対象護衛任務その2
ディードを出たリヒテン一行は、順当にカサッカへと続く道を進み続けていた。
「うぅ………」
「ん?」
ネーナはうめき声が聞こえたので、聞こえた方を見ると奴隷の子が、苦しそうに辛そうに歩いていた。足元もおぼつかない状態で、重い荷物を運んでいる姿を見ていて放っておけなかった。
(パサーしてもバレないよね?)
ネーナは、4人に渡したブローチを返して、その身に余る魔法力を結界にいる奴隷の子達に闘気へと還元し流し込んだ。
少しではあるが顔に生気が戻り重い足取りも少し軽くなった。
もちろん、商隊長や団長のリヒテンはすぐに気づいたが、知らないフリをしそのまま歩を進めた。
しかし、カサッカまで残り2kmという所まで来たとき問題は起きた。
橋が壊れて修繕工事の真っ最中だったのだ、作業員曰く先日反体制派と治安部隊と衝突があり、その戦闘でこの橋が破壊されたと言う。さらには、橋の橋脚から治さないと行けないため後2週間はかかるという。
リヒテンと商隊長は、ここより6km南にある橋を渡る事に決め迂回しカサッカを目指す事にした。
団員や商隊にもそれが伝えられ一同は、南下を始めた。途中までは良好な道が続いていたが段々と泥濘るんだ足場となってきた。
「団長、観測士より報告あります。多分もう時期雨が降ると思いますので近くで雨宿りをする事を提案します。」
「うっそだろ〜!?はぁ………商隊長と話してくる。魔法使い達は、近くに洞窟があるかどうか広範囲の探知魔法で調べてくれ。」
5人の魔法使い達は、広範囲の探知魔法を使い近くに洞窟がある事をリヒテンに報告した。団長の方も話はついたようで、生物じゃないから多少遅れても平気との事だ。
「よし!全員その近くの洞窟に移動せよ〜」
リヒテンは、号令を飛ばすと全員が洞窟目指して歩き始めた。程なくして洞窟に荷物を優先的に運び込むと、空が轟音を響かせシトシトと雨が降り始めた。
「私はこれから、商隊長と話をするから全員休んでいてくれ。解散!」
ダラダラと岩に腰掛ける物や、道具を整理する者、簡易的な寝袋を作り仮眠を取る者それぞれ休み始めた。
もちろんネーナも例にもれず、岩を柔らかく変化させ仮眠を取ろうとしたが、カーロで声を掛けてきた少女に話しかけられてしまった。
「自己紹介まだだったね、私はジャンヌ・タークよ貴方と同じ魔法使いね」
「私はネーナって言いますわ、以後お見知りおきを。」
軽く会釈をし、少しお話をした。
彼女は、カレリア共和国というこれまたネーナの祖国ザンツワーグ王国の隣国で革命で成った国だった。彼女は圧政に苦しむ民を助けるために、革命に参加し成功したのだが、新しい政府も同じ道を進んだ為国を出たと言う。
「ネーナさんも、国外逃亡ですか?」
「そうですわね。」
(元貴族の令嬢と、知られる訳には行きませんわ)と内心思った。と言うのも元貴族の令嬢という肩書きだけで、五万ネブルと言う高額で取引されている為、生け捕りを狙う人間が後を絶たない。
しかし、正体を隠していても仕草などでバレるケースも多々ある為、ネーナは細心の注意を払って生活する事になってしまっているのだ。
「奴隷なんか無くなればいいのにね」
「ですね、貴族の連中は楽だろうけど、扱き使われる方は溜まったもんじゃないでしょうしね。」
ジャンヌの返答はネーナにとっては耳の痛い言葉だった。
雨の降る音が洞窟に響き渡る中、二人は柔らかくした岩に寄りかかり、眠りについた。そして程なくして二人は、巨漢の大男に起こされ周囲を見回した。どうやら雨が上がり、皆出発の支度をし始めている。
「気持ち良く寝ているから起こすか襲うか悩んでしまったぞ?寝顔が可愛いもんだからな………ブベッ!」
「だったらさっさと起さんかい!」
180cmはあろう大男をネーナは蹴り飛ばしてしまった。周囲にいた団員達は目を丸くし驚いているが、気にせず笑いながら「少女の前でそんな事言うもんじゃありませんわ。」と静かに言い手を貸した。
