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プロローグ『体験型オンラインRPG』

こんにちは、Monicaです。もとい、まだ『呼びくら』が完結してもいないのに新作投稿した大馬鹿です。

楽しんで頂けたら幸いです。



ログインしますか?

はい/いいえ



「ね…ねぇ!黒宮さん!」


放課後、とある高校の教室。三つ編みお下げの女子生徒が、ある女子生徒に声をかけた。


「………何?」


『黒宮さん』と呼ばれた女子生徒は、腰に届きそうなほど長い黒髪を揺らしながら振り返った。目つきは鋭く、温度で例えるなら氷点下といったところか。先程の「何?」も「なにー?」ではなく「ナニ」と言った感じである。


「あ、あの…このストラップ、落とさなかったかなって…あっ⁉︎」


三つ編みの女子生徒がおずおずと差し出したストラップを見るなり顔色を変え、ストラップを強引に奪い取った。


「く、黒宮さんの…?よかった…」


黒宮はストラップを大事そうにリュックにしまう。どうやら紐が切れたらしく、紐を付け替えないといけない様であった。

瞬時に奪い取ったので、そのストラップがどの様なデザインかは、黒宮と三つ編みの女子生徒しか知り得ない。


「………り……と」

「へっ?」


黒宮はボソボソと何か呟いた様であったが、あまりに声量が小さかったため、何を言っているのかわからなかった。

三つ編みの女子生徒が戸惑っている間に、黒宮はリュックを背負い、足早に教室を出て行く。


「行っちゃった…」


置いていかれた三つ編みの女子生徒は、哀しげな顔で呆然としている。


「何アレ、ひっど。せっかく菫が拾ってくれたのにさ」

「宇崎に礼ぐらい言えよな。ほんっと、感じ悪りぃ」

「菫、あんなの気にすることないからね!」


「う、うん…」


周りにいた女子生徒と男子生徒が黒宮に悪態をつきながら、三つ編みの女子生徒───『宇崎(うざき)(すみれ)』のフォローにまわる。

だが、菫は黒宮を悪く思っていない。寧ろ、仲良くなりたいと思った。それは、先程のストラップが原因である。


(あのストラップ…『亡国の女神』のエリス・シャリテ・マルヴァジータの紋章と槍だよね…もしかして黒宮さん、エリスちゃん推しなのかな…)




✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎



黒宮は地下鉄に乗り、ある駅で降りる。少し歩くと、大きなアパートが見えた。家賃こそ高いが部屋は広く、防音性も高くて非常に住みやすいと、この辺一帯ではかなりの高評価を得ている。彼女はそこに入っていった。無論、彼女がこのアパートの住人だからである。


階段を登り、あるドアの前で立ち止まる。リュックから鍵を取り出し、ドアを開け家の中へと入っていった。


「あ、璃瑛。お帰り」

「……ん」


家に入ると、母親が出迎えた。今日は仕事が早く終わったのだと───『黒宮璃瑛(くろみやりえ)』は納得した。


「新しくおやつ買っといたよ。璃瑛の好きなチョコブラウニーだから」

「…あんがと」


璃瑛はリュックを下ろし、素っ気無く答える。


「どしたの璃瑛、なんか元気無いね?」

「…なんでもないよ、それよかお父さんは?」

「お父さん歯医者行くから遅れるっつってたよ。どうしてもこの時間しか予約取れなかったんだって」

「……そう」


父の所在を確認すると、璃瑛はリュックを持って自分の部屋へ向かった。


「やっぱり元気無いよねぇ…なんかあったんかな」


璃瑛の母、『黒宮沙耶香(さやか)』は娘を心配そうに見つめていた。



✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎


「はあー…」


制服を脱ぎ、部屋着に着替えて布団に倒れ込む。布団がボスッ、と音を立てた。溜息を吐くと、突然──


「あーもうバレた!絶対バレた!『亡国の女神』のエリス推しって絶対バレた!あのゲーム神ゲーすぎて知らない人殆どいないくらいだから絶対バレてる!少なくとも宇崎さんには絶対にバレてる!最悪なんだけどもぉぉぉ‼︎ゲームやアニメや漫画のキャラにウハウハしてるだけの限界オタクコミュ障陰キャって絶対にバレたじゃんはっっず‼︎」


