その6
何やら騒がしくて目が覚めた。
「ワイルドベアーよ。高値がつくわ。」
「ここは森の中だぞ。こんな量持っていけないだろう。」
「そこをなんとか。せめて毛皮だけでも。」
「わたしからもお願いします。商人としてこんな好機見逃したくありません。」
昨日はあんなことがあったのにユーリさんも元気そうだ。
それにしても結構でかかったんだな。3mくらいのクマが倒れている。何百キロもありそうである。
「そのクマ運びましょうか。収納スキルで。ほら。」
「「!!」」
「収納スキルですって!?」
「商人にとって夢のスキルですぞ!わたしもマジックバックを持ってますが容量が大きな物でなくてこのサイズが収まるなんて羨ましいですぞ。」
「この傷だってレインちゃんが治してくれたんでしょ?」
「その・・・庇ってくれたし・・。」
そうなのだ。昨夜の件について疑問に思ったことがある。赤の他人である俺をユーリさんが身を挺して守ってくれたことである。これはパーティー登録効果ではなかろうか・・・。もちろんそういうタイプの人間がいないと否定できないがあまりにも出来過ぎている。
ゲーム内ではパーティー組むと範囲系の補助スキルや魔法の恩恵を受けてられ全員が強化される等の効果はあった。もしも、パーティー登録に今回ような効果があるとすると今後も同じような行動をとられる可能性がある。それはそれで厄介だ。
「回復魔法と指輪の効果です。指輪には回復効果の魔力が込められています。よかったら使って下さい。」
「いいのか!?」
「いいのですか!?」
「ええ。」
一瞬で奪われました・・・。まあいいけどね。高価な物ではないし。
「このような貴重なマジックアイテムを・・・。」
「この指輪は回復効果だったのね。」
みんな指輪をうっとりと眺めている。気に入ってくれたようで良かった。
本日も森の中を行軍中だ。
「あれは?」
「ウインドバードだな。風の魔法を使う。先制で倒せなければ厄介だな。ユーリできるか?」
「任せて。」
そういうと、ウインドバードに向けて矢を放った。
お見事。
「この羽は良い素材になるの。例えば、この矢の羽に使うと、風切り音も少なくなって矢の威力も上がるわ。」
「へぇー。」
「ふう・・。やっと森を抜けましたな。」
「やったわ。これで一先ずは安心ね。」
「おい、まだ完了したわけじゃない。最後まで気を抜くなよ。」
「森から離れたら少し休憩しましょう。」
「そうね。お茶にしましょ。」
「ふう・・。生き返るわ~。」
レザーアーマーなのか皮製の胴当てとでも言うべきか、装備を外して寛ぐ姿がちょっと色っぽい。
「それにしてもレインちゃん。疲れた素振り見せなかったわね。なにかのスキルかしら?」
近い・・・。なんと返事してよいものか。
「ずるいわね・・・。普通はあんな所を一日中歩いたら疲れるものよ。」
「秘密。」
これでも年頃の女の子だ。秘密の1つや2つあって当たり前なのだ。
「ユーリ、あんまりレインを苛めるなって。」
「ところで、この魔剣なんだがそろそろ返した方がいいか?」
「ユーリさんに助けてもらったし、それにこちらも色々と勉強させてもらいました。受け取って下さい。口止め料も含まれてます。」「い、いいのか?」
ここは恩を売っておいた方がいいだろう。
実際は魔剣で無くて攻撃力+35、雷属性で低確率麻痺効果を与える剣である。
「ええ。新しい剣がありますから。」
腰に掛けてる剣をチラリと見せた。
「そんなことよりも、そろそろ出発しましょ。」
「そ、そうだな。」
翌日の午前中にアルトライトに到着した。
周囲の壁も結構な高さで大きそうな町だ。
中に入ろうと列に並んでいる。すんなりと入れました。
冒険者ギルドに行って護衛任務の報告を行う。討伐した魔物の買取りをしてもらう。
アレフさんは別行動で荷物を届けた後、冒険者ギルドに立ち寄ってくれるそうだ。ギルドを介してない依頼なのでアレフさんから直接報酬を受け取る。
素材の売却と分配について、ウルフは売却、ウインドバードは素材として引き取り、ワイルドベアーは人数分で分配すると小さな毛皮になってしまう。ある程度の大きさがあって価値が出るのだ。そういった経緯があり今回は魔石が出たので毛皮や他の部位は貰わず魔石を頂くことにした。
「レインちゃんはこれからどうするの?」
「しばらくは町に滞在してランクを上げる予定。」
「そう・・・、私達もしばらくは居るから何かあったらよろしくね。」
「それじゃ、ありがとうございました。近くの川で体洗ってきます。」
昼間だけど、堂々と洗うさ。マップあるし。
ん?パーティーか・・・。解除。
それにしてもレインちゃんか。得体の知れない子だったわね。まだ幼くて常識知らずな所が多くて厳しい護衛の任務だものダメそうだったら森に入るまでに帰そうかと思ったりもしたわ。
しかし、あの魔法。魔法を使っても疲れた様子が無かった。ええ、そもそも森の中でも疲れた素振りを1度も見せなかったわ。お蔭で疲れたから休もうって言い出せない程に・・・。
そして、ずいぶんと綺麗な身なりで。剣だってそう。なにかのレプリカの剣かと思っていたわ。だって指を見る限り細くて綺麗で剣なんて握った事もないと断言できるわ。
でも何日か一緒してわかったの。あれは、ただ見た目が綺麗な装備なんかじゃない。すべてマジックアイテムよ。全身がそう。そして確信に変わったのがロイドが貰った剣とこの指輪の事件ね。あーもう、なんなのあの子は・・・。