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悪役令嬢は魔王と婚約して世界を救います!  作者: 水神 水雲
第5章 魔王復活の儀式(6歳)
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43-1 脱出作戦

「ウィズ……あいたかったよ」

「私も会いたかったよメティスっ」


 メティスが抱き返してくれた感触を感じて、ようやくメティスの心に触れられた気がした。

 頭をコツンとくっつけて、覗き込んだメティスの瞳の色は海のような青い輝きを取り戻していた。


「えへへ、私の大好きな色!」

「え……何が?」

「メティスの青い瞳の色!」


 メティスは不思議そうに自分の目元を指でなぞり、くすぐったそうに笑った。

 けれど、すぐに何かに気がついたようにハッとして焦りだした。


「なんでこんな場所にいるの?!」

「話せば長くなりますが」

「まさか一人で来た訳じゃないよね?!」

「ぴ、ぴぴゅ~っ」


 下手くそな口笛を吹いて誤魔化そうとしたけど、私が目を逸らすはぴーぴーと言い続けているわで、メティスの顔が青ざめていく。


「一人でこんな場所に来れる筈が……まさか、誘拐されて」

「こんな所からは早くおさらばしなくちゃね! さあ逃げるよメティス!」


 察しがいいメティスには説明しなくてもすぐにバレて、後々怒られてしまいそうな気配を察知したのでお話を強制的に終わらせて、メティスの手を引いて立ち上がった。


「ぐぅぅぅっ」

「我が君! 怪我をっ?!」


 祭壇の下ではこの儀式の主犯格の男が私に刺された腕を押さえながら、フードで顔を隠したままのトゥルーペに体を支えられていた。


「手当をしなくては! 私が回復魔法をかけます、杖がある部屋まで一度移動しましょう!」

「こんな怪我如きでっ」

「刺された刃先に毒でも塗られていては治療が間に合わなくなります!」


 おお、なる程そういう考えもあるんだね。私は短剣を持ち込んだだけでそんな小細工はしていないけど、そう思わせておいた方がこの場は得策かもしれない。

 ここは一つ悪役令嬢っぽく悪い言葉を吐いておこうと思い、私が思い浮かぶ限りの悪役令嬢っぽい顔で意地悪く笑い、口元で手を仰け反らせながら笑ってみた。


「治療は早くした方がよろしくってよ! 刺されたその腕がなんか凄いっ、こうっ、もしゃああってなるのが嫌でしたらね! おーっほっほっほ!」

「ウィズ……語彙力」


 無いよね分かってる!

 後ろのメティスが思わずツッコミをいれてしまう位の大根演技をして、それでも刺された男は怒りにブルブルと震えながら私に吠えた。


「よくも儀式を邪魔してくれたな!! ポジェライトの血筋はどこまでも忌々しい!!」

「え」

「我が君! どうせ奴等は逃げられません早く治療を! ジョネス、あとは任せましたよ」

「くそ!! お前達! 器は決して殺さずに捕らえよ!! その小娘は生きてさえいればどうでもよい! 他は殺しても構わん!!」


 男は私を睨み付けて、悪意に染まった言葉を投げつけた。


「赤目で生まれる事が出来なかった出来底無いが!!」


 トゥルーペに無理矢理引き摺られていく形で男は入って来た扉からその奥に姿を眩ましてしまった。

 あの人、もしかして私の事を知ってるの? だから今ポジェライトの名前を出した?


「魔術師達よ! 今の話を聞いていたな!」


 ジョネスが鼻息荒く前に出てきた。ホーンこと、トゥルーペに後を任すと言われたから得意げになっているようだ。


「魔王の器を捕らえろ! 他は殺しても構わん! 生け贄の換えはまだまだ山程いるのだからな!!」


 ジョネスがぽっこりお腹をさすりながら、私とメティスに指をさして叫ぶと、周囲の魔術師達は頷いて魔法の杖を構えた。


「あれは誰なのかな」

「ご覧の通り人間的にダメダメなおじさんです!」


 恐らく一番偉いであろう黒幕の人が退出する時に言ってた言葉をちゃんと聞いてたかな~! メティスは生きて捕らえて、私の事も怪我させてもいいけど生かしとけ! ってニュアンスで言っていた気がするんだけどね。私を生かしておけというのは別の企みがあるんだろうか、でも今はそこを考えている暇はなさそうかな。


「ウィズ、アレに何かされたの?」

「花屋さんで働けって言われた事くらいで私はなんとも! 私が怒っているのは捕まえた子ども達を物のように扱って馬鹿にしたって事だよ!」

「花屋……」


 メティスは一度考えるように視線を動かし、目を半月形に歪め怖ろしい笑みをニタリと浮かべた。


「アイツ殺そうか」

「こ、殺しちゃだめーーっ!!」


 メティスってば魔王に目覚めてないよね?! 確かゲームでは人間に絶望して、力を解放して人を殺してしまった事で魔王の魂が復活してしまうという流れだったから、人を殺めていない今のメティスはまだセーフな筈だ! でも言ってる事がとても物騒! 思考が魔王に近づいてる? それとも前からこうだったっけ?!


「君だけでも先に逃げてウィズ、僕は自分でなんとかするから」

「駄目だよ! それに他の生け贄の子ども達の事も助けなくちゃっ」

「そう?」


 私の事は気に掛けているのに、生け贄の子ども達に対する興味が全く無いようだ。会えなかった二年間でメティスの人間嫌いは相当進んでしまったようだ。


「いいですか~メティス~~! 人という字はぁ~~!」


 右手と左手の人差し指をたててビシッとメティスに見せてから、指をくっつけて【人】という字を作って見せた。


「支え合いつつもなんとなく右側の人が力持ちです!」

「どういう事?」

「つまり私が右側になるので、この場はお任せくださいという事だね!」


 みんなで逃げられぬなら、守ってみせようホトトギス!