──顔を手で覆い布団の上をバタバタ転がりながら早口で上記の言葉を口にした。


「はー…もう絶対嫌われるじゃん…ただでさえ嫌われてんのに余計に嫌われんじゃん…コミュ障だから上手く反応できないだけなのに」


そう、璃瑛はクラス内における爪弾き者だった。話しかけても喋ろうとしない、睨んでくる、落とし物を拾ったのに礼も言わない、など。璃瑛の評判はかなり悪い。


実のところ、コミュニケーション障害(縮めてコミュ障)を患っており、特定の人間の前でしか流暢に話せないと言う事情があった。しかも元々つり目気味であったため、真顔でも睨んでいると思われるのである。


「…まいっか。私には璃花がいればいーもんね」


そう呟くとリュックからスマホを取り出し、電源をオンにした。あるアプリを起動する。


〔璃花今日風邪ひいて休みって聞いたけどもう大丈夫?〕


メッセージアプリで璃花に送信した。璃瑛と同じクラスの『白石(しらいし)璃花(りか)』は、璃瑛が家族以外で全幅の信頼をおける、唯一の人間である。

有り体に言えば、『親友』だ。

幼馴染であり、2人とも名前に『璃』の字が入っている、家が近い、同じゲーム好きなどと言う共通点が数多くあれば、親友になるのは必然である。


1分と少しした後、璃花から返信が来た。


〔もう大丈夫だよ!心配かけてごめん!〕


その璃花だが、今日は風邪をひいていて休みだったのだ。璃瑛はいつも璃花と行動する。璃花以外に信頼できる人間が学校にはいないからだ。と言うか、璃瑛が避けずとも向こうから避けてくる。

璃花がいないと、必然的に璃瑛は学校では1人なのだ。


しかし、璃瑛はそのことを全く苦には思っていない。例え璃花が学校にいなくとも、『自分には璃花がいる』。そう思うだけで学校へ行く気になる。小学生の時にいじめられたことがあったが、それでも死にたいとは考えなかったし、不登校という道を選ぶこともなかった。それは(ひとえ)に、『璃花がいたから』それだけである。


