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悪役令嬢は魔王と婚約して世界を救います!  作者: 水神 水雲
第5章 魔王復活の儀式(6歳)
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42-1 魔王復活の儀式【メティス視点】

「く……」


 頭を殴って気絶させられた後、目が覚めた時には暗く狭い石造りの牢屋に放置されていた。

 ズキズキと痛む頭を押さえながら状況を確認する為に辺りを見回した。

 僕を捕らえている牢屋の左右にはご丁寧に見張りが一人ずついる、全身黒ずくめのローブを着ていて、顔はお面がつけられている。それは黒と赤のみで作られていて、不気味な事に笑っているようにも怒っているようにも見えるそれは人の顔を模したものではないのだろう。本で見たことがある悪魔儀式の時に使用されるお面のそれと酷似している事に嫌な予感が募る。


 そして、自分の両腕にはめられた魔力封じの腕輪に思わず顔が歪む。

 魔力封じの腕輪は主に貴族の罪人に付けられるもので、許可も無く個人が所有する事は禁じられている筈だが、ご大層な事に右腕に三本、左腕には五本も付けられていた。

 これ一つで大抵の魔術師は魔力を封じる事が出来るというのに、僕には八個も付けるとはね。


 これらから推測出来る事は、僕を攫った主犯格の犯人は僕の莫大な魔力量を把握している者、そして僕の利き手が左手であると知っている者という事になる。

 殆ど城から出る事も無く、外部との接触を完全に断っている僕の情報を正しく知る事が出来る人物なんて、城の出入りを許されている上層部の貴族意外考えられない。


「これだから貴族は嫌いなんだ……」


 ぽつりと漏らした呟きに、見張りの男達が気づいて、何やら小声で会話してから一人が牢屋から離れて暗闇に消えて行った。

 僕が目覚めた事に気がついて誰か呼びに行ったんだろうな。

 魔力を放出させて腕輪を破壊しようと試みたが、流石に八個の魔力封じの腕輪を壊す事は出来なかった。魔力を封じられてはポセイドンにも僕がどこにいるのか教える事も出来やしない。


 助けは……まあ、来るだろう。

 信頼しているという意味ではなく、僕の肩書きが国の第二王子である以上役目を全うする為に国王は兵に指示を出して、兵は僕を探すだろうから。

 国の威厳を保つ為、第二王子を誘拐するなんて事態をこのまま許してしまったら貴族達に舐められるだろうし、示しも付かない。

 そして、僕が気絶していた時間は精々数時間位の事だろう。その間にこんなご立派な牢屋に連れてこれるという事は、この場所は王都から限りなく近い場所の何処かという事だ。

 国直属精鋭の魔術師達なら早くて半日、遅くても一日で場所の特定が出来そうなものだが。

 問題はそれまでの時間、僕が無事に生きていられるかという事だろうけど。


「目が覚めたようだなァ」


 暗がりから人の気配が近づいてくる、僕の事を馬鹿にしたような笑い声には聞き覚えがあった。


「ブラッド、だったかな」

「ああ、俺の名前を覚えてくれていて嬉しいねぇ」


 ブラッドは牢に手をかけて、その奥で膝をつく僕を上から見下ろしてくる。


「俺が殺しに行った日はあんなに小さいガキだったってのに、憎らしい程に大きくなりましたね」

「誘拐した奴と楽しく話をする程お気楽な頭はしていないんだけどね」

「お~怖っ、けどそれ位は刃向かって貰わなくちゃこっちとしても面白くない」


 ニタリとブラッドが不気味に笑い、パチンと指を弾いた瞬間、牢の鉄の棒が突然グニャリと折れ曲がり、それは僕の頭目掛けて振りかぶられた。


「ぐあっ?!」


 咄嗟に腕で頭を守ったけれど、鉄の棒で殴り飛ばされた体はそのまま吹き飛ばされて床に転がった。

 なんだ今のは……っ、無機物だったものが突然生き物のように動き出したっ。


「あー……この力がアンタを暗殺しに行った日に持っていればな、アンタの暗殺を失敗する事も無かったのに」


 作り笑いが消え、ブラッドは折れ曲がって大きな穴が開いた牢の先から僕を見下す。


「俺の仲間達は全員孤児だった、生まれた瞬間に親に奴隷商に売られた奴も居れば、攫われてきた奴もいた、外の世界の自由なんて知らずに暗殺組織でみんな今日その日を生きる事でただ精一杯生きていたさ」

