなったら寂しいじゃない? あとあと! 一緒に遊びにいくのにも魔王様よりも人間の方が遊びやすいと」


 思うんだよ、と続く筈だった私の言葉はメティスに腕を掴まれる事で止められた。


「メティス?」


 突然どうしたのかと顔をあげると、酷く焦った様子のメティスの姿があった。


「何を、言ってるの?」

「え? なにが?」

「違うよ、勘違いしているよウィズ」

「うん?」

「魔王ってっ」


 私の腕を掴むメティスの腕にぎゅうっと力が籠もる。そして、まくし立てるように言葉を繋いだ。


「ここを破壊しようって言ったのはそれ位の魔力があるからだよ? ほらウィズも知っているだろう? 僕は水の大精霊のポセイドンと契約出来る位に魔力が強いんだよだからっ」

「お、落ち着いて、どうしたの?」

「瞳が赤いのはっ、違うよ、エランド兄上だって赤いだろう? きっと魔力が暴走しかけると遺伝的なもので色素が替わるからそれでっ」

「メティス……?」

「僕は魔王じゃないよ、だから……っ」


 ぐっと眉を寄せて、見た事が無い程に怯えた表情のメティスがそこに居た。


「僕を、嫌わないで……」


 縋るように握られた手が僅かに震えている事に気づいた。

 メティスは自分の事を魔王だという事を自覚しているようだ、それなのに今私に隠そうと必死になって否定してきた。

 嫌わないでと、魔王である事が私に知られたら他のみんなと同じように怯えて、嫌われてしまうと、そう思ったからだろう。


「メティスごめんね、私の言い方が悪かったね」


 大丈夫だよと、メティスを抱きしめて落ち着かせる。


「赤い目が怖いって意味で言ったんじゃないんだよ、私はメティスが何者であろうとも変わらないよ」

「な、にを……」

「大丈夫!」


 体を少し離してメティスの両方の肩をポンポンと叩いてから満面の笑顔を向けた。


「私と出会ってから今日までのメティスが本物であるなら! メティスがメティスで居てくれるなら! 私はメティスが人間でも魔王でも変わらずに好きだよ!」

「っ……」


 メティスの瞳がジワリと濡れた。動揺するように瞼が震えているけど、視線は決して私から離れない。


「それでもメティスが人間達の中で生きて行くのが怖いっていうんなら私が守ってあげるから! だから怖がらなくて大丈夫!」


 メティスの手を両手で包み込んで微笑むと、メティスはぐっと唇を噛んで俯いてしまった。


「君は……魔王という存在が、怖くないの?」

「うん!」

「過去の歴史の中で、沢山の殺戮と破壊を繰り返してきた人間の敵なのに?」

「そうだよ! 前から不思議だったんだけどね、なんで魔王様は人間をそんなに殺したいの?」

「え……」


 メティスは豆鉄砲を喰らった鳩のように目を瞬かせた。


「それは……魔王だから当然なんじゃないの?」

「当然なの?」

「そうだよ……だって、人間と魔族は相容れないから」

「なんで?」

「なんで……」


 メティスは答え切れずに微かに唸る。


「それが当たり前の事だから……だと思う」

「もしかして、メティスは前の魔王様の記憶は無いのかな?」

「……無いね、自分が魔王の魂を引き継ぐ者だという確証しか分からない」

「ふぅむ……」


 腕を組んで考える。魔王の生まれ変わりがメティスであるけど、昔の記憶は引き継がれないのかな。知りたかったのにな、何故魔王様は人間を滅ぼしたいのかというその理由を。


 何故、この世界では人間と魔王と魔物がいて、それぞれは殺し合っているんだろう?


 それが当たり前だからとみんな言うけど、その【当たり前】っていつから始まってしまったんだろう?

 それを真剣に考えてしまう私の考えは無駄で、おかしなことなんだろうか?