 短剣をクルンと回して利き手に持ち替え、魔法詠唱が一番早い魔導師達の方へ向かって駆けだした。

 通常の子どもの何倍も早い速度で魔導師達の前まで飛び込むと、魔導師達に動揺が走る。


「なっ、早いっ?!」

「なんだこの子どもは?!」

「ただの子どもだと思ったら痛い目をみちゃうよー!」


 魔法の杖を破壊するなら魔石の核を狙え!

 ポジェライト銀翼の騎士団の皆から聞いた戦術を思い浮かべながら、二人の魔導師達の杖の魔石を短剣で斬って破壊した。その瞬間、詠唱中だった魔法は無効化されて、杖から魔力が消えていく。


「小癪な!」


 背後から別の魔導師が放った雷撃が私目掛けて飛んで来た。


「ウィズ!」


 メティスが顔を青くさせて、私へ手を伸ばすが私にはまだ余裕がある。

 目の前に居る無効化した魔導師達の股下から滑り込んで背後に回り込み、その魔導師達を盾にさせてもらう。


「ぎゃああっ?!」

「うわああああっ?!」


 雷撃が命中して倒れる二人、薄らと黒く焦げた服からはプスプスと煙りが上がっている。


「この山猿めが!!」


 攻撃を放った魔導師が顔を真っ赤にさせて怒りくるう。


 山猿って私の事?! そっか……私ってまだお猿さんレベルなんだ、早くゴリラになれるように日々の特訓頑張らなくちゃ。

 直ぐさま壁を蹴って宙へ跳ね上がり、今放てるありったけの魔力を短剣に宿して地面に投げ飛ばした。


「みなさんおやすみなさーいっ!」


 パパのような格好いい呪文は浮かばなかったけど、眠れと闇の魔力を短剣を媒体に地面から周囲に伝うように放出させた。

 突き刺さった短剣から蜘蛛の巣のように黒い霧が一面に張り巡らされ、それを踏んだ人達は、一人また一人と膝をついて崩れ落ちた。


 地面に着地してから短剣を引き抜いて周囲の状況を確認する。

 魔導師達の半数は眠ったようだけど、他の魔導師達は眠気に抗うように首を振ったり、顔を叩いたりして意識を保とうとしている。

 私の魔法じゃまだ全員を眠らせるのは無理だ、それに眠った人達もいつ目を覚ますか分からないから急いで逃げなくちゃ。


「メティス! 今のうちに捕まった子ども達を連れて逃げよう!」

「いつの間にそんなに戦えるようになったの……?」


 メティスは開いた口が塞がらないというように驚いている。


「ポジェライトの血筋を引く者としてこれくらいは戦えなくちゃね!」

「いや、というか君ってまだ六歳だよね?」

「ここに居るのが下位の魔導師でよかったね! 下位魔導師は詠唱に時間が掛かるから剣士との相性は悪いから好都合だったよ!」

「戦術まで学んでるし」


 メティスは難しい顔をしつつ、自分の腕に付けられた腕輪を引っ張ってみた。


「魔法が無効化されても大丈夫なように、僕も剣術を習っておいた方がよさそうだ」

「もしかしてその腕輪って魔力封じなの?」

「うん、でもいざとなったら魔力を爆発させればなんとかなるよ」

「いざという時って……」

「ウィズに危機が迫ったらこんなふざけた施設も人間達も皆殺しにす」

「あーーっ!! 捕まった子ども達~! こっちに来て~! 一緒に逃げるよ~~!!」


 メティスの話を遮って生け贄の子ども達を呼ぶ! 聞く耳持っちゃだめ! メティスの今の発言は「魔王としての力を目覚めさせればこんな所すぐに破壊できるよ」という事だ! つまりゲームと同じ展開になるということ。それを阻止しに来たんだから絶対だめ! メティスはどうやら自分が魔王の生まれ変わりだという事を理解してしまっているようだね……。


 私に呼ばれた子ども達がオドオドしつつも素直に近づいてきた来れた事で、そう言えばと疑問が浮かぶ。


「みんなも鎖で捕まってなかった?」

「うん」

「こわかった」

「でもね、おそらからシュンッてなんか飛んで来て外れたよ」


 子ども達が捕まっていた場所を見れば、小刀幾つも地面に突き刺さっていて、それが子ども達を捕らえた鎖を破壊していた。

 さっき、私を捕らえていた鎖も同じように破壊されたようだったけど……誰かが助けてくれた?


「あれを投げた人の姿は見た?」

「ううん、みてない」

「空からぴゅーんって」

「そっか、とありあえずみんなで逃げよう! 私についてきて!」


 深く考えている暇は無い、取りあえず子ども達を連れてどこかに隠れ、王国兵が来る筈の明け方までやり過ごさねばとメティスの手を取って扉に向かって走り出した。


「待ってウィズ、誰か入ってくる」

「え」


 私の手は直ぐにメティスに引き戻されて足を止めた。

 すると、今正に逃げようとしていた扉が開け放たれ、そこから剣や斧を持った複数の傭兵を引き連れたジョネスがにやついた笑いを浮かべながら入って来た。


 ジョネスっ?! そういえば倒れた人達の中に姿が無かった、まさか私が戦っている隙に他の応援を呼びに行っていたって事?!


 じりじりと後退する。魔導師達なら動きが鈍いからまだなんとかなる、でも傭兵や剣士をこの人数相手しながらメティス達を守るとなると正直厳しい。

◇◇◇◇◇


作品を読んでくださりありがとうございます!


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