「暗殺……組織?」

「そういった組織があるのは珍しい話じゃないだろ? 俺もその組織に拾われて生きたければ命じられた通りにターゲットを殺していた。

俺の居た組織は結構大きな暗殺組織でね、上が容赦ない悪魔のような奴だったお陰で誰も逆らえずに恐怖で支配されて統一が取れていた。

身分の保障も無い、ゴミ以下の扱いを世間から受けている俺達にとって、飯食ってただ一日を生きるという為には、その組織で働き続けるしかなかった」


 ブラッドが話せば話す程、周囲の空気が重苦しく冷えていき、牢を象っていた鉄の棒も蛇のように蠢き出す。


「そんなギリギリの命で生きる中でも信頼する仲間ってのは残酷にも出来ちまうもんでな……学もなく文字も書けないような底辺な奴らだったけど、馬鹿みたいに俺の事を慕ってくれた、それが四年前にお前を殺しに行った俺の仲間達の事だ」


 コイツはなんの話をしているんだと顔が歪む、お前の話なんて興味が無いと言ってしまいたいが、コチラに話す隙など与えずにブラッドは言葉をまくし立てて話し続ける。


「王族の暗殺……失敗など許されない暗殺だった、しかし結果は化け物にお前の暗殺を防がれて失敗に終わった。その後、俺達がどうなったかわかるか?」


 四方から鉄の棒がグニャグニャとウネリながら鞭のように僕に向かって飛んで来た。背中を、腕を、体のいたる所をそれで殴られて抵抗も出来ずに倒れ込んだ。


「殺されたのさ!! 暗殺組織の幹部共にな!! 惨たらしく見せしめだとっ、死体すら返してもらえなかった!!」

「ゲホッ……ゴホッ」

「だから俺は決めた……彼奴らの死に関わった奴等を全員殺して復讐してやるって、俺が!! 全員を殺す!! 暗殺組織もぶっ潰して彼奴らを死にやる最大の要因だったお前も殺してやるってな!!」


 鉄の棒で腹部を殴られて壁際まで吹き飛ばされる、体中が痛い。咳き込んだのと同時に血も吐いた。


「お前を所望する奴の話を聞いた時は利用できると思って手を組んだのさ、流石に王家の警備を一人じゃかいくぐれないからな。協力者がいればお前に死を与えてやれると思った」


 ブラッドはニンマリと口を半月状に曲げて狂気的に笑った。


「この魔力は復讐に存分に役立つ、俺を生み捨てた貴族の野郎もこの力で復讐してやれるかと思うとゾクゾクするね」

「復讐……」


 ああ、目の前のこの男は壊れてしまったんだろう。怒り、悲しみ、憎悪の感情を生きる理由に昇華して人として壊れてしまった。

 僕自身はブラッドの仲間とやらに手を下していない、逆恨みもいい所だ。けれど、そうまで恨まないと己の心を保てず、壊れてしまったという姿には……共感出来た。



「お前も必ず……殺してやるからな」



 血が沸騰する、目を見開きゆらりとブラッドへ顔をあげると、奴は瞬時に青ざめた。


「僕が受けた痛みの何倍も激しい苦痛を味会わせて殺してやるからな」

「おお怖……ッ、アンタはやっぱり魔王復活の傀儡に丁度良い器だよ、まあ俺はそんな馬鹿げた儀式成功するなんて思ってないけどな、アンタは呪いを受けて苦しんで死ぬだけだ」

「それ以上生け贄に傷をつけるのは止めて貰おうか」


 山羊の骨の面を被った大柄の男が現れ、ブラッドの肩を押しやり牢の中へと入って来た。


「ほう……っ! 怒りの感情が昂ぶると瞳が赤く染まるという情報は本物だったようだな! 素晴らしい……これなら第一王子の瞳を供物にせずとも事足りそうだ」


 男に腕を掴んで無理矢理立ち上がらされ、すかさず見張りをしていた男達が僕の体にロープを巻き付けた。


「さあメティス王子! 貴方の類い希なる魔力とその赤き瞳を、魔王復活の礎としましょうぞ!!」


 魔王復活……。


 沸々と沸き上がるどす黒い感情、そして過去に何度も同じ感情を抱き周囲を破壊した過去。


 わかる、それは何故だったのか、自分は本当は何者であるのか。


 何も喋らなくなった僕に巻き付けられたロープを乱雑に引っ張りながらどこかへ連れて行くリーダーであろう男の背を眺めながら馬鹿だなぁと嘲笑う。

 何故コイツが魔王復活を成したいのかは知らない。けれど、偶然か必然なのかお前は正しい判断をしたんだろう。




 魔王の生まれ変わりである僕に、こんなにも憎しみと悪意を心に植え付けたのだから。




 生前魔王であった頃の記憶は今は無い、けれど感情が人への憎しみを覚えている。その感情が僕が魔王の生まれ変わりであると教えてくれている。

 変わらない、人はどうしてこうも変わらない?

 他者を蔑み痛めつけ自分の私腹を肥やして笑う事しか何故出来ない?

 何故何度も何度も何度も何度も、僕を苦しめ続けてくるのだろうか。

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