「ウィズ……本当に?」

「何が?」

「僕が……魔王でも、本当に怖くないの?」

「全然怖くないよ!」


 即座に答えた、だって本当の事だからね! メティスの事が大切で大好きな人になってから魔王でしたと分かっても「そっかぁ」位の感想しかないのだ。メティスが何者であるのかが重要な事じゃなくて、メティスがこれからどうするのかという方が大切な事だと思うから。


「変わらないよ、ずっと一緒!」

「……はぁ」


 力の抜けた声が出て、私の肩にメティスの頭がぽすんと乗っかってきた。


「もうやめてウィズ……」

「なにを?」

「これ以上好きにさせないで……もう、絶対に手放せなくなるから」

「はあい?」

「その言い方、わかってないし……それに、ウィズはどうして僕が魔王の生まれ変わりだって気がついたの?」


 ギクリと肩が跳ねる。

 ど、どうしよう……まさか、前世でプレイしていたゲームで知りました! なんて言えないし、言っても信じて貰えないだろうしっ、頭がおかしい子だと思われたくないしーーっ!!


 これは話を逸らすべきだと思い、メティスの質問には答えずにメティスの魔王復活阻止の方向へと話を戻した。


「と、とにかくね! 私はメティスが魔王でも構わないんだけど、魔王復活って事は、その、ほら! 人間を傷付けてしまうかもしれないじゃない? メティスにそんな悲しい事をして欲しくないんだよ!」

「ふぅん……」

「十人十色という言葉がありましてね、嫌な人も居るけど、メティスが好きになれる人もきっと居ると思うんだよ」

「それが君だよ、君だけでいい」

「メティスが私の事好きなのは嬉しいよ、私も勿論メティスが好きだけど。そうじゃなくてね、えっと、そうだ! 王様とかエランド兄様とかお母様とかメティスの家族は……」

「あんなものが家族なら必要ないと思うよ」

「え……」


 メティスは狭い木箱の中で座り直してからもたれ掛かると、鬱陶しそうに顔を歪めた。


「結局あの人達も自分の為に目を背けたり逃げたり利用したり……そんな人間達だよ」

「えっ……でも」

「君が見えていない汚い部分も彼等にはあるという事だよ」


 全て諦めたと歪んだ笑顔を浮かべるメティス。


 これは、そう……失望という感情だ。


 メティスにとって大切だった人達、その人達に対してメティスはもう期待を捨ててしまったようだ。


 大好きだった人達だったからこそ心の傷は深いんだろう、メティスをこうまで追い詰めてしまう程の何かが私の知らない間にあったという事だ。


「メティス……あのね、これは私からのお願いなんだけど」

「うん?」

「もしもいつか、メティスの家族が逃げないで向き合ってくれる日が来たら、その時はお話を聞いてあげてほしいの」


 少なくとも、王様がメティスの事で悩んでいたのは知っている。逃げていたのだと、大切だから怖くて逃げの道を選んでしまったと罪の意識に苛まれていた事も聞いている。そして、王様はもう逃げないよと微笑んでくれたのだ。


 だから、いつかチャンスが来たらその時は突き放すだけじゃなくて、声も聞いてあげて欲しい。


「そんな日が来るとは思えないけれど」

「来るよ! 絶対に来るから! お互いが大好きだった頃の姿を私は知ってるもん! だからきっと、ごめんねも言えるよ、仲直りだって出来る筈だから!」


 ぎゅうっと無意識にスカートを握りしめる。


「私はお話したくても出来ないから……メティスは後悔しないでね」

「ウィズ……」


 メティスは心配そうに私を見つめてから、溜息交じりに自分の頭を掻いた。


「狡いな、僕が君からのお願いを無碍になんて出来る筈がないのに」

「じゃあお話ちゃんとしてくれるんだね?!」

「そんな日が来たらね」

「うんっ!」


 よかった! メティスが聞く耳を持たない状態じゃいくらお話したくても仲直り出来ないもんね! 

 嬉しいなと笑っていると、メティスも釣られたように笑った。


「君はいつも、僕の事なのに自分の事のように喜んだり悲しんだりしてくれるんだね」

「うん! メティスが幸せだと私も嬉しいもん!」

「……今きゅんってした」


 メティスはなんとも言えない顔で胸を押さえて顔を赤くしている。


「よし! その為にもまずここから無事に脱出しなくちゃね! もう少し様子を見てからチェシャさんと合流するのはどうかな? あの人は味方っぽいから助けてくれるかも──」



「お前が無事に脱出なんて出来る訳ねぇだろ」


◇◇◇◇◇


作品を読んでくださりありがとうございます!


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