その7
報酬は金貨10枚。それでもFランクの仕事としては破格だったと思う。
この世界の通貨価値は、以下のようになるのではないと推測する。
銅貨1枚 100~200円
銀貨1枚 1000~2000円
金貨1枚 10000~20000円
1食は銅貨1枚~2枚。宿1泊で銀貨2枚ほど。
土地も家も無いので食べ物を生産する事ができない。加えて家がないので宿泊費も必要になってしまう。
冒険者ギルドのFランク報酬では、宿に泊まる生活はできないのだ。もう野宿でいいんじゃないのか・・?
同じ状況の人々はかなり多いのだろう。町の壁の外や街中の路上で一晩を明かす人を多く見かけるからだ。
この人たちが食べ物に困っているのであれば犯罪が起きるであろう。治安も悪くなる。
こちらの世界にきて風呂に入ったことはない。大多数は井戸の水で体を洗ったり、川で水浴びで済ませるのである。さっぱりするが疲れは全然取れません。
風呂に入るための道のりは険しい。近くに川、湧き水といった豊富な水源があること。なければ水路で水を引いてくる必要があるが個人では難しい。それに加えて食べる事、生活出来る事が前提条件なのだ。食べ物に困ってたら風呂どころじゃないからね。
「ふ~。さっぱりした。」
さらに人気のない場所へ移動する。
そろそろスキルポイント割り振らないと。未振りのスキルポイントが溜まってきたのだ。
ゲーム内ではスキルツリー式で目的のスキルを取得するためには、そこまでに到達するまでに必要なすべてのスキルを取得しなければならない。
目的のスキルまでの不要なスキルには1ポイントだけ振って目的のスキルレベルを上げるのが一般的だ。しかしアップデートによりスキルの相乗効果が追加され一変した。
不要スキルにポイントを振ると、目的のスキルの威力や効果が上がるのである。これにより、複数系統を使うキャラは見かけなくなり、1系統を極めた特化キャラが主体となったのである。
やっぱり特化かな・・・。
サンダーショック、ライトニング、サンダーレイン・・・雷魔法を伸ばしていく。
移動スキルが欲しい。最短で取れるスキルはシャドウムーブである。シャドウバインド、バックスタブ、シャドウムーブっと。
取得済みのスキルはソードマスタリー、サンダー、ライトヒールである。
覚えたスキルの試し打ちをする。
サンダーショック ダメージ微。麻痺効果有り。
ライトニング 一直線に貫通力がある雷撃を飛ばす。サンダーよりも高威力。
サンダーレイン 広範囲にサンダーが降り注ぐ。
シャドウバインド 鎖で縛り行動を阻害する。
バックスタブ 一瞬で背後を取るスキル。
シャドウムーブ 移動スキル。
目的のシャドウムーブの使用感を確認する。ゲームでは1画面内の任意の目標に移動するスキルであった。
視覚的なエフェクトとしてもゲームと同じで自身が黒い霧状になり移動をはじめて移動中は完全に消える。移動先で黒い霧状から実体に戻るイメージだ。消えている最中はヒット判定が無いが、霧状中は無防備なのも同じであろう。
なぜ、こんな話をするかって?対人戦で必須だったからだよ。移動先を予測して攻撃とかよくやりました。
「おい、お前起きろ。」
「んあ・・・?。」
「おい、そこはわしがいつも寝ている場所だ。」
身なりがしっかりしていない50才くらいの男性だ。どうやらここはホームレスの方の縄張りだったようである。
上方には建物の屋根があり少しくらいの雨ならしのげそうで、全方向からではないが風を遮断できるポイントだ。
異世界生活一か月ほど経過した現在、ついに路上生活をはじめたわけであるが、まさか縄張りがあるとは思わなかった。
言っておくけど、お金がないからじゃないよ。そこまで落ちてないから!あくまで一週間ほどの野営で慣れたからである。
「知らなくって。」
「ん?女の声か?ちょっと顔を見せてみろ。」
ローブのフードを下ろして顔を見せる。
「ほう。可愛らしい嬢ちゃんだな。」
「・・・。」
「こんな所で寝てたら命がいくつあっても足りないぜ。今日はまあいい。次からは安全な他で休むんだな。」
「おじさんこそなんでこんな所に?」