「オメェ、魔法使いの癖にかなりの一撃繰り出せんのな!?闘気硬化してなかったらやばかったぞ!?」
「私は、マジカルランサーなんです!舐めないでください!」
急いで、ネーナとジャンヌは支度をすると外で隊列を組み直していた為持ち場に付き、南下を続けた。
暫くして橋が見えてくると、リヒテンはラッパを吹き鳴らして、黒煙の柱を上げているのだがこれは、隊列変更の合図で黒煙は、縦列縦隊と呼ばれる隊形に変える合図でもある。
さらに、ラッパを加える事で細かい指示を飛ばす事ができるが、ネーナは分からないので隣の弓騎兵に聞くと、先行して渡る部隊と後から渡る部隊で分け、商隊の橋渡りを終えてから動くと言う。
もうすでに前衛部隊は渡り終えており、配置についていたのでネーナ達の後方部隊も橋の両脇に陣を敷き商隊の橋渡りを見守った。
何事も無く商隊は、橋を渡り終え後に続くようにネーナ達後方部隊も渡り終えると、再び輪形陣に隊を編成しカサッカを目指した。
途中で休息を取ったからだろう、予定よりも少し遅れたとはいえ問題なくカサッカに到着し、リヒテンは任務報告の為ギルドへと馬を走らせた。
しかし、昔のイメージのあるネーナは町並みの変わりように驚いていると言うのもここカサッカは少し前まで汚物の街として知られており、ここに来ると1ヶ月はトイレの臭いが取れないと言われる程不衛生な街だった。
イストル帝国が治めるようになってからは、トイレの様な街だったカサッカは今や東部でも指折りの貿易都市として名を馳せている。
「これが………カサッカ!?噂とは大違いじゃない!」
「私もここに来るのは初めてだけどほんとにそうね!」
スフィア世界では一部の街にしか無かったショーウィンドウや硝子張りの建物を初めとして、汚物町と言われていたかつての面影はどこにもなかった。
「この依頼が終わったら、買い物でもしようかしらん。」
ネーナとジャンヌが話していると、リヒテンが戻って来た。どうやら普通の報酬金に加え、商隊長からもまとまった額を貰ったらしい。合わせた金額はなんと50万ネブルと言う大金だった。
「お〜い!全員集合!報酬の山分けだ〜!全員にかなりの金額を出せるぞ〜てめぇら集まれ!!」
リヒテン団に所属する傭兵たちは雑に集まると報酬を次々と受け取るが、更に驚いたのは日当分も上乗せされていると言う事である。
これはかなりレアな事見たいで、貰った同僚は「はぁ!?俺この団に居座るわ!日当分も上乗せとかなかなか無いぜ!」と声を張り上げ飛び上がり喜んでいた。
ネーナも、報酬を受け取ると元遺族である彼女ですらその金額に驚き口を開けたほどだ。
「えええええ!?一万ネブル!?たしか報酬の分配が七千ネブルだからえ?日当分も上乗せなの!?」
元遺族の令嬢のこの娘ですら、年末の水龍祭の時にもらえる祭金ですら五千ネブルなので、その金額に固まっていたところ、肩を叩かれびっくりして振り向くとジャンヌがいた。
「団長が少しの間ここに滞在するって!だから遊びに行きましょ?」
「うん!」
この娘ジャンヌは見た目は少女だが年齢は67歳と年齢は上だがエルフの中では若く、人間に当てはめると十代後半に相当するので息もあったのだろう。二人は早速、カサッカの街を見て回った。
大通りに面した、硝子は日光を跳ね返し飾られている品物を輝かせている。
「まずは、防具よね!いい店があるかしら……」
「………あっ……いい店見っけたよ……」
「どこ?」
ネーナは見知った名前の店屋を見つけて少し戸惑ったがジャンヌを案内した。店の看板には、[帝商RX]と書かれており真新しい店屋に気になり中に入っていく。
「うい〜いらっしゃい!何にするか………ネーナ!?」
「やっぱりアンタか!アレックス!」
予想通りで少し頭を抱えたが、少し考えた後閃き、横に居たジャンヌに「リヒテン団長と傭兵団の皆集めてもらえる?」と言った。
アレックスはイヤな予感がして奥に逃げようとしたが、こういう時は逃げられない事を思い出し諦め苦笑いをした。