一人は楽だ。ただし、独りは嫌だ。璃瑛はいつでもその様なことを考えていた。


〔璃瑛といれなくてごめんね!学校でなんか言われてなかった?〕

〔特になんも無いよ。ありがとう〕


嘘である。落としたストラップを拾ってくれた宇崎を庇ったクラスメイトから悪態をつかれた。しかし、璃瑛にとってはそんなもの瑣末なことである。

璃瑛の目下の悩みは、『クラスの人からさらに嫌われる』と、『宇崎さんに失礼な態度をとってしまった』なのだ。


〔話は変わるんだけどさ、璃瑛は体験型オンラインRPGって知ってる?〕

〔え何それ〕


急に璃花が知らない単語を出してきた。


〔ほら、最近は結構技術進んでるじゃん?だからね、体験型オンラインRPGってのにどの企業も手出してんのよ〕

〔今までのRPGゲームとは違って、ストーリーとかは無いの。ファンタジーの世界に入って、自分がどんな武器を使うかとか決めて、魔物を倒してレベルを上げる〕

〔ここまでは今までのゲームと同じなんだけど、『体験型』ってところがキモでね〕

〔ゲームを起動すると、まるで自分がゲームの世界に入り込んだみたいになるの。武器で魔物を倒していく感覚も、ダメージを受けた感覚も、全部本物なのよ〕


〔マジで⁉︎何それすご!〕


璃花は『体験型オンラインRPG』について説明していく。まるでゲームの世界に入り込んでいるかの様だというその話に、ゲーマーの璃瑛は大変興味をそそられた。


「え、え何それやってみてぇ!すんげぇ楽しそうなんだけど!」

〔めっちゃ面白そうじゃん!〕


興奮した声で感想を述べながらも、凄まじい速度で文字を打ち込んで送信した。


〔でしょ⁉︎感覚もそのまま伝わるとか凄くない⁉︎〕


〔あ、でもそれってどうなの?ゲーム内でダメージ受けたら現実世界でも影響受けんじゃないの?〕


〔そこは大丈夫。ゲーム内で腕切られたりしても現実では無傷だし〕

〔それにゲーム内で死んだら強制的にログアウトする様になってるんだ〕

〔ゲーム内での痛みは現実には持ち越されないから、例えゲーム内で死んだとしてもその痛みはすぐに無くなってるよ〕


〔成る程ねーだったらだいじょぶそうかな〕


〔だよね!璃瑛もやってみなよ!ゲーマーとしてやらないわけにはいかないでしょ!おすすめは『コスモファンタジア』ってゲームだからね〕


〔コスモファンタジアね、おk〕

〔さんきゅ〕


璃花から可愛らしいスタンプが送られてきたところでスマホを閉じた。


「『コスモファンタジア』かー…お父さんに買ってもらえないか頼んでみよ」


そう呟くと、漫画を読み始めた。

暫くすると母から晩ご飯の時間だと言われ、リビングへと向かう。


「ねーお父さん」


箸で唐揚げをつまみながら、璃瑛は父に尋ねた。


「ん?どうした」

「欲しいものがあんだけどさー」

「お、璃瑛が俺におねだりは珍しいな。なした?何が欲しい?」


欲しいものがあると父にねだる。普段璃瑛は父に物をねだったりしない。それが珍しいのか、父『黒宮龍樹(たつき)』は少し目を見開いて、何が欲しいのか聞いた。


「『コスモファンタジア』ってゲームが欲しいんだよね」

「『コスモファンタジア』?それって今流行りの体験型オンラインRPGの1種か?」

「うん。璃花がおすすめしてくれたから、遊んでみたくて」


璃瑛は家族の前でも言葉少なだ。ただしそれも、自分の好きなゲームと漫画とアニメの話が絡まない限りはと言う注意書きが付くが。

故に、唐揚げを白米に乗せたまま夢中になって話すということはなく、黙々と食べ進めながら話していた。


「何それゲーム?面白いの?」

「面白そうだからやってみたくて。なんか流行ってるらしいから」


沙耶香はゲームや流行りの写真の撮り方など、所謂『若者事情』には疎い。ただし、話題のスイーツとなると話は別だ。ことスイーツに関して沙耶香はアフリカゾウも顔負けの嗅覚を発揮するのである。


閑話休題。


「よし、今度給料日だからそん時に買ってやろう」

「ありがとう、お父さん!」


少し嬉しそうに礼を述べる璃瑛。両親からするとこれは『かなりテンションが高い』の部類に入る。

側から見ると『ちょこっとだけテンション高い』なのだが。



✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎



就寝準備を済ませ、布団に寝転がってスマホを覗く。これは最早ルーティンの様な物だ。オタクには自然とスマホやらパソコンやらを覗き込む癖がつくのである。母方の祖父母はスマホ依存症を心配しているようだが、その様なことは全くない。

何故なら学校にいる時はスマホを一切使えないが、それでも平常心を保てているからである。


だと言うのに祖父母の家に訪れた際スマホを触ろうものならすぐに口うるさく注意される。

璃瑛からしてそれは『うざい』と言わざるを得ない。両親は普通に慕っているが、母方の祖父母に関しては全く信頼をおけていない。祖父に関しては完全に嫌っている。ロングヘアが好きだから髪を伸ばしているだけなのに『寝る時以外は束ねなさい』と言ってくるからだ。食事に髪の毛がつかない様注意を払っているし、常に髪の毛を縛っていると頭が痛くなってくると言う、立派な事情がある。