「だいぶ前の戦いで腕をやられてしまってな。それ以降は働けなくなってこの生活よ。」
だいぶ昔に負傷した大きな傷がある。腕の筋をやられたのか指を動かせないようだ。
・・・。
回復魔法で何とかならないのだろうか。やってみる価値があるかもしれない。
「ちょっと見せて、回復魔法で治せるかもしれない。」
そういって腕を取りライトヒールをかける。
「ほう・・。嬢ちゃん、回復魔法が使えるのか。」
「どう・・?」
「温かい。いい気分だ。」
それ、光だから温かく感じるんです。
「どう?動かせる?」
「う、なんというか、少し動かせたかもしれん。」
魔力を込めて10分くらいライトヒールをかけ続けた。
・・・。
「おお!動くぞ、ほんの少しだが動かせるようになった。」
これ以上魔法を重ね掛けしてもここまでが限界だろう。あとはリハビリというか個人の努力で動かせるようになるかもしれない。動くようになる確証は無いがやらなければ可能性はゼロである。
「これからは毎日動かし続ければきっと動くように・・・。」
「おお、ありがとう。頑張ってみるぞ。」
「嬢ちゃんは、教会の神官か何かか?」
「いえ、冒険者です。」
「若いのにこれだけの魔法が使えたら引く手数多だろうに。」
・・・。
その後は、色々な話を聞かせてもらった。役に立つかは分からないがこの世界の一般常識がかけているのだ。
そうこうしてると辺りが明るくなってくる。朝チュンだ。朝食だ。とは言っても、この面子では美味しいものの期待は絶望的である。ストレージにウルフの肉があるので提供することにした。
誘導されるがまま開けた場所に移動して料理をしていると周辺から匂いを嗅ぎつけたのか人だかりになっていた。子供も何人かいるし。こうなってしまうとみんなに振舞う流れに。もちろん手伝ってもらうから。働かざる者食うべからずである。
冒険者ギルドへ向かう。
ランクを上げて上位の依頼を受けたいからである。
うーん・・・。相変わらずの依頼内容である。半分以上が雑務系で、草取り、清掃、荷物運び、訪ね人探し・・・。魔物の危険が下がる地域ほど、この様な生活密集型の依頼が多くなってくるのだ。レ
ベルも上がらないし討伐系の依頼と比べると魅力が低い。
高ランクの依頼を見ると、どこかの町でXXXX討伐といったような依頼が多い。XXXX町でXXXX募集。この町じゃないのかよ・・・。
周辺の魔物の間引きの依頼だ。これを複数受けよう。受けれるだけ手に取った。受付へ。
「これお願いします。」
「初めての方ですね。失礼ですがギルドカードを見せてください。」
「Fランクのレイン様ですね。」
依頼を見てチェックしている・・・。
「レイン様の実績からするとこの辺りが適切かと・・・。」
「そちらは何でダメなんですか?」
「こちらは少々危険でして外させて頂きました。たくさん受けて早くランクを上げたいのは分かりますが、命を落としてしまっては元もこうもないですから。」
「・・・。」
うん、正論。その通りである。ただ、いい感じはしないね。
「あの・・。実力不足って言ってるわけではありませんから。」
「この依頼、たくさん討伐したらその分達成になるの?」
「はい、なります。」
「じゃ、これとこれとこれクエスト追加でお願いします。」
「了解したしました。」
「あと、このリザードとワイバーンは何処にいるんですか?」
「リザードは南へ2日程進んだ岩場に多くいます。ワイバーンは3日程かかる岩山に・・・。」
「わかった。ありがとう。」
「おいおい、お嬢ちゃん、受付け困らせちゃダメだよ。ワハハは。」
昼間っからお酒飲んでるオッサンめ。酔っ払いを相手にしてもいいこと無しである。
「ちょっとこっち来てお酒の相手してくれないか?
「・・・。」
依頼受けたしもう出よう。この辺り冷静でいられるのは耐性装備のお蔭かもしれない。
「おい、嬢ちゃん、無視すんなよ。」
「この状況で攻撃しても正当防衛だよね?」
「いえ。喧嘩両成敗になります。」
・・・うん。メンドクサイね。
「シャドウムーブ。」
突然、目の前から消えたので、あれ、相当酔いすぎたかなって顔をしている。