まさか、未だに『男は坊主、女はお下げ』だなんて言う考えがあるんじゃないだろうな。

璃瑛は祖父に言われるたびそう思うのだ。


「コスモファンタジア…めっちゃ楽しみになってきたな」


祖父母のことは頭から締め出す。代わりに頭の中は、『コスモファンタジア』でいっぱいだった。

スマホの検索欄で《コスモファンタジア 職業》と検索する。

するとまあ、出るわ出るわ役割の数々。


「すご…『剣士』ってだけでもいっぱいいる。片手剣、短剣、両手剣…あー成る程、二刀流もありか」


画面をスクロールしていくと、ある職業に目が止まった。

『ダークメイジ』。日本語で言うなら『闇魔法使い』と言ったところだろうか。


「『ダークメイジ』…?っ⁉︎え⁉︎攻撃内容がほぼエリスじゃん‼︎何これカッケェ‼︎」


璃瑛が興奮した声を上げる。それもそのはず、彼女の推しキャラと攻撃内容が似通っていたのだ。


内容としては、扱う魔法属性は闇オンリー。闇の渦で攻撃したり、魔物を使役したり、死者を蘇らせ自らの部下としたり、自分や相手の影を具現化させて武器にするなど、様々な攻撃方法があった。


「えっえっ決めた!私絶対この『ダークメイジ』になる!『闇魔法使い』ってな感じかな?決めた!はい確定!何としても闇魔法使いになる!推しのエリスになりきってみる‼︎」


推しキャラのなりきりと言う、璃瑛の憧れの1つ。それを成し遂げた暁には、推しをもっと推せる様になっている、『エリス・シャリテ・マルヴァジータ』をもっと良く理解できる筈だと、今から胸の高鳴りが抑えられなかった。



アフリカ像の嗅覚は人間のおよそ5倍だそうです。すごいですね。


『亡国の女神』

ダークファンタジーゲーム。

主人公は女神。代々技術力が著しく発展している大国

『テオス・パラディン』を守護してきた一族に生まれる。先代である母・アフロディーテと自らの快楽のために幾つもの国を滅ぼして来た災の女神エリスが争い、アフロディーテが敗れる。そのせいでテオス・パラディンは崩壊し、今までに幾つもの国がエリスの手によって滅んでいるので、実質世界が崩壊している。

そんな中母アフロディーテが最後の抵抗で守り、生まれたまだ幼い女神『アナスタシア』が母の愛する国、ひいては世界を立て直し、エリスに挑む物語。RPG戦闘シーンと建国シーンが交互に進む。

美麗なグラフィックと本格的な戦闘シーン、ストーリー性が非常に高く評価されている。

架空のゲーム。

ネットでは『アナスタシアちゃんマジ聖神』

『主人公が女神女神してる』

『主人公が泣けるくらい良い娘』と評される。


『エリス・シャリテ・マルヴァジータ』

『亡国の女神』におけるラスボス。

別名《災禍の女神》。

アナスタシアの母アフロディーテをアナスタシアの見ている前で殺し母娘の反応を見て楽しむと言うドSを超越したドS。

しかも炎を纏わせた槍で何度も刺し、十字架に磔にすると言うトンデモな行い。

ファンからは『極悪非道ラスボス女神』と呼ばれる。

しかしその悲しくガチで重たい過去にプレーヤーは涙を禁じ得なかった。かなり人気が高い。璃瑛も推してる。


エリス→ギリシア神話における不和と争いの女神。

    殺戮の女神『エニューオー』と同一視される。


シャリテ→フランス語で『慈悲』を意味する。作者がつけた


マルヴァジータ→イタリア語で『邪悪』を意味する

        『マルヴァジタ』より。これも作者が(ry

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